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【短編小説】自動販売機と優しい嘘2/5話

午前で修了式が終わり、午後は待ちに待った打ち上げだ。
高校生なので、やれることなんて知れている。
近くの複合型商業施設でランチして、ボウリングして、プログラムは終了する。
その後は流れに身を任せるが、各々の夕飯までには解散することになるだろう。

私は幹事としてランチとボウリングの予約、そして女子への連絡と出欠確認をした。
ランチの店は木下のオススメのところに決めた。
木下曰く、味も雰囲気もファミレス以上だが、多少は騒げるカジュアルなイタリアンだとか。
男子への連絡と出欠確認も、木下がやってくれた。
嬉しいことに、ランチは男女とも全員出席だった。

高校から複合型商業施設まで割と距離があるので、多くの人は電車で移動する。
ローカル線で乗り換えなし5駅で、所要時間にして15分程だ。
自転車通学の人や、ボート部のように高校に自転車を置いている人は、自転車で向かった。
後者の木下や高山くんも自転車だった。


私は今日、高山くんに告白しようと決めていた。
正直なところ、勝算はない。

実は、およそ1ヶ月前のバレンタインデーに少し高価なチョコレートをプレゼントしていた。
そもそも、高山くんが私のことを全く意識していないように思えたからだ。
木下始め、何人かにカモフラージュとして普通のチョコレートを渡していたが、中身を比べれば高山くんのが本命だとバレバレだっただろう。

高山くんは、照れながら「ありがとう、藤崎さん」と受け取ってくれた。
恥ずかしくて目を合わせられないのか、少し俯いて頬を赤らめる様子が可愛くて、私の胸は波打った。

因みに、先日のホワイトデーには『タオルマフィン』を返してくれた。
タオルをマフィンに見えるようにアレンジしたもので、開いてみると、チョコレートマフィン色のタオルハンカチが現れた。
ラッピングを解いた時のサプライズ感と可愛らしさが何だか高山くんらしくて、思わず頬が緩んだ。

渡した時も、お返しをくれた時も、お互い特別な言葉は交わさなかった。
ただ、お返しを準備してくれたということは、少なくとも高山くんが私のことを考える時間はあっただろうから、バレンタインデーの目的は果たされている。
だが、もし両思いだったなら、ホワイトデーの段階で何らかの+αのアクションがあって良いような気もした。
単にお返しだけということは、その時初めて私のことを意識したのだろう。
今は、私のことを恋愛対象として見ようとしてくれているのだと信じたい。


別に、振られても良いと思っていた。
過去の恋愛は、そもそも何も伝えずに終わってしまったので、少し後悔があった。
当時は当時で悩んだ末に気持ちを伝えなかったのだが、後々彼らのことを好きだった自分が報われなくて、何だか寂しかった。

好きな人に会えるから、学校に行くのが楽しみ。
少しでも良く思われたいから、自分磨きに精を出す。
恋愛している期間は、毎日が輝いて見えていた。
たとえ思いが実らなくとも、それだけでありがたかった。
だから「君のことを好きになって良かった」と、せめてそう伝えたかったのだ。


私はその場ですぐに返事が欲しかったので、予め告白されると察して欲しかった。
だから、打ち上げが始まる前に彼にLINEをした。
「打ち上げ終わってから、少し残れるかな?話したいことがあって」

全員集合の賑やかなランチを終え、大勢がボウリング場へ移動する中、予約を確認するついでにLINEを開く。
高山くんからの返事はなかったが、私の予告文に対する既読がついていた。

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⇨3話に続く

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