そこにある太陽
ある日のこと。
練習場に会いに行った選手と会話をしていて
「こないだの試合も見に行ったよ」と伝えた。
他意もなく、ただアウェイの試合を見に行ったことの報告だった。
「なんか、すみません」
彼はわたしにそう謝った。それまでニコニコと笑顔で話してくれた表情を曇らせ俯いて、ぼそぼそと呟くようにそう告げた。
確かにわたしが見に行った試合の結果は敗戦で、内容としてもあまり褒められたものではなかった。残念だったけれど、それでも懸命にピッチを駆け回り、ボールを追う姿を目の前で眺め声援を送ることが出来ただけでも、個人的には満足だった。
サポーターにとって、無論、勝利が一番だけれど過激な争闘派でも勝利至上主義ではないサポのわたしだから、好きな選手が試合に出てるだけでも幾分嬉しいものなのだ。
別に謝らなくてもいいのに。
わたしは勝手に応援したくて、頼まれてもいないのに勝手に見に行った。
その場ではがんばれ!と声援を送ったし、勝利を願ったし、相手チームに点を決められた時にはガックリと肩を落としたけれど、彼に対して不満はなかった。
それは目の前でゴールを決めて欲しかったし、サポーターが湧くようなプレーを見たかったけれど、年間たくさん試合が続く中でそういう不甲斐ない結果が出てきてしまうことは仕方がないことだから、次につなげて頑張ってくれればいい。不満ではなく次回への期待。
これからの試合でたくさん輝く姿と笑顔を見せてくれれば良い。
むしろ、彼にあんな表情をさせてしまった自分を責めた。
もっと、背中を押せる言葉を言えたんじゃないか。
違う言葉で励ませたんじゃないか。
サポーターのくせに選手を悲しませてどうする。
彼が項垂れるもんだから、咄嗟に「次、また頑張って。また見に行くから」と取り繕ったような簡素な言葉しか出てこなかった。
気持ちとしてはその場で横断幕を広げて、太鼓でも叩いて頑張れ!頑張れ!いつも応援してるぞ!って大声張り上げたいくらいだったのに。
悄然とした靄が心に停滞していたけれど、俯いた彼の横顔に申し訳なさと少しの恥ずかしさに混じって、その奥にちらついた悔しさに気づいた。
逸らされた視線、その先にはきっと悔しかった試合のリプレイが浮かび上がっていただろう。
はらりと溢れ舞った恥じらいはきっと、滲む悔しさを隠しきれないからか
自分の不甲斐ないプレーを思い出したからだろうか。
「また、見に行くから体に気をつけて頑張ってください。」
まるで故郷の母親みたいなセリフを残した去り際、
「ありがとうございます、頑張ります」
そう小さく頷いた彼の明るい色味の双眸には強い光が宿って見えたし、表情に曇りは無かった。瑞々しい若さは輝いて見えた。いつもの眩しい微笑みだった。
太陽のように明るい彼が活躍出来ますように。たくさんの笑顔をピッチで浮かべることが出来ますように。
そして、老婆心ながら彼の私生活も充実したものになりますように。彼がしあわせでありますように。
暮れてゆく眩しい黄金の太陽にそう祈りながら、帰路についた。