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2024年読んだ本まとめ

2024年に読んだ小説の記録です。(X投稿のまとめ)
ネタバレ多少あり



『エレファントヘッド』/白井智之

小説という媒体のいいところって、「動物が死ぬ描写のある映画をノーガードで見て傷つかないよう事前に調べられるサービス」がある時代に、こんなにも多様な非人道的行為・非倫理的行為の描写が盛り盛りに盛られた作品が様々なおすすめランキング等で上位に入り、かつ売り文句として「事前情報なしで読んで下さい!」が通ってるとこだよな……ということをエレファントヘッド読んで噛みしめる。
そういえば、こんなにも倫理的にどうかと思う話なのに、意外にも"ネタバレなし推奨を真に受けてエレファントヘッド読んだら傷ついた!"的なツイート見たことないですね。
エレファントヘッドを読んだことによる被害報告をみない件、おそらくだけど本当に合わない人は「ぺぺ子」のくだりで投げるだろうから、そういった人は真の激ヤバパートに到達することがないために、結果的に悲劇の報告ツイートを見かけることがないんだろうな。
最序盤がよく分からないのと、主人公の家族の話がなんかだるいのとでなかなか読み進まず、グロいとか感じる以前にめちゃくちゃ難解では?との感想が先にきて、世界観にピントを合わせるまでに時間かかった(後になって主人公と家族の話は必要な会話だとは理解した)。
"もぐら男"が出たあたりからグッと引き込まれ、ぺぺ子登場のくだりで完全に目が覚めた感じ。
静かに始まった1章から一転、2章冒頭からの迫力がものすごい。すごい量の狂いと悪趣味が一気に流し込まれてえっ?えっ?と驚きと困惑にまみれる。ぺぺっ、いやうそだろ娘の彼氏と……えっ?ま、まさかそんな……
エレファントヘッドは「ドラえもんだらけ」だった?
最後のアレについて(人としての倫理道徳はひとまず脇に置いといて)、ドン引くよりもここまでくるともはや、高難易度ゲームの超絶プレイ見ているような爽快感すらあった。例えばスレイザスパイアでコンボが決まったときのような、 そう……まさにサイレントの「〇〇〇〇」を(小説のシチュそのまんまの名前と効能のカードすぎてさすがに伏せる
この世界のルールをシステム化したアドベンチャーゲームやりたいなあとは思った、なにぶん私はゲーム人間ですので……。

ところで、象山が嫌いだ。
私は性欲に負ける頭脳明晰異常殺人犯キャラが苦手だ(当たり前体操?)、そんなところの造形だけ現実に寄せられても萎えるのよ、そもそもこの手のキャラはフィクションで消費されすぎていて単純に見飽きているんですよ。
本作の主人公・象山は『Thisコミュニケーション』のデルウハと並べて語られがちだけど、うまく性欲を制御してるつもりで実際は性欲に負けまくってる象山なんかより、デルウハ殿の方が圧倒的に格が高い。
よかったあ、デルウハ殿が異常性欲者じゃなくて……。

媒体によるネタバレ自衛観の差異について真面目に考えてみる。
同じ2000円弱払うサービスでも、苦手な表現が現れたときに逃げづらい映画館での映画鑑賞に対して、小説は本を閉じたら苦手な表現から即座に逃げられるという圧倒的な違いがあるから、逃げられない映画の方には自衛のためにそういう自衛サイトのようなサービスが発生するんだよね……分かるよ(プラス、映画館で損切り=途中退出は完全に金を捨てることになるけど、書籍なら途中で読むのやめてもモノは手元に残るから完全な損失にならないって差もかなり大きいかも……こんな時代だし)。


