都市の再生を考える
〈第1巻〉都市とは何か
都市内のダイナミズムは、経済的・社会的・文化的・政治的ダイナミクス間のバランスのとれた相互作用により維持される。都市間のダイナミズムは、ネットワーク型都市システムにより増殖する。グローバル化に呼応して、都市力アップが求められる今、わが国の都市や地域の戦力においてもそれなりに意識されている視点である。市民と協働や官民連携の導入は前者の例であり、都市や地域のブランディング、シティセールスなどは、都市ネットワークにおける自都市の認知度を高める後者の試みである。しかし、これらの方策により都市力をうまく引き出し都市の駆動力に結び付けるには容易でない。
都市力とは、経済力だけではない。経済は、都市で取り結ばれる多様な関係のひとつに過ぎない。都市経済をパワーアップさせる魅力を付加し続け、足を引っ張るお荷物を切り捨て続けても、都市力は蘇るとは限らない。経済競争力強化に浮き足立ち、異分子を排除して仲間だけで集まろうとする傾向を強めれば分極化を助長する。市場原理は分極化を拡大する方向にしか働かず、都市を自滅に追い込みかねない。
都市を生かし続けるには、分極化しようとする多様なグループをつなぎとめなければならない。その知恵は、日欧を問わず市場経済が確立する以前から今日まで静かに持続してきた《まちなか》に眠っている。その知恵を発掘できずに《まちなか》をまるごと葬り去ってしまったなら、都市はもはや都市でなくなる。都市内のダイナミズムも、都市間のダイナミズムも生まれようがない。
《まちなか》では、老若男女、様々な職業や文化的背景を持つ市民、都市の市民と周辺農村の人たち、中長期滞在者、観光客など一時的な来訪者が、時間と空間を共有してきた。《まちなか》で多様な人たちが取り結ぶ創造的な関係こそが都市を生かし続ける根元的な力であった。
〈第7巻〉公共空間としての都市
少子高齢化の成熟社会では、車に依存せざる得ない低密度な拡散市街地は明らかに不適切なパターンであり、居住地の再編成、コンパクト・シティー化が、洋の東西を問わず、都市再生の中心課題である。個人乗用車に依存しないで、徒歩、自転車と公共輸送機関の組み合わせによる公共輸送体系をベースに交通政策を組みなおすこともコンパクト・シティー化の重要な課題だ。ヨーロッパでは歴史的な経験、居住体験によって、直ちに体感できるコンパクト・シティーという政策目標像は、城壁を持たず、伸びやかな庭園住宅地と郊外の原っぱによって都市を形成してきた日本ではなかなかピンとこないが、緑と水を身近に引き寄せながら住宅地の居住密度を再編成することはコンパクト・シティー化の上で最重要課題の一つである。