【企業分析】ソニーグループ
6758(東証1部)
時価総額:15兆8,700億円
株価:12,500円
売上高:8兆9,990億円
営業利益:9,710億円
(2021年3月期)
事業内容:電気機器の製造・販売
設立年:1946年
本社:東京都港区
ソニー代表者: 槙公雄(代表取締役)
ソニーグループ代表者: 吉田憲一郎(代表執行役会長兼社長CEO)
従業員数:約8,500名(2021年4月1日付)
主要株主: Citibank as Depositary Bank for Depositary Receipt Holders 9.08%
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概要
電機メーカーを中心とする日本の多国籍コングロマリット。世界首位のCMOSイメージセンサ[2]などのハードウェア分野をはじめ、映画・音楽などのソフトウェア分野、およびハード・ソフト・サービスを横断する家庭用ゲーム機分野に重点を置いている。
1946年、電気通信機・測定器の研究製作を目的に日本橋の「白木屋」で東京通信工業株式会社として設立。1947年パワーメガホンの製品化に成功、販売を開始。1950年には日本初のマグネタイトを塗布した紙ベースの録音テープ「ソニ・テープ」、1955年には日本初のトランジスタラジオ「TR-55」を発売。1970年にはニューヨーク証券取引所にも上場。
事業内容・業界動向
ソニーの事業セグメントは以下6つに分かれる。
① エレクトロニクス・プロダクツ& ソリューション
ソニーのエレクトロニクス事業は、常に時代をリードする製品を世に送り出してきました。 これからも、ビデオ・サウンド、テレビ、モバイル、イメージング、メディカル、FeliCaなど 多岐にわたる分野において、テクノロジーの追求と新たなチャレンジによって、 世界中の人と社会に「感動」と「安心」を届けることに挑戦し続ける人材を求めています。
グループ本社機能に特化した「ソニーグループ株式会社」発足に伴い、2021年4月1日付で「ソニー株式会社」の商号を、ソニーグループの祖業であるエレクトロニクス事業が継承します。新生「ソニー株式会社」は、長年培ってきた音・映像・通信の技術をさらに進化させるとともに、遠隔で人と人、人とモノをつなぐリモートソリューションへのニーズの高まりにも貢献していきます。また、クラウドサービスといったこれまでの事業領域にはなかった新しいフィールドにおいても新しい価値創造の取り組みが始まっています。
ソニーが得意としてきた「リアリティ/Reality」と「リアルタイム/Real-Time」を極める製品やサービスに加え、「リモート/Remote」で人と人、人とモノをつなぐソリューションにも注力。これらを掛け合わせた3R Technologyで、未来を切り拓くチャレンジが始まっています。
・ビデオ、サウンド事業
ハイレゾ対応のスピーカーや業界最高クラスのノイズキャンセリングヘッドフォンなどを提供。
・テレビ事業
ブラビアの4K高画質を追求するとともにAndroid TV機能や、有機ELテレビにおいて画面を振動させて高音質を生み出す「アコースティックサーフェイスオーディオプラス」を展開。
・モバイル事業
最新のXperia では、ソニーの最先端の技術と「高速」「大容量」の次世代高速通信5Gが出会うことで、カメラやオーディオ、ゲームなどのエンタテイメントは驚きを超えた感動の世界を実現しています。私たちは常にソニーの最先端の技術を結集し、既存のスマートフォンの常識を打ち破ることに挑戦し続けています。
・イメージング事業
約30年の歴史を誇る"Handycam®"をはじめとして、"Cyber-shot™"、"α™"と立て続けに映像表現の領域で新しいチャレンジに挑み、マーケットに大きなインパクトを残してきたソニーのデジタルイメージング。