『爆弾』/呉勝浩

めちゃくちゃ面白い!!
本文の8割(体感)くらい、薄気味悪いおっさんがニチャニチャ喋っている。
得体のしれない無敵のおっさんが、取り調べにおける会話バトルで刑事を負かし続ける話で、ものすごくインターネット(概念)な話してるなと思う一方、映像化したら映えるシーンしかなくてすごい。絶対映像化するだろと思いながら読んでた。
無慈悲な連続爆破シーンから、沙良と矢吹の他愛ない会話シーンまで、あらゆるシーンが脳内で映像が再生可能である。
スズキタゴサクのキャスティングをずっと考えてたけれど、見た目と喋り方だけならバラエティ番組出まくってた頃の蛭子能収がいいな♪
あと単純に会話劇がめちゃくちゃ楽しい。序盤も序盤、出たて情報0のキャラ同士の会話がはじめっから面白く感じられるのすごいと思う。

「心を覗けるってのは相手の汚い部分から逃げられないってことですから」「他人の本音なんて知らないほうがいい」「人はひとり残らず汚い部分を持っています」「いちいち見抜いてたらコミュニケーションなんて無理だ」
というくだりが刺さる。
実にインターネットだと思った。
我々はインターネットで疑似サトリ体験している。


『テスカトリポカ』/佐藤究

こんなにも"暴"で"薬"で"悪"なのに、読後感めちゃいいのは何なんだろう。
半グレの生首ダンクや、下手こいた下っ端が生きながら心臓抜かれる描写はあるけれど、通常は暴力とセットになりがちな性描写の類がほぼないため、逆に読みやすく感じる人もいるのではないだろうか。
性暴力描写は苦手、だけど純粋な肉体への暴力と残虐描写だけは摂取したい!!という人に薦めたい。
長編の冒頭から速攻で惨劇を見せてくれるのも好感触だった。
年明け一発目に読了にして、結局この作品が2024年で一番楽しめたと思う。

手塚で読んだことあるのグリンゴだけだ、と言われて 「未完のやつじゃねえかよ」と返せる暴力団員がちょっと面白かった。こういうの好き。

『可燃物』/米澤穂信

ミステリ短編ってこうよ、こういうのがいいんだよね!と、ひしひしと感じる、とても読みやすいミステリ5編。短編大好き。
エモいくだりもあるのに主人公の葛刑事のキャラクターのせいか、全体的にドライな雰囲気だ。
そんな中で葛刑事がいっつもカフェオレと菓子パン食べてるのがとても気になってしまう。主人公の感情や見た目などといった、パーソナルな情報についてほぼ描写がないゆえに、余計に菓子パンとカフェオレに関心を持ってしまうんだぜ。淡々と進む物語の中で、そこに"人間"を感じたのだ。
ドラマ化するなら絶対NHKがいい(『満願』みたいな感じでたのみます!!)。

『変な絵』/雨穴

勝手に、「2000年代インターネットの日記仕立てのホラーサイト風な話や意味が分かると怖い話集」なんだろうなと想像していたが、そういったものをベースにしつつ、筋道を立てて書かれた一本のミステリだった。
めちゃくちゃ読みやすい!そこが一番の良さだと思う。どんな人にもこの物語を読んでもらいたいという作者の優しさを感じる。実際、今年読んだ小説で一番さっくり読めたし、一般小説を読んだことがない小学生でも2時間ぐらいで読了して、満足感を得ていた。すばらしいね!
ただ、『可燃物』と続けて読んだせいで、警察の捜査の杜撰さが気になってしまい……山での事件の捜査に"葛警部"がいたら3件目以降の殺人は絶対起こってないよね、といういらぬ感想が思い浮かんでしまった。

