友だちの快気祝いは、リクエストにより六本木「旬采」でビストロの旨みを堪能。
彼が所属していた総研系、大手代理店の下請け会社から、商品の販促プランや、公共系施設プランの仕事をもらっていた。
出版社を辞めて、ひとりで動いていた、もう、数十年前の話。
当初、ぼくと組む担当社員は、彼ではなかったが、はじめから妙に気になる存在だった。
いま、改めてそれが何故なのか考えてみると、彼がイエスマンじゃなかったからではないか。
大袈裟な言い方をすると、「おっしゃる通りでございます」が下請けの基本スタンスだった時代に、「それは、違うんじゃないですか?」と、彼ははっきり云っていたような記憶がある。
彼とはじめて組んだのは、三菱総研が「兵庫県」から依頼れた「淡路島公園再開発」プロジェクトっだった。
「阪神淡路大震災」からの復興義援金、国の補助金をどう活かすかが課題だった。
差し障りがあるだろうから詳細は記せないが、ぼくらが作成した「基本計画書」は合格。
されど、されど、当時の知事がお辞めになって、計画は白紙、「兵庫県」は新しい知事のもとで、また少なくはない計画立案予算を別の総研に発注した。
彼と組んだのは、結局この一本。
彼は間も無く独立して人材派遣会社を立ち上げて、今現在、経営も安定しているのだが、好事魔多しのお言葉通り、内分泌系の病気で長い間入院する羽目に。
悪戦苦闘の末、やっと退院、さあ、快気祝いだぁ!とのろしを上げた矢先に、今度は眼科で入院。
8月28日、目出度く二人で快気祝い。
六本木の「旬采」は、このエリアでは老舗に入るビストロ。
派手なメニューは無いが、週に二、三回でも通えるイタリアの台所のような店で、ぼくら二人のお気に入り。三十数年通っているが、まだ飽きがこない。
まずは生ビールと行こう。
ぼくはウォッカ・ソーダにレモン。
彼も、ウォッカ、ずいぶん飲んでない、と同じもの。
ぼくは白ワイン、彼は赤ワイン。
もう一回、ウォッカ・ソーダにレモン。
それに、ハムとチーズの盛り合わせ。
さらにもう一回、白と赤のワイン。
病み上がりをすっかり忘れて三時間。
あれも、これも、懐かしく、おもしろかった。
彼は、あと二年で七十歳。
それまでに会社をたたみ、最後の最後にどこで永遠の眠りにつくか。
じっくり考えるよ、と云って地下鉄・乃木坂駅へ向かった。
風のない、蒸し暑い夜だった。
マダムが、ウォッカ・ソーダ一杯分おまけしてくれた夜でもあった。