α7シリーズに代表されるフルサイズミラーレス、圧倒的な高解像と美しいボケを両立させたG Masterシリーズに代表されるα交換レンズ群、高画質を手のひらに実現したCyber-shot™RXシリーズなど、他に真似のできない強い製品群で映像表現の未来の姿を提案し続けています。2017年には世界初のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSイメージセンサーの搭載でプロフェッショナル市場に大きなインパクトを与えた『α9』、また、全く新しいコンセプトで、カメラ単体での撮影のみならず、多台数を同期させるバレット撮影など、群での映像表現の新しい可能性を提案する『RX0』を発売。
・FeliCa事業
ソニーが1987年から開発を始めた非接触ICカード技術FeliCa(フェリカ)は、無線通信によりICカードや対応モバイルデバイスをかざすだけで決済や認証を実現し、現在では日本全国およびアジアの交通IC乗車券、電子マネー決済、会社や学校での個人認証など、暮らしのさまざまなシーンで幅広く活用されています。このFeliCaの技術は、ソニーが他社とともに国際標準として規格化した近距離無線通信技術Near Field Communication (NFC)に準拠しており、ソニー製品を含めさまざまな機器に搭載されている NFCの「N」のマークとして目にしたことがあるかもしれません。
・メディカル事業
ソニーは1980年代より手術室や検査室で使用する医療用モニター、プリンターやカメラを提供することで医療分野に貢献してきました。
ソニーが開発を支援しているソニー・オリンパスメディカルソリューションズ株式会社で開発されている、世界初となる4K外科手術用内視鏡システムや4K 3D手術用顕微鏡システムには、これまでソニーで培われてきた最先端のイメージング技術が凝縮されています。また、2016年にはベルギーのeSATURNUS社を買収し、医療現場のニーズに合ったIP映像ソリューション(*)の開発と提供を推進しています。今後も医療現場で求められる”臨床有効性”、”安全性”、”医療経済性”を実現するためにイメージセンサー、画像・信号処理技術、光伝送技術、ロボティクス、ソフトウェア開発技術など、革新的な製品やサービスを開発し、これまでの医療機器では「見えなかったものが見える」を技術で実現することで医療の世界を変えていくことに挑戦していきます。
② ゲーム&ネットワークサービス
家庭用のゲームハード、ゲームソフトなどの開発・製造・販売を行う。
③音楽
ソニーミュージックグループは、「アーティスト&ミュージック」、「ビジュアル&キャラクター」、「エンタテインメントソリューション」の3つの事業セグメントを柱に、新たなエンタテインメントの創出にチャレンジしています。
・アーティスト&ミュージック
音楽ソフトの企画・制作・宣伝を行なうレコードレーベル事業、発掘・育成・マネジメントを行なうアーティストマネジメント事業、音楽出版事業、マーケティング事業など、音楽ビジネスにまつわる様々な事業を展開し、アーティストやクリエイター、タレントの活動を幅広くプロデュースしています。
ビジュアル&キャラクター
アニメーション作品やゲームの企画・製作・プロデュースを行なうアニメ関連事業、そして、キャラクターを中心とした国内外の著作物・商標を活用し、様々なマーチャンダイジングやサービス分野へのトータルマーケティングを行なうライセンス事業を行なっています。
エンタテインメントソリューション
コンサートホール運営やライブ・イベント等の企画・制作、グッズ企画・制作・販売などを行なうライブエンタテインメント事業、パッケージソフトのデザイン・製造・流通・販売を行なうパッケージソリューション事業、ECショップや音楽配信サイトの運営を行なうデジタルソリューション事業、放送・出版・Web等のメディア事業など、エンタテインメントビジネスにおける幅広いソリューションの提供によりエンタテインメント業界の舞台裏を支えています。
④ イメージング& センシングソリューション