『方舟』/夕木春央

謎解きアドベンチャーゲームのラストの選択をしくった結果のバッドエンド感
最後のセーブデータをロードして主人公の選択肢選び直させろ

『本好きの下剋上』シリーズ/香月美夜

長らくタイトルだけ知っていた作品についに手を出した。すごく!面白い!
児童書レーベル版が刊行中らしく、図書館の新刊の棚に並んでいたのを見て、XのTLで聞いたことがあるタイトルだな、ジュニア文庫ってことは児童書だったのか、子が読むかな……と思って(勘違い)借りてきたけど私がハマった。いまTOブックス版をちょっとずつ買い進めてます。
1巻、"異常なまでの本好きの異世界転生"、から予想する安易な展開にならず、最も役立っているのが母の趣味に付き合った経験と義務教育で学んだこと、というのが面白くてここでグッと掴まれた感じですね。
本大好きという性質が、貧しく幼く虚弱な体で二度と本を読むことができないかもしれない環境に転生してしまった絶望に打ち勝つほどの「もう一度自由に本を読みたいという強い意志」となって、生きる上の希望と大きな目標になってるのがうまいと思う。"本好き"は手段ではないのだ。
1巻での主人公が幼く、ここまで?と思うくらいに虚弱で驚いた。虚弱ゆえに主人公の交流がほぼ家族に限定され、やりたいこともできず、この世界のことを知ることができない状態を読んでいてもどかしく感じたが、これはかなり主人公の気持ちとシンクロしてたと思う。魔力がある世界だと判明したときは、私も同じテンションで感動してしまった。
それでいて現代日本の知識を生かして儲けるという異世界転生ものの醍醐味(と私が思ってる要素)もきっちり味わえてたいへん気持ち良い!まだまだ世界が広がっていきそうで、これから続きを読み進めていくのを楽しみにしている作品である。

『ハンチバック』/市川沙央

皮肉たっぷり、多方面への教養を感じさせる書きぶりが、上手い人のツイッターみたいな読み味でめちゃくちゃ読みやすい。
そしてなんといっても「読書文化のマチズモ」。
この作品を読んで私はあらゆる本は電書化されるべきである党に入りました。

『爆発物処理班の遭遇したスピン』/佐藤究

SF、実録っぽいやつ、ハリウッドっぽいやつ、都市伝説っぽいやつ等8編、乾いた文体で丁寧に何か嫌なことが起こりそうな描写がされ続けるから読みながら常時緊張感にさらされる。冒頭で主人公が過去を振り返って語り始めるスタイルの作品以外はまったく安心して読めなかった。
『くぎ』は『テスカトリポカ』に近しいエッセンスを感じた。読後感もよい。
世知辛ヤクザミステリ()の『シヴィルライツ』も好きだ。空気感が北野武映画っぽい。
にしても子どもがひどい目に合う率が高い作家だ。長編1作短編8作読んだうち、3作で大量に惨殺される描写がある。暴力と狂気の多さに反して性暴力描写はほぼないため、純粋に暴力を摂取したい人向けに思うのだが、その一点から誰にでも勧められるわけではない作品の枠に入ってしまう。
死の描き方そのものはドライではあるが、描写としてないだけで、苦痛にまみれた凄絶な死が存在しているのは確かなので (ついでに言うと動物もめっちゃ死ぬ)。

『変な家』/雨穴

>お世話になってる編集者
が完全にオモコロの原宿編集長のビジュアルで脳内再生された。
なぜ実写映画にオモコロ原宿似の編集者が出なかったんですか?

『あなたの燃える左手で』/朝比奈秋

読み始め1ページでひゅっと緊張感が走る。
詩的なタイトルからは予想できなかったが、現実の領土問題と再生医療をリンクさせた話だった。
時系列が入り乱れて語り手も信用できない中盤は難解で、まるで幻覚のようだ。国と国との境界、繋いだ腕と自分との境界、現実と妄想の境界と"境界"がキーになってる。ゾルタンの、どストレートな指摘には納得しちゃうね。
難解さは感じるけれど、大事なことはけっこうドクトル・ゾルタンが直接語ってくれるので分かりやすくはある。
読み切ったらはじめから読み返したくなる構成で、実際読み返してみるとただ衝撃的だった序章の印象がちょっと変わる。
確かに"怒り"だ。

