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異語り 124 大掃除

コトガタリ 124 オオソウジ

30代 男性

子供の頃の大掃除といえば形程度のお手伝いか、邪魔にならないように外に追い出されていたと思う。
でも大きくなって1人暮らしをするようになると自分以外にやる奴はいないのだから、自分が頑張らないといけない。

友人の中には「実家で正月を過ごすのだから、アパートはそのまんま」っていう奴もいたが、我が家では【日々自分が暮らす家は1年間の感謝を込めてきちんと掃除すること】というありがたい家訓があるため、苦手ながら一応大掃除をすることにしていた。

面白いもので、あちこち掃除していると普段使っていない押し入れの奥から謎のダンボールが出てきたりすることがある。

大概は面倒くさくてそのまま押し込んだ実家からの荷物だったり、通販で買って失敗した物だったりするのだけど、この前本気で何かわからない箱が出てきた。

見た目はごく普通のスーパーで貰ってくるような段ボール箱。
確か煎餅の箱だったと思う。

「なんだなんだ」とワクワクしながら引っ張り出していざ開封してみると、凄く黄ばんだくしゃくしゃの新聞が見えた。
「あーやっぱり実家からの荷物かぁ」
軽く落胆の息を吐き、一番上の新聞紙を取り出してみた。
保存状態が良くなかったのか、今までで見たことがないくらいに黄ばんでいる。

「一体いつの荷物だろう?」
大掃除は毎年しているはずだから、そう何年も前のものが入っているはずはない。
去年の大掃除の時に見た覚えがないのだから、この1年の間に届いたもののはずだ。

でも、新聞には行ったことのない地方紙の名前が書かれていた。
「実家以外から何か来たっけか?」
ちょこちょことフリマサイトなどで物を買ったりもするから、その時の荷物なのかもしれない。
ちょっと気持が浮きたったが、その新聞紙の日付を見て手が止まった。

『1986年』
自分が生まれた年の新聞紙だ。
もしかして誕生日の新聞を取っておいてくれたのだろうか?
でも、日付を見ると10ヶ月ほど後の日付だった。

紙面には『幼稚園で食中毒が出た』とか、『住宅火災で住人家族が行方不明』とか、明るめの記事だと『新しくできた学校の校歌を有名作曲家が作った』とか。
当時の世相やテレビ欄などは面白くもあったけれど、そこまでの関心を持つ程ではなかった。

くしゃくしゃの新聞紙に囲まれてやっと本来の目的を思い出す。
大事に箱に収められていたスイカほどもある大きな紙包み。
大きさの割にそれほど重さはない。
丁寧に包みを剥がしていく。(それらにも一応目を通す)

包むのに使われていた新聞紙はまだ新しいもので、去年の春先の日付が記されていた。

そして中から白いハーフキャップのヘルメットが出てきた。

ヘルメットの縁にほぼ消えかけてかすれた文字で自分の名前が隠れて書かれているのは見つけた。
何だ、小学校の頃は自分が使っていた登下校用のヘルメットだ。

……なんでこんなものが?

わくわくしていた気持ちが急速に冷め、広げていた新聞紙をたたみ直してヘルメットと一緒に箱の中へと戻した。

押し入れを掃除した後は元あった通りに箱を奥へと仕舞い込んだ。
そしてそのまま忘れた。

結局あれ以来またあの箱はなくなってしまった。
あの次の年の掃除には見かけなかったから、うっかり処分してしまったのかも知れない。

今思えばなんであんな昔の新聞と一緒に入ってたんだろう?
なんとなく覚えている古新聞の内容を反芻した。

『○○町の住宅街で民家が全焼する火災があり焼け跡から二つの遺体が発見された。住宅に住む親子の行方がわからなくなっており、身元の確認が急がれる。夫婦には生後半年程の子どもがいたがその遺体は見つかっていない』

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異語り 夏瓜(かか)
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