かぶきあげ

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【小説】山神の恋文

 ほとり、とペン先からインクが落ちた。つけペンを使うのなんて初めてだったから、加減を見誤ってインクを付けすぎたのだ。滴ったインクは新品の原稿用紙へ、瞬く間に広がっていく。初めは澄んだ闇色で、広がる毎に鮮やかな藍色へと移り変わっていく。夜の海を思わせる、美しい色だった。ここにホワイトでも散らせば、きっと星空にだって見えるだろう。  小説なんて書くのは僕にとって初めてのことだ。何事も形から入りたがる僕は、先ず近所の総合百貨店にある大きな文房具屋で、原稿用紙とペン、インクを購入して

    • 【感想】むつむ高校文芸部誌 秋ノ号

       春、夏と続いて秋も参加させていただきました文集企画「むつむ高校文芸部誌 秋ノ号」が公開されました~!  未読の方はこちらからダウンロードしてぜひぜひご一読ください。なんと無料です。  今回のテーマは「香に迷う」。私はこれを見た時に「コーヒー」「ミステリー」を連想したのですが、雅な印象を受けた部員さんが多かったようでちょっとびっくりしました。  作品の掲載順、今回もおもしろい趣向になっててですね。作者本人に自作品の香りを申告してもらい、部誌一冊を香水に見立ててその香りの移り

      • 【小説】あなぐら

        ※本作は「むつむ高校文芸部誌」という企画の夏ノ号で公開した小説です。 「むつむ高校文芸部誌」とは、参加者が共通のテーマを元に作った作品を持ち寄り、架空の高校の文芸部誌として刊行するという企画。 夏ノ号は私含め計8名の部員が「地獄に見つめられている」というテーマで作り上げた作品集となっております。 PDF版は部長である透子さんのBOOTHから無料でダウンロードしていただけます。 部員それぞれの地獄を感じられる素晴らしい部誌となっておりますので、ぜひご一読ください。 それでは

        • 【感想】むつむ高校文芸部誌 夏ノ号

           春に引き続き参加させていただいておりました文集企画「むつむ高校文芸部誌」夏ノ号が公開されました~!  今回のテーマは「地獄に見つめられている」。作品の並びはそれぞれ作者の自己申告による「地獄度」順になっています。色々調整も入っておりますので完全な数値順ではありませんが……。今回、恐れ多くも私がトリを飾らせていただきました。自信家だったとも言う。  ちなみに私は少し原稿の提出が早かったため(おそらく)一足お先にこの地獄度についてのお話を聞いたのですが、「なにそれおもろ~!!!

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        【小説】山神の恋文

          【感想】むつむ高校文芸部誌 春ノ号

           お声がけいただいて参加しておりました文集企画「むつむ高校文芸部誌」春ノ号、公開されました~! ぱふぱふ! めでてぇ!  ほんとにほんとに素敵な作品が揃っておりますのでまだご覧になっていない方はぜひ……! ぜひぜひご一読ください!  もうね、ぜんぶすきで……𝕃𝕠𝕧𝕖……  せっかくなので感想でも書いてみようか、と思いこうして筆をとった次第です。参加した感想ではなく読んだ感想になります。本当はもっと格好つけて知的な雰囲気を出したかったのですが、頭が悪いので無理でした。悪ければ

          【感想】むつむ高校文芸部誌 春ノ号

          【エッセイ】歯が抜ける夢の話

           何度も繰り返し見る夢がある。たぶん誰にでもそういう夢が1つや2つあると思うのだが、小さい頃の私はそれが「近くの大型ショッピングモールの2階から落ちて死ぬ」というものだった。  実在するそのショッピングモールは実家から車で2、30分ほど走った所にある。それが近いに分類されるかどうかはともかく、実家のあるド田舎には他に家族連れが休日に出かけるのに適当な娯楽施設がなく、家族で出かけようか、という話になると行くのは決まってそこだった。私は時間さえあればゲーム画面か図書館から借りてき

          【エッセイ】歯が抜ける夢の話

          【小説】鉢底の煙草

           タバコの香りが似合う女性だった。  私は古い人間なので、一種の差別意識とでもいうのか、ともかく女性がタバコを吸う事に否定的な感覚を持っていたのだが、彼女に対してだけはそういったネガティヴな感情を抱く事はなかった。  紫煙越しに見える細く長い指先は女性にしては随分節くれだっており、時に灰色がかってさえ見える不健康な肌色、油っけのないばさりと広がった髪と、ともすれば老婆とも見間違えかねないその容貌に、くしゃりと歪んだ煙草の箱はあまりにも似合っていたのだ。濁ってこそいないが光を通

          【小説】鉢底の煙草

          【小説】傘の中の青空

           彼女の傘の中には、いつでも青空が広がっていた。  というのも、彼女が持っていた雨傘の内側には、文字通り青空の模様がプリントされていたのだ。憂鬱な雨空の下でも、それを差せば一人だけ晴れの空を満喫できるという寸法だ。ただし表には光を一切通さない黒の生地が使われていて、夏服ならまだしも、私達の冬の制服は真っ黒と言って差し支えないデザインだったから、その傘を持つと全身濡烏になってしまうのだが、それでも彼女の身振りはいつもひどく無邪気だった。  傘を手の中でくるくると回し、水溜まりに

          【小説】傘の中の青空

          【小説】パラレルワールド

          「あのさ」 「うん」 「パラレルワールドってあるじゃん?」 「うん」 「ふと思ったわけ。今俺は生きてるけどさ、もしかしたら他の世界線では俺って死んでんのかなーって」 「うん」 「他の世界線で俺は寝てる間に死んでて朝起きれなくてさ、メシ食ってる最中に喉詰まらせて死んでさ、登校中に交通事故にあってさ、授業中に飛行機がつっこんできてさ。色んなタイミングで死んだ色んな世界線があったりすんのかなって」 「うん」 「そのどれもでお前が泣いてくれてんのかなって」 「うん」 「去年俺ばーちゃ

          【小説】パラレルワールド

          【小説】空に溶ける

           屋上で仰向けに寝ころがり、一瞬空に溶ける感覚を味わうのが好きだった。当時高校生だった僕に学校へ行く理由があるとすれば、その瞬間を感じるためだけだった様に思う。  広い屋上だったから、ざらついたアスファルトの中央に寝転がれば、フェンスも入らない一面の青空が視界に広がった。雲の流れだけをぼんやり追っていると、いつしか、校庭の歓声、町内の放送、白線を引く飛行機の音が遠く、ホワイトアウトする様に高く、消えてゆく。  そうして訪れる一瞬の静寂の合間、絞る様に視界が狭まり、体が寄る辺を

          【小説】空に溶ける

          【小説】泥中を食む

           錆び付いて、所々腐食し崩れた金属製の階段を登る。  前を歩く男性はその危うい様子を気にしていない様子で、かん、かんと独特の金属音を立てながら、古く朽ちかけたアパートの二階、彼自身の部屋へ向かう。今にも抜けそうなのが怖くて、そろり、と極力体重をかけない様ゆっくりと後を追うと、その間に彼はポケットから鍵を取り出していた。  緊張からかその手はひどく震えており、ただ鍵を錠に差し込むだけの、毎日行うであろうその動作がうまく出来ない様子だった。 「あれ、その、おかしいですね」  

          【小説】泥中を食む