ソニーは、1996年にCMOSイメージセンサーの開発を始め、2000年にソニーとして初めてのCMOSイメージセンサー「IMX001」を商品化しました。当時のCMOSイメージセンサーは、薄暗い場所でノイズが多く、画素数でもCCDに劣っていました。動画の画質がSD(Standard Definition)からHD(High Definition)へと変わりつつあり、読み出し速度が遅いCCDは、いずれ高解像度データに対応できなくなることを見越し、ソニーは、2004年にイメージセンサーの開発をそれまでのCCDからCMOSイメージセンサーに注力することに、大きく舵を切りました。世界No.1シェアのCCDから、僅かなシェアしかなかったCMOSイメージセンサーへ転換する決断でした。その後、2007年には高速、低ノイズを実現した独自のカラムA/D変換回路搭載のCMOSイメージセンサーを、2009年には従来比2倍の感度を実現した裏面照射型CMOSイメージセンサーを商品化し、その性能は人間の眼を超えるまでになりました。さらに2012年には画素部分と信号処理部分の積層構造により、高画質、多機能、小型を実現した積層型CMOSイメージセンサーを商品化、2015年には小型、高性能、生産性向上を実現したCu-Cu(カッパー・カッパー)接続を世界に先駆けて実用化するなど、技術革新を重ね、常に業界をリードしています。
⑤映画
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントとして複数のプラットフォームを通じて映像エンタテインメント(劇場用映画、テレビ番組、録画ビデオ)を制作、取得、配給している
⑥金融
ソニーフィナンシャルグループとして以下業務を行う。1) 生命保険会社、損害保険会社、銀行、その他の保険業法および銀行法の規定により子会社とした会社の経営管理
(2) その他保険業法および銀行法その他の法令の規定により、保険持株会社および銀行持株会社が営むことのできる業務
ソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行などを運営。
競争力
・ゲーム&ネットワークサービス、音楽、半導体の3事業が柱
・ものづくり企業からテクノロジーやコンテンツを武器とする総合企業グループへ
・引き続きゲームや音楽などのデジタル分野の好調が期待される
ソニーグループの強みは、事業の選択と集中による経営力と安定的な収益を稼ぐ力です。ソニーはかつてのウォークマンや液晶テレビに代表されるようなものづくりのエレクトロニクス企業から脱却し、テクノロジーやコンテンツを武器とする総合企業グループとなっています
テレビやパソコン事業で大赤字を続けていた時代もありましたが、2012年に平井一夫前会長が社長兼CEOに就任しトップダウンで競争の激しい事業を縮小し、強みを活かせる分野に特化する地道な構造改革を続けた結果、現在の事業ポートフォリオとなりました。
また、リカーリングビジネスと呼ばれる安定的な継続収入を育てている点も評価されています。例えばデジタルカメラの交換レンズやプレイステーションのネットワーク有料会員、音楽配信のストリーミングサービスなどが伸びた結果、ソニーの売上高の4割以上がこうした継続収入によるものとなりました。
業績推移
ソニーグループが発表した2021年度第3四半期累計(2021年4~12月)での売上高および金融ビジネス収入は、前年同期比13.2%増の7兆6575億円、営業利益は19.7%増の1兆637億円、調整後営業利益は12.4%増の9997億円、税引前利益が7.5%増の1兆278億円、当期純利益が19.9%減の7710億円となった。
また、第3四半期(2021年10~12月)は、売上高および金融ビジネス収入が、前年同期比12.5%増の3兆313億円、営業利益は32.2%増の4652億円、調整後営業利益は14.8%増の3950億円、税引前利益が20.3%増の4616億円、当期純利益が11.4%増の3462億円となった。
セグメント別業績は、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の売上高が、前年同期比3.9%増の2兆745億円、営業利益は512億円減の2588億円となった。前年度第3四半期には、プレイステーション5のローンチと大型タイトルの発売があり、その反動があったものの、販売費や一般管理費の減少、プレイステーション5のハードウェアの収益性の改善などが見られたという。プレイステーション5の販売台数が減少したことで、プロモーション費用の削減、物流費の高騰がセーブできるといった点でのメリットも生まれているという。
