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たとえ話 ~講師の「具体化」テクニック~

「具体化」というと、もっともよく使われているのが、たとえ話です。
たとえ話をすることは、日常生活でもよくあるでしょう。
わかりにくいことを何かにたとえる、これはもっとも効果的な伝え方のテクニックです。


魔法のコトバ「たとえば」

話す内容が相手に、そのまま理解してもらうのは難しいな、ちょっと伝わりにくいな、と思った時に使うとよい魔法の言葉があります。

それは「たとえば」です。

最初に「たとえば」と言っておけば、その後は何を言ってもかまいません。
相手は「これはたとえ話なんだ。何か言い換えているんだ」と理解してくれます。

もっとも原始的な「具体化」の手法だと言えます。

「そんな人事を行うことは、我が社にとってはとてつもなく難しいことだ」
「そんなに難しいのか?」
「たとえば力士が子供の三輪車を漕ぐくらい難しい」
「そりゃ無理だな」

難しさの度合いを説明しようとしてたとえ話を入れました。
人事と力士にはなんの関係もありません。
なのに、相手はそれがとほうもなく難しいことだと理解してくれました。

相手の頭の中にイメージを呼び起こす

このたとえ話を分析してみましょう。

子供用の三輪車といえば、せいぜい3~4歳までの子供を乗せるように作られています。

その上に大きな身体の力士がまたがる。
大きなお腹が邪魔してハンドルに手が届かないかもしれません。
そもそも小さなサドルに力士のお尻が乗っかるのでしょうか?
小さなペダルを力士の両足が漕げるとも思えません。

力士が子供の三輪車を漕ぐ
という言葉を聞いたとたんに、相手の頭の中にそのイメージが浮かんだに違いありません。

その無理さ加減が途方もないということは、一瞬で伝わったはずです。

これは、「力士」「子供用三輪車」というふたつのイメージが相手の頭の中にすでに存在しているから、それが組み合わされて無理な状況のイメージが出来上がったのです。

相手の頭の中にあるイメージでたとえ話をする

ですからたとえ話とは、相手の頭の中にあるイメージを利用する、ということに他なりません。

力士も子供用三輪車も見たことのない相手の頭の中には、このたとえ話をしても無理な状況のイメージは浮かばないのです。

特定の分野の知識を要するたとえ話は、相手を選びます。

たとえば、アニメや漫画の作品をネタにしたたとえ話は、危険です。

相手がその作品を知らなかった場合は、まったく伝わりません。

「その日は終電を逃してしまって、帰宅できなくなってしまった。翌日のしごとに、自宅においてある資料が必要だったから、泊まることもできなくてね。
誰か助けてくれないか、と念じていたら、まるでとなりのトトロのねこバスみたいに、タクシーが止まってね」
「バス? タクシー? どっち?」

困った時に止まってくれたタクシーのありがたさをアニメ映画「となりのトトロ」に登場するねこバスにたとえてみたわけです。
しかし、相手は「となりのトトロ」を見たことがなかったようです。

これでは伝わりません。

たとえ話をする時は、相手の頭の中にありそうなイメージを使って話をしないと伝わりません。

相手の顔を見ながら話をする状況でしたら、相手が知っているかどうかたしかめてからたとえ話をすることも可能です。
しかし、文章や動画でたとえ話をする場合は、特定の作品を知っていないと成立しないたとえ話は避けたほうがよさそうです。

同様に、特定のスポーツ、とくに特定のチームや選手を使ったたとえ話も、警戒したほうがよいと思います。

国民的スターといわれるようなスポーツ選手であっても、世代が異なると知られていないケースもありますから。

たとえ話の使いかた

たとえ話をするときは、ふた通りの用途があります。

  1. たとえ話を使って、表現をゆたかにする

  2. たとえ話を使うことによって、抽象的な話を理解しやすくする

たとえ話を使うことによって、表現がゆたかになることもたしかです。
ですから、トークの中にたとえ話を多めに取り入れていただくことにも賛成です。

しかし今回は、主に2.の「抽象的な話を理解しやすくする」ためのたとえ話の使いかたについて解説します。

たとえ話は、抽象的な考えを説明する際に、それと関係性が似た「日常でよく経験する事柄」を使って表現します。

たとえば私がUdemyという動画教材販売サービスを説明するときに使う表現は「Udemyは、ショッピングモール型の動画教材販売サービスです」というものです。

ショッピングモールの特徴を考えてみましょう。

  1. ショッピングモールには多くの店舗が出店しています。

  2. ショッピングモールはそれ自体に知名度があり、広告も行っているので、常時買い物客が訪れています。

  3. ショッピングモールに出店すると、それらの買い物客が常時店の前を通っている状態になります。

  4. ショッピングモールに出店すると、積極的に自店の宣伝をしなくても、来店してもらえる可能性が高いです。

  5. ショッピングモールのテナント料は、たんなる貸店舗よりは高めに設定されています。

私はこれらの特徴が、Udemyの特徴と似ていると考えて、「ショッピングモール型の動画教材販売サービス」という、たとえ話をしています。

  1. Udemyには多くの講師が動画コースを出品しています。

  2. Udemyはそれ自体に知名度があり、広告も行っているので、常時受講生が訪れています。

  3. Udemyに動画コースを出品すると、それらの受講生が閲覧してくれる可能性が高いです。

  4. Udemyに動画コースを出品すると、積極的に集客をしなくても、購入してもらえる可能性が高いです。

  5. Udemyのマージン率は、他の動画教材販売サービスよりは高めに設定されています。

このように、共通の特徴が多いのです。

わかりやすい、とはイメージが浮かびやすいことである

ショッピングモールに行ったことのない人はほとんどいないでしょう。

だから、頭の中にイメージが浮かびやすいわけです。

いっぽうUdemyにアクセスしたことのない人、アクセスしたことはあっても詳しくは知らない人は多いはずです。

そういう人の頭の中に「Udemy≒ショッピングモール」という、共通性のある事柄を伝えることによって、一気に頭の中にイメージが拓けます。

このように「知らないこと」が「すでに知っていること」と共通の特徴を持っている、と伝えることで、一気に理解を進ませることができる、というのがたとえ話の特徴です。

ただし、たとえ話は「わかったような気になる」というデメリットも持っているので、あまり濫用はしないほうがいいと思います。

説明をたとえ話だけで終わらせてしまうのではなくて、たとえ話をきっかけにして、丁寧に説明をしてあげるくらいのつもりでいてください。

次は「対話をつくる」

👉️「対話をつくる」


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