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異語り 153 絵本

コトガタリ 153 エホン

30代 女性

子供によってお気に入りは色々ある。
そんな中、姉弟2人ともが気に入っていた絵本があった。
子グマが森の中を歩いて色々な動物に出会う絵本。

子どもたちも大きくなったし、小さな頃のおもちゃ類はそろそろ処分しようかな。
そう思い立ち、しまい込んでいた昔のおもちゃ箱を片付けていた時
その絵本を見つけた。

おもちゃ箱の底に封筒に入れられ、しっかりとテープで封もされていた。
最初はその存在もすっかり忘れていて、「これは何がはいってるのかな?」
なんてわくわくしながら開封した。
出てきたのはボロボロの絵本が一冊
綺麗なものはリサイクルしようかと思っていたが、さすがにこれはボロボロすぎる。
あちこちすり切れたり凹んだりしているし、表紙はぐらぐらして取れそうになっている。

処分するために避けてみて手が止まった。
でも、……ここまで気に入っていたものなら残しておいた方が良い?

悩みながら手に取ると、パラパラとページが開いた。
もう開きグセまでついているらしい

どのページが好きだったのだろう?

ちょっと気になりそのページを読んでみた。


子グマが森の奥の大きな木の穴に向かって声をかけているシーンだった。

そういえば、時々本に向かって何か話しかけていたような記憶がある。
床に絵本を広げるのぞき込むようにして読んでいた後ろ姿を思い出した。

……そういえば、あの時って

何となくちょっと嫌なことまで思い出しそうな気がした。

いつもは「かまえ、かまえ」とまとわりつく子どもが、時々とても静かに遊んでくれている時があった。
いつも「このスキにっ」と思ってあれこれ家事を片付けていたのだけど……静かな時は大概この絵本を読んでいたと思う。


日によって違いはあれど、いつも何か楽しげにボソボソとおしゃべりしていたような気がする。

そう1人なのに


何を喋っていたのかまでは思い出せないけれど、それなりに長い時間を楽しそうに過ごしていた。

ページの右側いっぱいに描かれた大きな木の穴。

子グマが「お~い」と声をかける

次のページでは、その木の穴から子グマによく似た子グマが現れ、仲良く遊ぶことになるのだ。



けれど、開きグセはこのページにしか付いていない。

彼女もこの穴に呼びかけていたのだろうか?

その時 穴からは何が出てきていたのだろう?

……想像のお友達ならば微笑ましい思い出だと思う。



……でもこの嫌な感覚はそうじゃないことを知っている。



絵本は大きな封筒に入れられ、しっかりとテープで封がされていた。

その封筒も思い出のおもちゃが集まったダンボール箱の底に埋まっていた。


なぜ?

ものすごく気になるが、とても思い出したくない。

そう、あの日びっくりして本を取り上げた。
そしてそのまま封筒にしまい込んだのだ



びっくりした? 何に?


ああ、嫌だ思い出したくない。

彼女もびっくりして泣いていた
本を返してって泣いていた
……のかな?

だって、あんな気持ち悪い本は見せたくない!



気持ち悪いって?



彼女は絵本の穴の中に顔を突っ込んでいた。
黒い影が顔と繋がってて……


あわてて取り上げた絵本から何かが転げ出てきた……



ああ、やっぱりこの本は処分しよう。

もう子供達は十分大きく育ったのだから。

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異語り 夏瓜(かか)
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