音楽分野の売上高は前年同期比22.3%増の8224億円、営業利益は121億円増の1611億円。映像メディアプラットフォームの減収はあったものの、ストリーミングサービスが増収となった。第3四半期のストリーミングサービスの売上げは、音楽制作が29%増、音楽出版が27%増と高い成長を継続。「Spotifyの上位100曲ランキングに平均して36曲がランクインしているほか、ADELEの『30』は、2021年11月のリリース以来、ビルボードのアルバムヒットチャートで、8週連続で1位を獲得し、歴史的ヒットとなっている」と述べた。
映画分野の売上高は前年同期比67.6%増の9267億円、営業利益は1262億円増の2064億円。映画では「Spider-Man: No Way Home」の大ヒット、テレビ番組制作では「Seinfeld」の大型ライセンス収入があり、売上高、営業利益ともに大幅な伸びを見せた。さらに、GNS Gamesの事業譲渡による702億円の利益計上もあった。
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野の売上高は前年同期比15.8%増の1兆8451億円、営業利益は766億円増の2245億円となった。第3四半期は為替による増収効果はあったものの、巣ごもり需要の剥落や、部品の供給不足による製品販売台数の減少などが影響したという。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)の売上高は前年同期比5.2%増の8211億円、営業利益は165億円増の1449億円。ハイエンドモバイル機器向けイメージセンサーが増収に貢献したという。
金融分野の金融ビジネス収入は前年同期比1.6%増の1兆2541億円、営業利益は106億円減の1023億円となった。ソニー⽣命の特別勘定運⽤益の増加が増収につながったという。
一方、2021年度通期業績見通しは、売上高および金融ビジネス収益は10月公表値の前年比10.0%増の9兆9000億円を据え置いたが、営業利益は1600億円増の前年比25.6%増の1兆2000億円、税引前当期純利益は1650億円増の前年比15.7%増の1兆1550億円、当期純利益が1300億円増の前年比16.5%減の8600億円とした。
セグメント別業績見通しは、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野は、10月公表値に比べて、売上高が1700億円減の2兆7300億円、営業利益は200億円増の3450億円とした。音楽分野の売上高は200億円増の1兆900億円、営業利益は50億円増の2050億円。映画分野の売上高は400億円増の1兆2200億円、営業利益は970億円増の2050億円。エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野の売上高は800億円増の2兆3600億円、営業利益は200億円増の2100億円。イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)の売上高は300億円減の1兆700億円、営業利益は据え置き1530億円。金融分野の金融ビジネス収入は1200億円増の1兆6100億円、営業利益は据え置き1530億円とした。
経営者
1959年、熊本県生まれ。83年、ソニー入社。社長室 室長を経て、2000年、ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)に出向し、01年、同社 執行役員に就任。05年、同社 社長。13年、ソニー EVP CSO 兼 デピュティ CFOを務め、18年、社長 兼CEOに就任。20年、会長 兼 社長 CEO。21年4月、ソニー(株)からソニーグループ(株)に社名変更。同社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO(現職)