『優等生は探偵に向かない』/ホリー・ジャクソン、服部京子 訳

冒頭から"超高速・高校生探偵事件簿"かな?ってくらいに、ダイジェストで本筋になりそうな事件の話していて、贅沢な前振りするミステリだなあ……と思っていたら、普通に前作の話の振り返りまとめだった。あっ、これ3部作の2作目だったわ。おもくそネタバレなので、嫌な人はシリーズ1作目の『自由研究には向かない殺人』から読むように。
かなり大・インターネット時代の話だったと思う。
人間は分かりあえないぜ!
真相に迫るにあたり重要な要素が終盤差し掛かったとこで急に出てきた印象があったが、私が何か読み飛ばしてるだけかもしれないのでここはなんともいえない……。
事件の性質や事件へのアプローチ方法等、ものすごく"今の時代"を書いてるので、どうか古びないうちに読んでほしい。なにとぞ、自由研究には向かない殺人から読んで下さい。
主人公含め、登場人物全員にうっすらイラつきながら読んでいたけれど、それでも面白かったのですごい。キャラクターの好感度に頼らない話作りの強さがある。

『地雷グリコ』/青崎有吾

読み進めるたびに「オタクすぎる……」と感嘆の声が出てしまった。面白すぎる。
事前情報ゼロで手に取ったけれど、1ページ読んだだけで生徒会!旧校舎!堅物メガネと飄々ギャル!と馴染みある世界が広がってた。
オタクすぎる。
かなり複雑で難解なゲームをやっているが(「だるま〜」以降特に)、語り口が巧みで、ああそういうことね!と気持ちよく分かった気にさせられるので(分かった気にさせられるだけ)(実際は分かってない)、とてもとても読みやすい。
ていうかめちゃくちゃ嘘喰いが好きな人が書いてるね?
「自由律ジャンケン」が好きで、いろんな人の独自手がみたい、特にオモコロでやってほしい!
と思ったが、この願いはオリジナル将棋回でほぼ実現されたかも。

『本と鍵の季節』/米澤穂信

主人公と相棒のキャラクターと後味の苦さに、これこれ、これぞ穂信節〜となった。
そして、ほのかなBL感。
これ読んでる間、やっぱ連作短編型のミステリ好きだわあ、とつくづく思った。
短編集だけど全て話が繋がってて最後の話で総決算するタイプのやつ。大好き。
小説の本筋に入るまでをダルく感じてしまうため、速攻で本題に入ってくれる短編は私の肌に合う。

『卒業生には向かない真実』/ホリー・ジャクソン、服部京子 訳

シリーズ2作目『優等生には〜』の冒頭で超ネタバレダイジェストがあったからいまさらもう読まなくていいやろ!と判断してシリーズ1作目を読まずに読んだが、これ大まちがい。3部作完結編に手を出すなら絶対に『自由研究には向かない殺人』から読んだほうがいい。マジで。
二部構成だが、第一部のラストでええええ!?と叫んだ。叫ぶだろうこんなの全員……。
第二部の主人公の決断、この展開をやるために警察へ不審を抱くシーンを繰り返し描写してたんだろうな、作者が司法制度に失望してるんだろうなということがひしひしと伝わってくる。
と同時に、いわゆる"死体埋め"ものであり、若い時に読んだら違う感想出てきただろうなあという気持ちにもなった。
若い人たちよ、ホリー・ジャクソンの向かない3部作を読みなさい。自由研究には向かない殺人から。
第二部の主人公の選択にはきっと賛否あるだろう。
私もええんか?と思ったけど、『マイホームヒーロー』のてつおもだいたい同じ流れで同じことやって許されてたしまあいいかと納得してる。
私だったらその"重さ"にきっと耐えられないが……。

