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【短編小説】自動販売機と優しい嘘4/5話


結局、ボウリングの結果は散々だった。
仲間だと思っていた美玲ですら、隣のレーンで80前後のスコアを上げている。
その半分ほどしか取れていない私は、同じレーンの仲間たちに平謝りするしかなかった。

そんな私を見て、高山くんは「藤崎さん、ナイスファイト」と笑って言ってくれた。
因みに、高山くんは1ゲーム平均130くらいは記録していた。

優勝は平均スコア200超えの木下のいた5番レーンで、最下位は1番レーンだった。
幸い、1番レーンには私ほど下手な人はいなかったが、特別上手い人もおらず、スコアを伸ばせなかったようだ。
最下位のチームは優勝チームに何かを奢ってあげる罰ゲームを用意しており、1番レーンの5人で5番レーンの4人分のジュースを買ってあげていた。



ボウリング場を出る頃には18時を過ぎていた。
辺りも暗くなり、商業施設内の人出もレストラン街へと移動している。

私たちも一部は解散したが、別れを名残惜しく感じた者達は商業施設の片隅にある広場に腰を落ち着けることになった。


私はここで、スマホに何度も入っているLINEの通知をようやく確認した。
全て母親だ。
いつ帰ってくるのか、と同義の言葉を連投している。

今日は打ち上げだから遅くなる旨も、私が幹事だから真っ先に帰る訳にはいかない旨も、事前に伝え、了承を得ていた。
きっと、それでも心配するのが親心なのだろう。

本来うちの門限は18時だが、今から帰宅したとして、学区外から通っている私の場合、家に着く頃には軽く19時半を回るだろう。
私は取り急ぎ、「まだ帰れないけど、帰る時間が分かったら連絡する」と母親に送信した。

そう、私はまだ、帰れない。
幹事としての責務は果たしたが、私個人の為すべきことがまだ残っている。



そうして、“その時“が来るのを待ったが、“その時“は当分訪れなかった。

私は甘かった。
想像していた以上に学区内に住む人間は、19時になっても帰ろうとしなかった。

帰路にかかる時間が短いから、という理由だけではなさそうだった。
この辺りは私が住んでいる地域よりも都会だから、都会育ちの人間はこのくらいの時間でも外出するのが当たり前なのかもしれない。
ここで初めて気がついたが、学区内とか外とか関係なく、私は箱入り娘だったのかもしれない。

とにかく、あと20人程が中々帰らないので、高山くんと2人になるタイミングを作れなかった。


学区外組でまだこの場に残っているのは、バスケ部の小川くんと武村くんと私だけだった。
せめて、2人が帰るタイミングで一緒に帰らないと、帰るタイミングを完全に見失ってしまう。

「舞香、お母さん大丈夫?そろそろ帰らないとヤバそう?」
隣にいた美玲が心配そうに聞いてきた。

うん、帰らないとヤバいよ。
出てないけど、電話もかかって来てる。
きっと、お父さんが帰ってくるまでに帰らないと、お父さんにも怒られる。

どうすべきか、考えろ。

そもそも、「打ち上げの後、残って欲しい」とは言ったものの、私はどうやって高山くんと2人きりになるつもりだったのか。

ボウリング終了時に、幹事として打ち上げ終了宣言をする。
そこで大勢が帰ろうとする。
何も知らない木下は、きっと高山くんと一緒に帰るつもりでいるだろう。
そのタイミングで高山くんには寄るところがあるとか何とか言って木下を撒いてもらう。
そんな感じだったのかな。

いや、「残ってほしい」としか頼んでないのに、木下を遠ざけてくれるのか?
「藤崎さんに残って欲しいって頼まれてるから、ちょっと待ってて」
と、木下を待たせている状態で、ささっと私の話を聞く。
これが1番あり得そうだな。

ただ、実際は大勢が帰るどころか、まだ1年8組だと名乗れる塊で行動している。
予想以上に打ち上げを楽しみ、皆が離れ難く思ってくれた成果だとしたら、幹事としては喜ばしいことこの上ないのだが。

清水の舞台から飛び降りる覚悟を決めた、私、藤崎 舞香にとっては最悪の状況だった。
このまま、最後まで残ったとしても、2人きりになれる可能性は少ないのかも知れない。


告白の舞台について考えるうちに、バスケ部の2人が「そろそろ帰る」と言い始めた。
帰るなら、今しかない。

断腸の思いで、高山くんにLINEを送った。
「ごめん、残って欲しいってお願いしたけど、やっぱり家に帰ってから電話しても良いかな?」

皆に「私も帰る」と言って、バスケ部の2人と合流する。
まだ帰る気配のないクラスメート達に「今日は幹事ありがとう」と感謝の言葉をかけてもらいながら、私たちは広場を後にした。



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⇨5話に続く


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