
ブルーライト小説「瞬間、青く燃ゆ」(葛城騰成 著/アルファポリス文庫、星雲社)読了
Noteアカウントはとっていて、どう使おうかと思ってしばらく放置。
ということで初Noteは読書感想文でした。よろしくお願いいたします。
【注意】もしかしたらネタバレが多めかもしれません。
これから本作を読もうとする方はご注意ください。
■読むことになった切欠
もともと、木立花音さんのブルーライト小説をAmazonの電子書籍で拝読して、その後輩というか、お弟子さんというか。言うなれば箱推しをさせて頂いている葛城騰成さんも読んでおかねばと、今度は紙の本での購入をさせて頂いた次第です。恐縮ですが、アルファポリス文庫さんは大出版社ではないため、欲しいとなった際には霞が関や虎ノ門界隈にはない。運動がてら千代田区は書泉グランデさんまで歩いて購入しました(書泉さん、その節は閉店間際にも関わらずご対応頂き感謝)
私はものすごく飽きっぽいし、忘れっぽいので、大変申し訳ないけど紙の書籍には思ったことや調べものが必要な事は、直接書き込んだり、耳を折ったり、章ごとにバラす癖が有ります。そう言う意味でカバー表紙以外、つまり紙面は既にボロボロですが、紙の書籍で購入して期間をかけて読み込むことが出来たのでよかった、とも。
以下、感想です。
■二人と周囲皆のトラウマ、そして寛解の物語
リアルに悩み、そして進んでいく中高生のあれこれを描いているように見えた。
春野律の彼女であった相場夏南はヒロインではない。というの簡単だが、実際に近しい人を良くない形で喪うと「そこには何も無かったかのように整地」などされることはない。寧ろ律のようにトラウマの原因、過去の亡霊となる。この作品は良くそれを捉え、表現していると感じた。区切りとなる出来事にも少しづつ向き合うことに心を砕いた表現の一つ一つが訴えかけてくるかのように拡がっている。
その点でプロローグ冒頭、初々しく……というより初めてもった彼女(一度も失恋経験がないと思われる!)に、浮かれポンチで脳天気な律の描写と一章以降の落ち着いた(というよりは心の平衡を保とうとしている)彼の対比は良く出来ており、その意味で冒頭五頁のプロローグはよく練られていると感じた。
■第一章
失意を引きずったままの律に関わるヒロイン、市川麻友は一見して助けを求める姿が余りにあからさまに、押しが強く見えるが、この時既に話が転がり始めていた。母の再婚相手の息子がストーカー。麻友がなぜあのような形で律に近づいたのかなどについては伏せるが、結局は律が麻友と助ける事になったことについて、プロローグの書き出し、相場夏南が関わっている。
短い間にしっかりと紐づけ、最後まで関連付けをして第三者の関係性(とその変化)を韻を踏むように重ねていくことは、読み進めるのが遅く、かつ凄く忘れっぽい私にとって読み進めるうえでとても有難かったし、興味深かった。
■心視病
律は恋人の夏南を凶行によって喪ったそのときから、人の顔が「感情の色」で靄に覆われて見える奇病「心視病」に罹ってしまう。一見してWeb小説に登場する特殊能力のように見えるが、実際には受けたトラウマからの逃避、防御反応の裏返しであり、勝手に「人の顔色を窺う」ための代替の症状であったのかもしれない、と私は思っている。
律には、夏南の死後誰の顔も見えないかわりに、感情が色で判るという病気、心視病。いわばその「特殊能力」を使って麻友に関わる問題解決する事については一見して突拍子もない、ご都合主義に見えるかもしれない。
しかし彼が受け続けるデメリットも含めて心のありよう、動きを表現する上では十二分に説得力があるように思えた。
色とどのような出方をしているように見えるかでキャラクターの感情が「恐らくこうなのだろう」と着目させる効果があるが、そこに多少なりと拘るであろう読者についても多少考慮されているように見える。
私は前述したとおりに、生来の忘れっぽさを自認していて、本作では特にわかりやすい記号である心視病の描写「感情の色」が気になって、出た際に付箋をして各キャラクターで心の変化に対する字引が出来るようにした。こうしてこの色は恐らくこういう感情なのだろうなという共通項を得ることで、心の移り変わりが読み解けるだろう(読解力のある皆さんには必要がないのかもしれないが)。
まあなによりも、この物語で想い人でありつづけた夏南の顔すら思い出せなくなってしまう前に、このトラウマへの区切りをつけ、寛解し、平穏を取り戻せたことが良かったと思う。
■第二章~
半ばに入ってからは、ヒロインと主人公の立場・視点が逆転する。
この物語では、律の親友である熱血漢、伊勢谷大地を除いて登場人物のほぼすべてが、各々何かしらの心的な病や心配事を抱えている。例えば麻友の親友、西園寺怜佳は具体的、リアルな病名まで出しているが、それこそ本来当事者以外興味を持ってこなかった情報だと思う。それ故に、その病気を知っている、もしくはこの作品で調べ認知した際の解像度が上がるだろう。
麻友と怜佳の関係性についてはある程度の匂わせはあるし、実際その通りではあるが、だからこそのたった三頁ほどの「情熱と冷静の間」、本音剝き出しのやり取りに唸らされることになった(これは是非読んでみて)。
そして、こうした「総てを捨てた逃げの無い本音のぶつかり合い」こそが、絡みついた病理を寛解へと導く、という一本筋の通った回答なのだというように私は感じ取れた。ただの付き合いたい、好き合いたいという性同士の関わりではなく、人対人であり、自らの意思の表明と、譲れない、流されないという人として、ともすれば独り善がりになりがちな大事な部分をよく書き上げた作品に思う。
ブルーライトらしく、しっかり青春してるしね。
気になるタイトル回収は本当に最後の最後。麻友と律、そして怜佳がどうなっていくのか、皆の今後を期待させつつ皆の青春はまだ続くみたいな、とても綺麗な終わり方。読後感はとても清々しくさわやか、当に中高生向けのブルーライトとはこういうものなのかというとても素晴らしい出来!
もちろん最後からではなく、じっくりと読んで貰いたい一作でした。
良い作品を世に生み出してくれて、ありがとう!