言葉とは、世界を区切っていくもの
雲のなまえ
「言葉とは、世界を区切っていくもの」と、あるひとは言った。
たとえば、「雲」と名前のつくもの。
いわし雲
ひつじ雲
ひこうき雲
いろんな雲があるよね。
いわし雲が出たら、鰯(いわし)が大漁になる前触れだとか、
ひつじ雲が出たら、次の日は雨だとか、
そんな言い伝えがあるらしい。
雲を見ていろんなことを読み取っていたからこそ、雲にはこんなにたくさんの名前がつけられた。
つまり、白かったりグレーがかっていたりもくもくしてたりちっちゃく千切れてたりする、あの「雲」というふわりとした概念のなかに、区切り線が引かれたということ。
他のものと区切りたいから、特別な名前をつける。
それって考えてみれば当たり前のことではあるけど、なんだかうれしくなる。
道に落ちてる、石ころたちに
道に落ちてる石ころたちには、名前があるのだろうか?
わたしは、知らない(科学的な名称はあるのかもしれないけど)。
たとえば…たとえばの話。
濃いグレーでつぶつぶした模様が付いてて、ちょっとゴツゴツした形をしている石ころ。
薄いグレーで丸みがあって、ちょっとつぶれた白玉みたいな形をしている石ころ。
こんな名前のついていない石ころたちそれぞれに、素敵な名前をつけたとしたら。
その瞬間から、世界はちょっと、ちがって見えてくるのかもしれないね。