現代工学の基礎
設計の理論
設計は本来、対象非依存の一般的な人間の行為であり、工学の中核をなすものである。ある工学領域において具体的な設計法を学んだ者は、その知識を利用して別の工学領域でも設計ができるように思われるが、工学領域間の壁にはばまれて、それぞれ個別のせまい領域での設計に閉じこめられているのが現実である。しかし、現代のように技術が急速に進歩し、変化している状況においては、それではもはや立ちゆかない。一般化と抽象化をおこなった設計学や、一般的な設計方法論を学ぶことによって、領域を超えた応用可能性を獲得することが必要である。
そのような手法を身につけるには、知識の構造を理解することが重要である。いったんはある工学領域で設計を学ぶにしても、いずれは、抽象化された知識の構造を理解する必要がある。そうした理解があって、異なる工学領域での設計(知識操作)が可能になる。設計の基本は領域によって異なることはない。各領域での特殊事情さえ理解すれば、設計は可能なのである。設計学を学ぶことは、新領域での設計やイノベーションを可能にするだろう。
設計の方法論
設計に対する主な制約は、産業や技術の発展の初期段階には技術的な制約と経済的な制約の2つだけであったが、その発展に伴って社会的制約・環境的制約・倫理的制約までも考えなければならなくなってきた。効率や経済性を重んじ、大量生産と大量消費をつづけてきた現代の社会は、エネルギー・資源の問題で壁に当たり、ついに環境的な問題で強い制約を受けるようになった。また生活の仕方が変わって社会的な制約を強く受けるようになった。そのため、設計にもこれらの多くのことがらが制約条件として現れる。
システムの設計・運用・評価
「システム」を一言で表現することは難しい。ベルタランフィによれば「システムとは相互に作用しあう要素の集合」と定義され、このような定義は、「あまりにも一般的で漠然としており、そこから多くのものを得ることはできないようにみえる。しかしそうではない」と主張されている(長野敬・太田邦昌約)。すなわち、たとえば、アンモニアのにおいは水素と窒素の化学的性質を調べていても説明できないように、個々の要素には観察されないが、それらの相互作用によってはじめて出現する性質や現象に着目する上からとらえられたものである。
要素に細かく分解するよりも、要素間の相互作用やその結果として創造されている有機的組織体に焦点を当て、それを俯瞰的にとらえる見方を、ここでは、システム的思考とよんでおこう。システム的思考は、いろいろな分野で使われ、発展してきている。それは、生態学から工学、人類学から経営学など、複数の学問領域にまたがった学際性を特徴としている。
エネルギー論
現在、世界の一次エネルギー供給量の約9割は枯渇性エネルギーの化石燃料に依存しており、長期的には持続可能な状態にはない。したがって、人類社会が持続可能であるためには、化石燃料が枯渇する以前に、代替エネルギーを大規模に利用できるようにならなくてはならない。
しかし、その際の社会としての具体的な対応は、資源枯渇までに残された時間の長さに依存して決まるものであろう。化石燃料資源に関しては、数十年から数百年のオーダーで利用できる可能性があると考えられている。もちろんこれらの資源の残存量を決して楽観視し過ぎてはならないが、現時点では資源枯渇ヘの過度の危機感を前提とした政策や研究開発などの優先度は必ずしも高くはなくなっている。むしろ持続可能性という点で、昨今懸念が高まっていることは、化石燃料の燃焼にともなって排出されるCO2などが引き起こす環境問題の方である。