癒しのおじさん
起きた。昨日寝落ちしたせいで、10時間くらい寝たのに全然疲れが落ちた気がしない。ダラダラとスマホを見て、身支度を済ませたらもう11時半で、大学の履修相談会に行くつもりだったけど諦める。でも身支度は完璧なので、2時の対面のオリエンテーションまで住む場所を探したり大学関連の調べ物をしたりしながらコミュニティルームで過ごすことにした。ちょっと日本と電話をする。今のところロンドンに全然友達がいないので、夕方の4時くらいになると大体みんな寝てしまって寂しい。でもまだ昼の12時なので大丈夫。
今日のブランチはシンガポールからパリまでフライトした時に機内で配られてそれ以降食べていなかったスナックである。おいしい。瞬く間に無くなる。ああ無情。しばらくすると出ないといけない時間になったので大学に向かう。パリで友達について大学の目の前まで行った時もそうだったが、僕の行く大学も各建物にある各ゲートの前にセキュリティが立っていてすごい。守られている。ちょっと苦労しながら教室を探し当てて入る。どうやら同じ戦争学部の授業をとる交換留学生がメインらしく意外と50人くらいしかいない。みんな周りの人と話していて楽しそうだが、僕は完全にチキって話せない。視界に映る限りほとんどが西洋圏の人で全員英語ネイティブにしか見えない。怖い。どうも自分は英語の発音にコンプレックスがあるので会話への抵抗がすごい。正直意思疎通は全然できると思うのだが、言葉が出てこない。しかも人見知りモードがゴリゴリに発動中である。結局ほぼ誰と話すこともなくオリエンテーションの教室から出てきてしまった。後悔。しかもオリエンテーションのプレゼンターのブリティッシュイングリッシュは６割くらいしか分からない。絶望。
そのあとはなんとか勇気を出して留学担当の部署に行き、フリーSIMカード（！？）をもらう。そんなものを配っているというのは昨日のオンラインオリエンテーションで初めて知ったのだが、どうも学生向けに格安でSIMカードが使えるというものらしい。すごい。そしてその後、学内の購買（日本でものすごくお世話になった人に大学パーカーがカッコよかったら買ってきて欲しいと言われていた）を覗く。それも終わると、もうやることもないし自分が浮いている感じがすごい。こういう類の疎外感は初めての場に行った時に結構感じることが多く、大概は散々に疎外感を味わった挙句に何かでスイッチが入って人に話しかけ何とか友達ができるというパターンが多いのだが、今回は全体的にスイッチが入るのが遅い。旅行と新学期という「新たな場」の２倍掛けなのでもっと早々にスイッチが入ってもおかしくないのだが、全然入らない。ホステルの人にも全然話しかけられない。日記の執筆はお陰で捗るが……。もう疎外感しかないし、周りの東アジア系っぽい人は全員中国人にしか見えないし、たった２組見かけた日本人は日本人同士でつるんでいてもうお呼びじゃないだろうし、もう帰ろっかな……と思ったところでそのおじさんは話しかけてきた。
そのおじさんは何かしらを話しかけてきた。道の掃除をしているおじさんのようだが、イギリスではセキュリティ関係の人とか公務員の人とかは似たようなベストを着ているし、その道も大学の建物に挟まれるようになっていて公道なのか大学の敷地なのかわからないし、そのおじさんが何者かわからない。しかも何を話しかけられているかもわからない。それはそのおじさんが凄まじいブリティッシュを操るからではなく、英語が苦手そうだからだ。どうやら新学期のシーズンで大学にいっぱい人がいるがこれは新入生か、みたいなことを聞きたいらしい。自分の英語力に苦労しながら、というよりほんとに聞きたいことに答えられているかの不安でつっかえながらボチボチ答えているといつの間にか話はお互いのことへと移っていた。
おじさんは見た目とアクセントから予想した通りに中国出身で、フランス系の会社に所属してロンドンの道路の掃除をしているようだ。僕も交換留学で来ていて、１学期だけしかおらず、みたいなことを言った。おじさんも話してしばらくしたときにはもう感じていたことだがものすごくいい人そうである。娘さんが大学で国際ビジネスを教えているらしい。自慢げにしていた。おじさんはどういう話のつながりかよく分からないが、ロンドンは60歳以上は医療も公共交通機関も無料だと言って日本の敬老パスのようなものを見せてくれたり、イギリスは英語の起源だし、話すのも早いからここでいけたら世界のどこでも大丈夫だからイギリスで学ぶのはすごくいいよ、みたいな話をしてくれたりした。ロンドンのおすすめスポットを聞くといろいろあるから地域に寄るといいながら、例えばでグリニッジ天文台をおすすめしてくれた。この時に初めて僕はグリニッジをGreenwichと綴ることとグリニッジが中心部から電車で30分程度の近さにあることを知った。