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異語り 116 視線

コトガタリ 116 シセン

10代 女子

最初はなんとなく気持ち悪いなと感じる位だった。
家や学校では感じなかったし、街中や人が多いところで感じることが多かったから、臭いとか人混みとかに酔ったのかと思っていた。

でもそれが続くとパターンがわかるというか、はっきりしてくる。
気持ち悪くなる場所も分かるようになってきた。
よく使っていた駅やバイト先近くの道、学校近くのコンビニなどなど。
意外とあちこちに点在している。

最初は【気持ち悪い雰囲気】ぐらいだったけれど、だんだん濃くなって【気配】みたいな感じになってきた気がする。
気持ち悪いし、なんか怖いから避けれるところは避けるようにしていた。

もしかしたら、「ストーカーなのかも」とも思ったから、親や友人にも相談してなるべく1人にならないように気をつけるようにもしていた。
思い当たるような人や出来事はなかったけれど、ストーカーなんて常識が通用しなさそうだしね。
もちろん防犯ブザーもスプレーも常に持ち歩いていた。



その日は学校は休みでバイトの日だった。
なぜだかすごくお客さんが少なくて予定外にバイトを早上がりすることになってしまった。

せっかくだから本屋によって帰ろうと思って、いつもは行かない駅前の大きな書店に寄り道した。

面白そうな本を探しながら、時々パラパラと立ち読みをする。
店の中ほどの棚で本を見ていると、ゾクリと背筋に悪寒が走った。

「うわああ、あの感じだ」

すぐに周りを確認してみるがこちらを見ているような人はいない。
少し先の棚には同じ歳ぐらいの女の子が立ち読みをしている。
店内はそれほど混んでいないし、自分の位置からはちょうど防犯用のミラーも見えた。
そのミラーにも怪しげな人は写っていない。

ゾワゾワとした気配はまだ続いている。

首筋にまで鳥肌が立った。

うわ、ダメだもう帰ろう。さっき連絡しておいたからそろそろ親も迎えに来る頃だろう。

あまりの不快感に買い物は断念して本を戻そうと棚に目を向けた。

本が抜けた細い隙間の奥に何かが見える。
破れた帯か? 本のスリップか?
押し潰すのが忍びなくて、その隙間をしっかりと見た。


薄暗い隙間の奥
濁ったうつろな目があった。

向こうから覗いてるとか、節穴があるとかそんなんじゃなく、まぶたもある濁った目がギョロリと動いてこちらを見た。


「!!!!!」

悲鳴はあげなかった。

本当は叫んなだつもりだったけど、声になっていなかったみたい。

持っていた本を放り投げてそのまま走って店を飛び出してしまった。
ちょうど迎えに来てくれたところだったようで、目の前に見つけた家の車にそのまま飛び乗った。

父はこれから『着いた』と連絡を入れようとしていたようでものすごく驚いていたけれど、すぐに車を出してくれた。

私は何もしゃべれないまま家まで無言で震えていた。


その後、落ち着いてから見たままを話したけれど、信じてくれたかはわからない。
ただ母はずっと背中を撫でてくれていた。



今はどんなに遠回りでも気持ち悪いところには近づかない様にしている。
それと、防犯グッズに加えて御守りも持ち歩くようになった。

何箇所もあったスポットは確認してない。
でも、あの気持ち悪い気配は一緒だったから、……きっとあの目がいると思ってる。

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異語り 夏瓜(かか)
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