日本の製造業に限れば、2021年3月期決算の最終利益で1兆円を超えたのはトヨタ自動車とソニーだけで、過去にさかのぼってもトヨタと2018年3月期のホンダだけだ。その点で2018年4月に就任して以来、「SONY」の絶対的なブランドを守りつつ、ドラスチックに事業ポートフォリオを組み替え、復活に導いた吉田氏の経営手腕は高く評価されている。
今後の見通し
1970年来、ソニーは日本を代表する電子メーカーとなり熱烈なファンを生み、その成長の軌跡は「ソニー神話」と呼ばれていました。しかし、世界トップのブランド力を持つようになったソニーは、21世紀突入後ヒット商品を生めず、多くのファンは嘆き悲しみました。2万人の大リストラなどのニュースに対して、「もうソニーは復活できないのでは」とまで言われるほどでした。
ソニー傘下のアニプレックスが制作した映画『鬼滅の刃』がヒットした要因には、原作の魅力だけでなく、ソニーの秀逸なアニメ戦略があります。ここではソニーが純利益を1兆円超えた主な要因と、アニメの海外戦略についてご紹介します。
イメージセンサー事業
2020年は、米中摩擦の影響によりファーウェイへのモバイル機器向けセンサーの出荷が一時中止となり、売り上げが落ち込んでいました。しかし、出荷が再開できるようになり、ファーウェイ以外の顧客からの需要も増え、販売台数の見込みを上方修正しました。
営業利益を520億円増の1360億円になると発表されています。
イメージセンサー事業は、もともとソニーの稼ぎ頭でした。今後同社のこの事業が期待されているのは、スマホのカメラ向けではなく画像認識などに使用される「センシングデバイス」の需要で、同社は世界一のシェアを狙っています。そこで武器となるのが世界初の「AI処理機能」を搭載した同社のインテリジェントビジョンセンサーです。
CPUやGPUまでデータを送信する必要がなく、30分の1秒以内で処理が完了し、画像でなく男女や年齢層などの「認識結果」だけで転送する情報量は激減します。5年前のハイエンドスマホ並みの演算力を持ち、8MBのメモリーを搭載しています。
今後のソニーの注力事業:メディカル事業
ソニーは実は1980年代からメディカル事業も手掛けています。アンケート結果によると、ソニーがメディカル事業をしていることを知っているのは約半数と、それほど知られていないことが分かります。
メディカル事業が、現在新たな可能性として提示しているのが、医療映像ソリューションとライフサイエンス分野です。
内視鏡や各種検査機器から得た映像の活用の仕方は、医療の現場にとって大きな課題です。医療映像ソリューションでは、撮影するだけでなく、手術中や診断中などに即座に見やすく表示できるように、インターネット・プロトコルベースの技術を使い、サーバー連携によって低コストな医療映像管理システム「NUCLeUS」を提供しています。
ライフサイエンス分野では、iPS細胞による再生医療研究、先端がん治療分野向けの技術を開発しています。
新型コロナウイルスの流行が落ち着いても多くの人が電車や飛行機で移動ができず、集まることもできない状況が長く続くとみて、このような状況を解決する技術取得に向けて注力しています。
アニメ関連の事業戦略
ソニーのアニメ事業のビジネスモデルはどのような特徴があるのでしょう。それは「クリエイター・ファースト」で、国内にある優れたマンガ作品をアニメ化、映画化を、音楽を含めたコンテンツ販売で稼ぎ、それをゲーム化して稼ぐというモデルです。このビジネスモデルを取る際には、常に良い作品や原作マンガの雑誌社との契約が重要になります。
ヒット漫画の原作者や雑誌社に「ソニーと組みたい」と思ってもらうことで、ソニーは常に良いコンテンツと独占的に契約が可能になり、そうなれば、人気マンガのパイプラインが途切れることがありません。
ソニーはディズニーのように原作のIPで長期間稼ぐビジネスモデルではないため、常に新作品でヒットを打ち続ける必要で、そのためにはアニメ化候補作のパイプライン拡充が重要になってきます。
「ビジネス・ファースト」ではなく、「クリエーター・ファースト」というのは、日本的な「三方よし」の戦略にも似ており、消費者、原作者などの制作側、配信サービス企業にとってメリットが大きいコンテンツに仕上げます。ソニーの非自前主義、非クローズの戦略は、実はとても合理的な戦略なのです。