『受験生は謎解きに向かない』/ホリー・ジャクソン、服部京子 訳

「向かない」3部作前日譚で、3部作の登場人物がマダミスやる短編……なんだけどこれがめちゃくちゃ面白い!これ読むために3部作読んでほしいくらいに。
自分が演じるキャラが殺人者か否か書かれた封筒を開封して以降の展開がとにかくキレまくっている。主人公宛てのメモの文言が、確実に3部作最後を踏まえてるやつですね。
「マーダーミステリーってやったことないけど、こんなにも複雑で難解なオチを究明するものなのか、すげえ!」
とピップの真相解明演説に感服してたら、更にそれを上回るオチがきて、リアルに手を叩いて喜んでしまった。純度の高い「作者の人そこまで考えてないよ?」を浴びた気分だ。
このすごさを多くの人に浴びてほしいので、もっとたくさんの人に向かない3部作が読まれてほしい。

なんでもいいので漫画や小説の作品のキャラクターがマダミスをやる番外編や二次創作がめちゃくちゃ読みたくなった作品でもあった。


『君のクイズ』/小川哲

お、面白れ……面白いよこれ。『君が手にするはずだった黄金について』が合わなかったのでどうかなと思ったけど、これはめちゃくちゃ好き。
冒頭10ページで"クイズ早押し決勝戦、なんでこいつ1文字も問題文読み上げられてないのに正解しとんねん!"って謎が提示されて一気に引き込まれる。
やっぱり私は読み始めて10ページ以内になんらかの事件が起こる小説が好きだ。
読みながら『スラムドッグミリオネア』をどうしても想起してしまったけど、オチまで読むとあれとは逆のこと書いてると分かる。
あと単純にめちゃくちゃ読みやすい、どんどん読める。『変な家』で初めて一般小説を読みきった子どもに次読む本として勧めたいと思った(これ、真剣な提案)。

『レーエンデ国物語』/多崎礼

本格ファンタジーが苦手、というか全く読み慣れていなくて、1ページ目を読んでカタカナ固有名詞の多さに拒否反応が起きそうになったけれど、読んでみたら案外読みやすかった。このとっつきやすさは、架空の地名が多いだけで、独自の造語とかがあんまりないからかもしれない。
ともかく、480ページ強のストーリーに対する終章5ページがせつなすぎるね。
ここまでに綴られた壮大な物語も、歴史書には一行も記述されることはないのだ……。

ところで当時のメモによると泣いた赤鬼レベル100みたいなくだりがあるらしいが詳細忘れてしまった。
再読しよう!

『サロメの断頭台』/夕木春央

タイトル通りの話。「大正ミステリ」ときいて期待するものが大体全部入ってたのではないか。
始まってからしばらく全然殺人が起こらなかったため、あまり人が死なないタイプのミステリなのかな?と油断していたら中盤から人がものすごい勢いで死に出した。
やはりミステリは死、人が死にまくってこそやね。
逆に言うと人が死にだす中盤まではぶっちゃけ、まあまあだるい (私は人が死ぬミステリの方が好きだから!)。
 なにも起こらない序盤が嘘のように、終盤に向かって指数関数的にエログロ度が上がっていくのだけれど、最終盤のアレは正直、『SAW』かなと思った。
全体の雰囲気と犯人の殺害動機がかなり好きです。

『十戒』/夕木春央

面白い。
最後まで読んだら初めから読み返したくなるタイプのミステリだ。
でも作中で出てくる"十戒"、メンバー全員超絶アタマ良い集団とかでもないのに、守らせるべき指示として難解すぎやしないか?
追加条項に「やることが……やることが多い!」となってしまった。
私がこの場にいたら、反抗するつもりはまるでないのに、普通にやることを忘れたり解釈間違えて爆死しそうだと思う。

