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異語り 170 爆弾低気圧

コトガタリ 170 バクダンテイキアツ

50代 女性

祖父から聞いた話
祖父がまだ小さかった頃、冬はとても厳しい時代だったそうです。
家のあちこちから隙間風が入ってくるし、暖房も薪か石炭でした。
かまどや七輪が一般的な調理道具で、風呂も薪で沸かしていました。
皆が集まる居間だけはどうにか暖かくしていたようですが、とにかく家中どこもかしこも寒かったと言っていました。

テレビなんて近所でも見たことはありません。
ラジオも雑音が多くあまりつけていなかったそうです。
けれど、台風や嵐の予報が出ると、放送を聞き逃さないように一日中誰かが番をしていたそうです。

初雪も過ぎて、「そろそろ根雪になるかしら」という話題がでる頃、
「数十年に1度かもしれない【爆弾低気圧】がやってくる」と大人たちが騒ぎ出しました。
数十年に1度ということはまだ10歳にも満たなかった祖父にとっては初めてということ。
いつもとは違う厳しい顔でバタバタと騒がしくする親たちをラジオの番をしながら眺めていました。

既に冬囲いの終わっていた庭木や雨戸にさらに上から板を打ち付け、玄関の土間に次々と物が積み上げられていきます。
なにやら大変そうだということは理解できましたが、いつもと違う雰囲気に気分がはしゃいでしまい、兄弟たちと大声で歌を歌って騒いでいたといいます。

しかし、夜になると風が強くなり、時折家が揺さぶられるほどの突風が吹き付けてきました。
雪も降っているようでバラバラと屋根が叩かれる音もします。
昼間の楽しかった気分は既にすっかりとしぼみ、家が揺れる度に兄弟で肩を寄せ合うようにして様子を伺っていました。

「今夜は皆で一緒に寝ましょうね」
母の言葉に安堵してみんなで居間に並べた布団に入り、早々に眠ることになりました。

夜中
バタンッバタンッ
という大きな音で目が覚めました。

「飛ばされてきた何かで雨戸が一枚壊れてしまったのだ」と母が説明してくれます。
嵐はそろそろピークなのか寝る前よりも風の音が大きくなっていました。

「便所に行ってくる」
「裏にじいちゃんたちがいるから一緒に行ってもらいなさい」
「大丈夫だよ」
厠は母屋の中にありませんが、離れにつながった渡り廊下があるので外に出る必要はありません。
ただちょっと長く廊下を歩くだけです。
ぴっしりと雨戸が閉められているから廊下は真っ暗ですが、祖父は暗いのは平気だったそうです。

ゴーゴーとひびく風の音を聞きながら廊下を進んでいくと、風の音に混じって父たちの声も聞こえてきました。
寝る前は怖かった風の音もずっと吹き続けていると怖さも感じなくなっていました。

渡り廊下に入ると視界が明るくなりました。
何枚か雨戸が外されています。
あんまり風の吹き込まない渡り廊下の雨戸を壊れた部分に使うらしいです。

ピカピカッ

空が光り、風の音に雷鳴が混じります。

吹きすさぶ風に大粒の雪がかき混ぜられめちゃくちゃに降っているように見えます。

「すげえ~」

尿意も忘れて空を眺めていると再び

ピカッピカッ

と空が光りました。

ガガガガガガーーーン

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォン

ビカビカビカッ

目まぐるしく明滅する空と世界

そして一瞬途切れた雲の隙間を黒々しい列車が走り抜けていきます

ゴゴン ゴゴン ゴゴン ゴゴン ゴゴン ゴゴン

ピカッピカッ

ブオーーーン

警笛が聞こえた気がして食い入るように雲の隙間を見つめ続けます。

時折光るのは車窓か、ライトか、

すごい速さで、そしてものすごく長い。

真っ黒な車体は途切れることなく雲の上を走っていきます。

ブォーブォーブォーーーン

雲が閉じる刹那
再び警笛を聞きました。



朝になってから家族に話をしたら笑われただけでした。
でも祖父は
「わしは今でもあれは列車だったと思っている。銀河鉄道? そんなええモンじゃないけどな。言うなりゃ爆弾列車だな」

孫を喜ばすための作り話だったのかも知れませんが、記憶がおぼろげになった今でも時々この話をします。

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異語り 夏瓜(かか)
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