Greenwichはずっとグリーンウィチだと思っていたし、グリニッジ天文台は明石の天文台のように都心部から少し離れたところにあると思っていた。グリーンウィチには住む可能性があるなとおもっていたので偶然とは恐ろしい。ロンドンにはいつ着いた？先週？そうかそうか、ロンドンはどうだ？と聞いてくるので、今のところいい感じだけど物価が高いねというと、「それはな、長く住んでると安いところがわかってくる」と言いながら安いショッピング施設を教えてくれた。最高じゃないか。寂しかったところだし、おじさんはいい人だし、おもしろそうだし、どことなく愛嬌もあるし一生でも話していたかったが、さすがにおじさんも仕事の途中なので話がひと段落したところで「またね」といいながら去っていった。連絡先は聞かなかった。でも何となくまた会えそうな気がする。会えなくても一期一会で気持ちいい出会いだったと言えるだろう。英語が流暢ではない（職場の人としか話さないらしい）外国から来て、ロンドンにすみ、しかもロンドンのことを好きそうな人と話せたことはかなり心の救いになった。そもそもいい人と話せただけでも嬉しい。ロンドンで院進とかも楽しいだろうな……。
しかしパリのバスターミナルでのドイツ人おばちゃんと言い、この１週間は濃ゆくて面白いおじちゃんおばちゃんとやたらに縁がある気がする。シンガポール航空で隣の席でちょっと話したおじさんとか、ホステルで向かいのベッドのおばちゃんとか、ホステルでも大学でも周りは若者同士で話しているというのに。そりゃもちろん、おじちゃんおばちゃんと話すのは安心するし楽しいけど！
おじさんと話せて満足だったし、流石にもうやることもないので帰る。それにしてもこっちの人は信号をまもらない。そもそも青信号も5秒くらい、日本でいう点滅の時間（実際にはオレンジの数字でカウントダウンされる）を合わせても15秒くらいしかない。よっぽど交通量が激しくない限り全然誰も信号に従わないので、僕も郷に習っている。郷に習いすぎて信号を待つ気が全く起こらない。そんなことをしていると行きしなに左折してきた車に殺されかけた。クラクションを鳴らされたがどう考えても僕が悪い。信号を無視するのは油断しないことが絶対条件である。
スーパーで昨日考えていた通りチキンティッカマサラを買う。純粋に試してみたいし、昨日間違えて買った生クリームも使いたい。あと安いチョコスティックと、割引になっていたベビーリーフのサラダ、日清の乾麺を買う。これで1200円ほど。まあまあまあ。ホステルに帰るとまだ5時過ぎだったので遅めの昼食ということにして乾麺を茹でる。昨日のカツカレーと違い、きちんと日本と同じく沸騰したお湯で3分茹でるだけだった。そして、出来上がったものはまさしく暖かい塩のスープにまさにインスタントという感じのちぢれ麺が浮いている、あの、日本のカップ麺だった。うれしい。何も具がないので買ったサラダを浮かべて野菜ラーメンにして食べてみると、懐かしい味がしてするすると食が進む。味は割と普通なのだが、そのよくある味がいい。昨日若干不完全燃焼だったのでその反動もあって凄まじい満足感である。野菜も取れてよかった。ただ満腹になったわけではなかったようでその後のチョコスティックは瞬く間になくなってしまった。
そのあとは今日もらってきたSIMカードのアクティベートをする。ネット上でとても簡単にできた。月10ポンド（2000円）のプランなのだが、大学特典で５ポンド相当のポイントがもらえる。しかも20GBのプランなのだが、学生特典で60GBになる。さらにはEU圏内の5GBのローミングまでついている。願ったり叶ったりにも程がある。すごい。自分の大学と比べて学生へのサポートがとても手厚いように感じる。そういう意味ではもう日本に帰るのが名残惜しい。NOTEを書いたりしているとかなりいい時間になったので晩御飯にすることにする。
チキンティッカマサラを調理する。パッケージにはレンジで5:30チンしろと書いているのだが、キッチンにいたインド人風の人にそれは長すぎるのではないかと言われ、3分で様子を見るとちょうどいいくらいだった。危なかった。チキンティッカマサラはたしかに美味しかったが、全然辛くなかったのが少し残念だった。生クリームを早く消費しないといけないので、食べ始めて早々に生クリームを投入する。頑張って入れても生クリームは1/4くらいしか減らなかったが、味はとてもマイルドになって非常においしい。チキンがゴロゴロ入っているのもポイントが高い。これは明日もチキンティッカマサラか……。
眠いなと思いながら、ベッドでダラダラしているとかなり遅くなってしまった。あとベッドの上の段からちょっとここでは言えないような日本語の独り言が聞こえてきて上にいるのが日本人だと発覚した。すごい偶然やけど、外国やからって油断したらあかんで。おやすみ。