「技術偏重」からの脱却なるか
1990年代頃まで、日本の家電業界は技術力によってグローバル競争を優位に進めてきました。
テレビなど家電の機能・性能が成熟化してアジア勢と価格競争になっても、「技術では負けない」との声は根強かったと言います。しかし、ウォークマンのような革新的なヒット商品を生み出した同社は、デジタルの音楽プレイヤーが普及し始めた2000年前後、米アップルの「iPod」に人気をさらわれた苦い過去もあります。
2010年以降デジタル化が進み、ソニーのゲーム事業は、ネットを通じてソフトが利用できるネットワークサービス利用増加が増益につながり、十時副社長は「収益構造が大きく変化している」と述べました。
海外ヒットのけん引役であるソニーが買収したクランチロール
台湾、香港、ベトナム、シンガポールでも公開中で、2020年12月時点における全世界興行収入は320億円で、インターナショナル興行収入ランキング(北米を除く)で、劇場版は3億350万ドル(約315億円)の『テネット』を抜き、トップ3に上昇しました。
新型コロナウイルスの感染拡大により各国の映画館が影響を受ける中、輝きを放つ米メディアが鬼滅の刃に注目しています。米ニューヨーク・タイムズは、2020年10月20日、日本で映画公開された初日に、「世界最大のオープニングになった」と報じています。
日本国内だけでの公開にも関わらず、公開初週の興行収入が、日本以外の全ての国の映画興行収入合計を上回ったからです。
海外で「デーモン・スレイヤー」と呼ばれる鬼滅の刃について、9週目の時点で、海外の記事は「全世界で3億1000万ドル(約320億円)の興行収入を見込む」と報じました。
このように、国内でのヒットばかりが報じられていますが、実は海外でも非常に人気なのです。
この海外での成功は、アニメ配信サービスのクランチロール社がけん引しています。クランチロールは2006年に創業された、アニメを中心とした映像配信事業者で、アメリカとヨーロッパを中心に、200以上の国と地域で広告ベースの無料配信と、月額課金制の有料サービス両方を展開しています。
ソニー子会社であるSony Pictures Entertainmentは、2020年、買収金額11億7500万ドル(約1222億円)で、アメリカのAT&T社からクランチロール社を完全子会社したことがきっかけで、ソニーの海外におけるアニメ配信は強化されるようになったのです。
クランチロールは、世界各国のさまざまな作品を、ファンの主体性を尊重しながらグローバルヒットに導いてきており、鬼滅もその実績の1つに加わりました。
海外ではクランチロールによって、2019年から配信が始まり、配信以降人気が少しずつ広がり、2020年冬の時点で、英国、カナダ、メキシコ、ブラジルなどでアニメ部門のトップ10に入りました。1100万を超える世界のアニメファンの投票によって毎年選ばれる「アニメアワード2020」で最優秀作品賞を受賞しました。
ソニーのプレスリリースによると、2020年時点での有料会員数は300万人以上で、登録ユーザーは9000万人超。アニメファンを中心にして1億人の登録ユーザーと5000万人の公式SNSフォロワーも抱えています。
もう一つの特徴は、動画配信サービスであると同時に、扱う各コンテンツのファンコミュニティーの集合体を持っていることです。これを生かしながらコンテンツの視聴からグッズ購入につなげ、イベント参加までサポートしながら、コンテンツの価値を高める戦略を取っています。
株価推移
一昨年12月17日、ソニーの株価が1万円を超えた。2001年以来、およそ19年ぶりのことだ。この間、ソニーはどん底の時代を経験した。日本を代表する電機メーカーとされながらも、テレビをはじめとする「ものづくり」で海外メーカーとの価格競争に苦しみ、巨額の赤字を計上した。株価は一時1000円を割り込み、“ソニーショック”などと日本の株価低迷の象徴として語られることもあった。その後、かつて輝きを放ったパソコンや電池事業売却、人員削減などを経て、ビジネスモデルの転換を推し進めてきた。その結果が「19年ぶりの株価1万円」だ。
