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異語り 123 実家からの荷物
コトガタリ 123 ジッカカラノニモツ
1人暮らしを始めて少したった頃、実家から荷物が届いた。
中身はインスタント麺やレトルト食品。クッション材代わりにお菓子もいっぱい詰まっていた。
慣れない生活にじわじわと親のありがたみを感じ始めていた時期だったので、もう大喜びの大感謝で荷解の途中で近所の公衆電話に向かった。
10分ほど声を聞き「またね」と受話器を置いた。
1人きりの部屋に戻るとすぐに荷解を再開する。
底の方に封筒に入った数枚のテレホンカードとなぜか昔集めていたミニチュアハウスのお皿が出てきた。
1円玉サイズではあるが、ちゃんとした陶器のお皿。確か柄違いで何枚か持っていたはず。
なぜ一枚だけ?
自分の部屋は私物を全部ダンボールに詰めて部屋を明け渡してきたはず。
この一枚だけしまい忘れていたのかな?
不思議に思いつつもちょっと懐かしくて、部屋のテレビの上(ブラウン管なので奥行きがあった)に乗せておいた。
実家からは二三ヶ月おきに荷物が届くようになった。
中身は食品とその時々で、服だったり雑貨だったり。
そしてなぜかミニチュア皿も一枚。
そろそろ持っていた皿が全部揃ってしまう気がする。
しかしなぜ一枚ずつ?
新たに届いた荷物を漁っていると、箱の隅に新聞紙にくるまれた歯磨き粉サイズの包みがあった。
もう皿はなかったはず。さてさてこれは何かな?
うきうきと紙を開くと、ミニチュアハウスのソファーが出てきた。
ロココ調というんだったか? 背もたれが優美な曲線のデザインで、赤い布地が張られた高級そうなソファー。小さいながらも猫脚も再現されていてとても気に入っていたやつだ。
もしかして、少しずつ揃うように送ってくれているのかな?
確かに持って来たかった物ではあったけれど、手元にあればまた集めたくなってしまう。
まだそんな余裕はないのだけれど……、喜ぶべきか悶々と考えながら電話へと向かった。
あれこれ話した最後にそれとなくミニチュア家具のことを聞いてみた。
「あのさぁ、ミニチュアのやつ、今は飾る余裕ないから入れてくれんでもええよ」
「ミニチュアってあの小さい家具のやつやろ? どこにあるんか見てへんで。お父さんが入れたんやろか、…………お父さんも知らんってよ。なんか入っとった? あんたの荷物はいらってへんで?」
「……そうなん。お皿とソファーが紛れてきてたからさ。……なんでやろなぁ」
結果は余計悶々とすることになってしまった。
その後も、皿の飾り棚やスタンドライト、ティーテーブルなどが届いた。
二年くらい経つとテレビの上はとても優雅な雰囲気が出来上がってきた。
「リビングが出来上がっちゃったなぁ」
でも、さすがにこれ以上は置き場所に困る。
再梱包してダンボール箱に詰めておくしかないかな?
そんなことを考えながら次に届いた荷物を荷物を開けてみると一番上に10センチぐらいの小さな人形が出てきた。
確か祖母が海外旅行のお土産としてくれたものだ。
私の趣味を知って「ちょうどいいやろ」と選んでくれたらしい。
家具に興味はあったが、人形はそれほど必要性を感じていなかった。
家具だけの方が妄想が膨らむから余計なものは置きたくなかったのだ。
実家に置いてきた箱もミニチュア家具とは別の箱に入れていたはずなのに……。
とりあえず人形は本棚に載せた。
ところが、
次の日 人形が床に落ちていた。
本棚は布団から離れているし、寝てるうちになんてことはないと思う。
不思議ではあったけれど、その日も学校があったので人形を本棚に戻し、そのまま忘れた。
また次の日
やはり人形が落ちていた。
それ以来、戻しても戻しても朝になると落ちている。
座らせてみたり、もたれさせてみてもダメだった。
もしかして?
試しに人形をテレビの上に置いてみた。
翌朝
人形はちゃんとテレビの上にいた。
どこか満足げな人形の顔を眺めつつ、上京前の祖母との会話を思い出した。
「私も学生時代に東京に住んでいたんよ、どこに行ってもきらびやかで楽しかったわぁ。ええなぁ一緒に行こうかしら」
祖母はちょっと粘着質なところがあり、上京前はしつこいぐらい「自分も行きたい」アピールをしていた。
もしかしてばあちゃん? ……まさかね、
「絶対そんなことはない」と言い切る自信はなく、「もしも……」と考えるとものすごく不気味に思えてきた。
すぐに近所のスーパーで丁度よさげなサイズの箱をもらってきた。
その中にミニチュアリビングセットと人形を並べ、クローゼットの奥へと仕舞い込むことにした。
それ以降、荷物にミニチュア家具が紛れてくることはなくなった。
もちろん箱詰めにした人形に祟られるようなこともなかった。
ただ、引越しの際
すっかり存在を忘れていた箱を開けて思わず悲鳴を上げそうになってしまったので、そのまま欲しがっていた友人にプレゼントしてしまった。
ごめん ばあちゃん
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