
七十歳最後の雨の日に迷い込んだ雨降りの町。
中華街まで直通で行ける、らしい私鉄の町に、その名に由来する大学はもう存在しない。
明日が七十一歳の誕生日という雨の日に、この町に舞い降りた。
ビニール傘を差して商店街をゆくと、酒屋がやっている角打ちに出くわした。

そこで、CAVAと酒粕漬けクリームチーズをつまんでいると、ひとり、ふたり、と日本酒や、ワインを買いに町のひとがやってくる。
きっと、良い酒屋なんだろう、ちょっとうれしくなる。
待ち人到着して、またビニール傘を差して通りをゆく。
ほんの20,30メートル歩いて横丁へ。
こんな刺身の盛り合わせを出してくれるとは、なかなかではないか。

熱燗ではじめて、冷酒をいくつか。
どれも好みの、キリリッ。
九条ネギを味わうためのひと皿。

天ぷらの揚がり具合が、また良い。
夜な夜なそぞろ歩くわるい癖。
ビニール傘を差して、分かりにくいワインバーへ。
写真を撮ることは、とっくの昔に忘れている。
ポーランドのワインはほんのり琥珀をさす美しさ。
席を離れたすきに、勘定を済まされてしまった。
女子に奢ってもらうなど、ついぞないこと。
有難くご馳走になり、ビニール傘を差して駅に向かう。
ホームに上ると、上下線ともに入線。
「それじゃぁ、また」と右と左。
うるう年の七十歳最後の夜、
こいつらが,恋しくなった夜。