株価が1万円を超えていた2001年5月25日、家電量販店にはソニーの薄型テレビやパソコン「VAIO」、MDプレーヤーが並んでいた。
2000年度の売り上げ7兆3148億円のうち、エレクトロニクスがおよそ7割を占め、ゲームは9%、映画と音楽はそれぞれ8%にすぎなかった。
創業以来、ウォークマンをはじめ画期的な製品を次々と生み出し、高品質の代名詞であるメイド・イン・ジャパンを担ったソニーが“ものづくり”の会社であることを誰も疑わなかった。
しかしこの年、エレクトロニクスの不振で業績予想を下方修正し、株価は4000円を割り込む水準まで落ち込んだ。
原因はグローバルな価格競争の激化だった。家電がデジタル化したことで、アナログ時代に日本の強みだった“すりあわせ型”のものづくりが優位さを失った。韓国メーカーなどとの品質の違いが縮まり、急速に低価格化が進んだ。いわゆる家電のコモディティ化についていけなくなったのだ。
追い打ちをかけたのが、2008年度のリーマンショックだった。世界的に景気が悪化し、家電需要も消失。2008年度から4期連続で最終赤字に陥った。
過去最大の4566億円の最終赤字(2011年度)が発表された2012年に、株価はついに1000円を切った。
この苦い経験からソニーが学んだのは、価格競争に巻き込まれない高い価値を認められる商品に絞らなければ、成長も望めないということだ。
そこで選択と集中を進める構造改革に踏み切った。
2013年にはビデオなどを作っていた岐阜県の美濃加茂工場を閉鎖。
2014年にはパソコン事業「VAIO」から撤退。
2017年にはリチウムイオン電池事業からも撤退した。
大規模な人員削減も行った。
一方、テレビはシェアを追わず、高価格帯に特化する戦略に切り替え、黒字化にこぎつけた。
あわせて新たな収益の柱に位置づけたのが、コンテンツビジネスだ。
家電というハードを売るのではなく、ソフト=コンテンツで継続的に売り上げをあげていくビジネスモデルへの転換を目指した。
例えば「鬼滅の刃」のようなアニメのヒットをきっかけに、音楽やゲームでも関連するコンテンツを出し、相乗効果で売り上げを増やしていくという循環だ。
また、毎月定額を課金する、いわゆるサブスクリプションサービスも組み合わせた。
ゲーム事業では、ゲーム機とゲームソフトを単発で売るのではなく、ネットを通じてソフトを利用できるよう仕組みを作り、ユーザーとのつながりを保つようになった。
いまやプレイステーションでソフトを楽しむための有料会員は世界でおよそ4600万人に上り、安定的な収益源となっているというわけだ。
狙うEV市場
コンテンツビジネスに次いで、今のソニーの大きな収益源となっているのが画像センサー事業だ。
一般の消費者の目には触れにくい「部品」ではあるが、去年の世界シェアは50%とトップを誇る。
世界最大規模のテクノロジーの見本市、CESで、ことしソニーは開発中の自動運転EV(電気自動車)の公道での走行実験を公開。
アップルがEV参入かという情報が伝わったタイミングとも重なり、注目を集めた。
この車は、画像センサーが自動運転のカギを握っていて、道路の状況と運転する人の表情をリアルタイムで読み取り、自動でハンドルやブレーキの操作を支援するなどの役割を果たしている。
スマートフォンの普及に伴って需要が拡大してきた画像センサーだが、自動運転技術に採用されれば、さらに市場が広がることになる。
ソニーは去年4月、社名を「ソニーグループ」に改め、新たなスタートを切る。
祖業のエレクトロニクスもほかの多くの事業と同じように持ち株会社の傘下に置かれる形になるが、今後の経営環境は決して楽観視することはできない。
コンテンツビジネスで、先行する巨大なライバルと競争するためには、世界で通用する優良なコンテンツを生み出し続けなければならない。
トップシェアを誇る画像センサーでも、韓国のサムスン電子などが追い上げようとしている。
そして何より、次の時代において収益の柱となりうる新たな事業の芽を育てることも必要だ。
ソニーがどのような針路をとるのか?それは日本の企業や経済にも大きなインパクトを与えるだけに、目が離せない。