灯りを消して、ねえ、思い出してよ。

新宿のブルースとおでんの美味い店だった。
壁の仕切りに小窓があって、頼めば名物のロールキャベツが食べられた。
あれは、いつだったか…
ぼくたちは、その夜、偶然ケンさんに会ったんだ。
ケンさんは、大きな瞳を皺みたに笑わせて、分厚い唇を震わせるようにこう言って、和服を着た奥さんと店を出て行った。
「素敵な夜を」
ぼくたちが25,6。
ケンさんは30半ばだっただろうか。
あの夜、メコン川沿いの村々にも静かな夜はあっただろうか。

ぼくの肩にやさしく触れて、ウインクまでしてくれたケンさんは、
ケン・サンダースっていう名前で役者もやっていた。
ケンさん、今夜はどこにいるの?

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