というかあの、もしかしてこの真犯人って……………


『成瀬は天下を取りにいく』
『成瀬は信じた道をいく』/宮島未奈

すごく読みやすく、爽やかでいいね。
成瀬あかりという主人公を第三者視点から描いた連作短編で、すっきり解決する訳ではないエピソードも多いけど、どれも前を向いていこうという気持ちになれる明るさが良かった。
私が好きな話は「コンビーフはうまい」。
予想よりけっこう早い段階で篠原かれんが打ち解けてたのがよかった(そしてエピソード後のかれんには、親の圧になぞに屈しない強さを感じられてとても良い)。
滋賀へのプラスイメージに貢献するキャラ、3人あげてと言われたら「ひこにゃん」「西川貴教」に並べてこれからは「成瀬あかり」挙げますね。

『でぃすぺる』/今村昌弘

令和時代小学生七不思議ミステリ。
同じ掲示係になるまで繋がりのなかった男女3人組が仲良くなってくのがシンプルにいいよね。
"魔女の家"での会議、調査を進めるごとに浮かび上がる謎の組織の影など、ジュブナイルものらしいワクワク感があって楽しく読んでたけど、終盤の展開にはかなりびびる。
以前Xで、「主人公にバイクを盗られたモブへ感情移入しすぎて気が散る人」の話がバズってたけど、でぃすぺるは最後の最後でそれになった。
うお、犠牲でっか……

『黄色い家』/川上未映子

冒頭で明かされてる"顛末"に、一体何がどうなったらこの人がそうなるんだ?と(主に黄美子について)考えながら読むわけだがなるほど……。
 幼くて無知だったり、明日のことを考えるのが苦手だったりして、騙され、養分にされる人たちが山程出てくるが(性描写は出てこないのでとても読みやすい←これ系の話だいたいセットで出てくるけどいらねーと思う派、これは私の感想です)、 終始花という女性の視点で進み、明らかに選択を誤っていると感じる場面が何度も出てきてもどかしく感じると同時に、若かったら自分もこれしか選べなかった可能性は全然あるなと思えて自分ごとのようにめちゃめちゃ怖い。
母親がファミレスで200万円無心してくる場面は迫真だった。ホンモノすぎて笑った。本当に。あれは真に迫っていた。
あと携帯電話の使い方がすごく上手い。機種変はしても電話番号はそんなに変えるものでもないから、10年経ってても意外と繋がるよな。

『爆弾2法廷占拠』/呉勝浩

意外と爽やかな終わり方……だが前作事件による犠牲についてきっちり釘さされてるので、爽やかな読後感なんぞ感じてたまるかとも思う。
スズキタゴサク劇場と呼ぶべきほどスズキタゴサク自身が面白かった前作に比べると、今作犯人のおもんなさ・センスのなさが際立つ。何なのよ、上を向いて歩こう、て。
ノッペリアンズ(どうかと思うネーミング!)はシンパが自称してるっぽいけど、タゴサクシンパ以外からはタゴアノンて呼ばれてるのかなやっぱり。
なにげに私のテンション上がった場面は、「黒ずくめの主人公が大三元を」って急に『むこうぶち』らしき漫画の描写が出てきたなと思ったところ。
数ページ後に「御無礼」で確定して笑った。
ここかなりニヤリポイントだったけど、これ指摘してる人はXじゃほとんど見かけないんだよな。どうして。

『地面師たち』/新庄耕

原作のはずなのになんかノベライズ感あるな、とまず思った。
本筋はともかく、主人公過去や刑事などの各種エピソードがすごくベタで、これはあえての昭和感出してる感じか(昭和ものではない)。
終盤の常務と秘書のスケベ直前シーンの「やる気マンマンじゃねえかこの助兵衛が」でヒ、ヒエ〜〜っ、昭和すぎる〜〜っ、と震えてしまった。
これドラマ版にもありますか(未見)
XのTLの情報を総合すると、原作ハリソン山中の殺人嗜好っぽい性質をドラマで盛りに盛ったら魅力的なキャラになってウケたらしい。
原作地面師たちの、ハリソン山中が仕留めたグリズリーに口内射精する回想し始めたとこで急になんやコイツ……って思ったけど、そういう部分がドラマで強調されてるらしいってことですねつまり(未視聴)。
邦キチ12巻で砂の器を例に挙げてた「原作を超えてる実写」、もしかして『地面師たち』も"そう"なのでは……?(未鑑賞)

