【短編小説】自動販売機と優しい嘘1/5話
今日、私は清水の舞台を飛び降りるつもりだ。
これまでの人生で、こんなに覚悟を決めたことがあっただろうか。
いいや、ない。
だって、人生で初めて好きな人に告白するのだから。
初恋は小学5年生の時。
相手は小1の時に同じクラスで仲の良かった男子で、小5で再び同じクラスになったことがきっかけだ。
当時はただの遊び仲間だった彼も、4年の間に少女漫画を齧った私にはひたすら眩しかった。
好きだと気づいた次のタイミングの席替えで、彼の隣の席になれた時には小躍りした。
彼も「舞香ちゃんの隣の席で嬉しい」と言ってくれたが、次の日には「河合さんのことが好きなんだけど、どうしたら良いと思う?」と持ちかけられ、私の初恋はそこで散った。
だって、『河合 奈々子』はまさに“天真爛漫“という言葉の似合う、学年一のモテ女で、私の大親友だったから。
奈々子の良さは私が1番分かっていたので、私に勝ち目がないことも明白だった。
後から聞いた話だが、彼は学年イチ走るのが速くて、その他大勢とは異なり中学受験に挑戦する側の人で、私以外にも同級生の女子たちの少なくとも6人は彼のことが好きだったらしい。
そりゃあ、奈々子がライバルで無くとも私なんかが勝てる訳ない。
狼煙が上がる前に手を引くことが出来て、寧ろ良かったのかも知れない。
次の恋は中学1年生の時。
相手はこれまた同じクラスで仲の良かった男子だ。
初恋の時とは違い、殆ど一目惚れだった。
ただ、顔だけではなく、その中身も知れば知るほど“好き“が増した。
彼は、誰に対しても分け隔てなく接した。
他人を貶して笑いをとるようなことは決してしなかった。
明るくて、気さくで、クラスの人気者だった。
だから、案の定ライバルも多かった。
私は、クラスメートの中でも彼とは特別親しかったが、その関係を崩すのが怖くて、自分の気持ちを伝えられなかった。
中2、中3の時は別のクラスだったが、ずっと好きだった。
結局 彼とは友達のまま、中学を卒業した。
そして、今回の恋も高校1年生の今、相手は同じクラスの仲の良い男子である。
我ながら、新しい環境で早々に恋愛相手を見つけるのが得意で、感心する。
彼、高山 翔吾は大きな瞳と笑窪が特徴的で、女子たちが羨むような可愛らしい顔をしていた。
背も男子の中では低めだが、幼い頃から野球をしていたそうで、肩幅は広く、後ろ姿はしっかり男子だった。
そして、これまで好きになった2人と大きく異なるのが、クラスの人気者でもなければ、どちらかと言うと控えめなところだった。
高山くんの定位置は、恰幅が良いお調子者の木下 友宏の後ろだ。
木下とは同じ中学出身で、野球仲間らしい。
高山くんは男子とは楽しそうに遊んでいるのをよく見たが、女子とは殆ど話しているのを見たことがなかった。
私が声をかけても、なぜか木下が返事して、高山くんは恥ずかしそうにニコニコしているだけだ。
もしかして女子が苦手なのかな?
その様子がしおらしくて、私の母性本能をくすぐった。
私は、高1のクラスでは楽しいことを率先してやる側だった。
文化祭の出し物を決める時も、自然と木下と進めることになり、高山くんと接する時間も増えた。
高山くんは、何回目の会話でも含羞の表情を見せていたが、少しずつ言葉数を増やしてくれた。
どんな時も否定的なことは言わなかったし、私の提案に二つ返事で賛同し、誰よりも尽力してくれる頼もしい一面も持っていた。
高山くんといると嫌な気分になることがなかったし、いろんな表情を見せてくれるのが嬉しくて、「もっと仲良くなりたい」という気持ちが、いずれ“好き“になった。
高1の3学期を迎えた時。
高山くんが文理選択で理系を選んだことを知った。
私は文系を選んだので、今後同じクラスになることは無くなってしまう。
うちの高校の場合、1学年500人程度のマンモス校なので、クラスや部活が一緒でない同級生たちとは接点がないのが現状だ。
私は、高山くんと最後の思い出を作りたいという下心を隠しながら、木下に話を持ちかけた。
「修了式の日さ、打ち上げしない?1年8組最後の日だし」