作文テーマ「私の挫折体験」|苦しみを越えたその先に
「今の実力だと、コンクールメンバーに選べない」
大学3年生の春。木管のセクションリーダーに浴びせられた辛辣な言葉は、私の心に突き刺さる。人生で最大の挫折を味わった瞬間だった。
サックスを吹くのが大好きで「楽しい!もっと上手くなりたい」と9年間、毎日練習に励んだ。その集大成である、夏のコンクールメンバーを決めるオーディション。セクションリーダーには認めてもらえなかった。
でも、私の可能性を信じてくれたサックスの先輩が「コンクールメンバーとして一緒に頑張ってほしい」と声をかけてくれた。コンクールメンバーに選ばれたのは、先輩の優しさのおかげだ。
コンクール期間は、練習開始から全国大会まで約4ヶ月。実力不足の私にとって、何よりも辛い期間だった。なぜなら、自分の代わりはいくらでもいるから。コンクールに出場できる人数は限られているため、私がメンバーに選ばれたことで夢を諦めた人がいる。コンクールメンバーは、夢を諦めた人の悔しさを背負いながら舞台で演奏するのだ。
ある練習日。木管セクションリーダーが指導する中、難しい小節を一人ずつ吹かされた。緊張しながら一生懸命吹いたが「全然だめ。もう吹かなくていい」と叱責された。誰よりも朝早く練習を始め、誰よりも遅くまで練習したのに、またダメだった。
しかし、そんな辛い日々にも、明るい兆しが見えてきた。
「楽器が響いていない」
夏合宿の2日目に、サックス講師の先生から言われた一言。音程が合わないのも、連符が上手くつながらないのも、根本的な原因は「楽器が響いていない」からだった。
それ以降、楽器が響くための練習を続けると、少しずつ苦手を克服できるようになった。
原因を突き止めず、やみくもに練習しても結果はついてこない。いくら時間をかけても、苦手を克服するための練習をしないと意味がない。当たり前のことだが、ようやく頭で理解した。
楽器が響いた状態で曲を吹くと、周りの人と音程が合うようになり、「吹かなくていい」と叱責された小節もできるようになった。無事に全国大会の本番を迎え、金賞を受賞できた。
この年の苦い経験を乗り越えて、練習に励むこと1年。翌年、コンクールメンバーのパートリーダーとしてチームを引っ張った。課題曲ではソロを担当し、10年に及ぶ努力の成果を全国の舞台で発揮できた。自分たちの演奏が終わると、客席からは「ブラボー!!」と拍手喝采が沸き起こった。
挫折を乗り越えて味わえた翌年の感動は、社会人になった今でも忘れることはない。