『儚い羊たちの祝宴』/米澤穂信

面白すぎる……。
米澤穂信作品、みんな違って全部面白いの何なの。
やっぱ連作短編って好きだなあ。
特に「山荘秘聞」で一旦、な〜んだそういうことかと安心させてから食らう表題作、「儚い羊たちの祝宴」の衝撃がすごい。
くりかえしになるけど連作短編、ひとつひとつは短編なので即本題に入ってくれるため、長編にありがちな序盤のだるさがないから大好きだ。独立した短い物語が断片で繋がって、全部読むと一つの大きな物語になる構造が最高なのだ。読み物としてとても気持ちがいい。

『イッツダボム』/井上先斗

すいません、なにか大きな勘違いをしていて、「話題になっている謎のストリートアーティストが急に牙を剥いて爆弾で大量殺人する話」だと思って読んでました。
全然違いました。
開幕から語られてる世界観概要がまったく頭に入ってこなくて、小説、やっぱ序盤読むの苦手だなと痛感した。
「愛キャッチ」「愛、潤ってますか」
こういった架空の芸能人や架空のトレンドを一から作って書くのはすごいと思うけれど、面白くなるかどうかまだ分からん段階で色々ワーッと出されても全然頭に入ってこないや。
前にどこかでしゃらくせ〜とか言っちゃったけど、結局ジョン・アーヴィングだのハイラインだの、実在ワード畳み掛けてくる方が頭に入ってくるかも。

『穢れた聖地巡礼について』/背筋

やはり怪異よりも人間……人間の悪意について描かれてる部分の方が面白く読めるね。


『スメラミシング』/小川哲

表題作「スメラミシング」、わからんけど要するに、コウメ太夫と哲学者コウ・メダユーの話している。
↑本当だから信じて読んでほしい

ざっくり、陰謀論がテーマらしい短編集と聞いて手に取った。
分かる短編はとても面白かったけれど、ぜんぜん分からない短編はほんとうにぜんぜん分からない。
「七十人の翻訳者たち」、ちょっと分からない。
「密林の殯」、タイトルが秀逸だし、ネット右翼(しかもコロナ前)描写もそれをオモチャにする奴のイヤさについてもいいたいことが確かにあったはずなのに、読み終えて一番頭に残ってるの「室岡です!」なのだいぶ終わってる。
>「室岡さん!」と叫んだ。僕はなぜか「室岡です!」と叫び返して二度目の絶頂を迎えた。 
↑ここで爆笑した(人のセックスを笑うな
いやあ……ほんとうに滑稽で気持ちが悪いですね、他人の性行為というものは!
純ポルノだったりキャラクター感があればまた違うけれど、生身の人間の行為として描かれてるとキモさと間抜けさが勝つ。排便と変わらん。
「神についての方程式」、ぜんぜんわからない。
宇宙人、ムゲン、インフィニティ
鳩山由紀夫とフレッシュプリキュアしか思い浮かばなかった。
「啓蒙の光が、すべての光を祓うまで」、タイトルかっこよすぎる……。
これは分かった。私がイメージするSFらしいSFで面白かった。
どんなに超常的な概念や陰謀論、非科学的な事象から人を遠ざけようとして論理的、科学的思考に導いても、人はそちらに辿り着いてしまうのか。
「ちょっとした奇跡」、これもSFらしいSF。
絶対に出会えない織姫と彦星。ラストが切ない。

今年読んだ小説ベスト3
1位『テスカトリポカ』
2位『エレファントヘッド』
3位『爆弾』
次点『君のクイズ』
前半かなり調子良かったのに、エレファントヘッド読んだせいでおかしくなった。
エレファントヘッド読んだあと、しばらく他の本を読めなかった。まじです。
来年も読むぞ!(おしまい)

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