『一次創作利き小説杯2024』の感想
吹く風に初夏を感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
企画『一次創作利き小説杯2024』主催の揺井かごめです。
(企画の詳細はこちらからご確認ください)
本日、おかげさまで無事企画の全工程を終了しました。
たくさんの皆様のご参加ありがとうございました。
企画の『答え合わせ』はこちらのツリーにまとまっております。
改めまして、主催の「面白そう」という呟きを拾い上げてその気にさせてくださった方々、推理に参加してくださった皆様、そして素敵な作品を寄稿してくださった8名の参加者様に、厚く御礼申し上げます。
さて、ここでは、主催としての役割を終えた「今回の企画を最も楽しんだ一個人」として、私的な感想を語らせていただきます。
自分用の記録になりますので、ご高覧いただく際の読みにくさ・過不足には目を瞑っていただければ幸いです。
ことのはじまり
今回の企画は、こちらのポスト(以下ツイート)から始まりました。
これを受けて「面白そうじゃん」というお声を多数いただき、形になったのが今回の企画です。
そこからどんな転がり方をして本企画が成形されていったかは、下記のツリーをご参照ください(引用が多用されており見づらい点に注意が必要です)。
運営については後程書こうと思っているため省きます。
いろいろな方に面白がっていただけた経緯があり、そのおかげで開催することができたことは記録に残しておきたい、と思った次第です。
作品について
もう本当、これが喋りたくて喋りたくて仕方ないひと月を過ごしました。
今回集まったのは、「可惜夜」をテーマにした9作品。
どれも味が出ており非常に上質でした。
僭越ながら本企画を取りまとめさせていただけたこと、心の底から光栄に思います。
ひと作品ずつ語らせていただきます。
(以下、寄稿していただいた順番になります)
亜未田久志様
短編・掌編の早撃ちガンマンである亜未田さん。
今回寄稿していただいた作品は「とある新聞作家の苦悩」でした。
私がこちらを拝読した第一印象は「お、亜未田さんの作品だ!」でした。
私が感じた亜未田さんポイントは下記のとおりです。
・唐突な書き出しで虚を突き、幾つめかの文章で状況説明に入る
・「出さず。」「変わってしまい。」と文章を途中で切り上げる癖
・完全に「ふざけ」に振り切った歴史的仮名遣い
(個人的に、亜未田さんの作品は二つ目に挙げた文体の癖が必ずと言っていいほど含まれているので、かなり見分けやすいです)
思わず「上手い……!」と唸ったのが、作中の「俺」が『言葉遣いが下手くそ』と明言されている点です。
歴史的仮名遣いを正しく美しく使う、というのはなかなかどうして難しいものですが、この設定が置かれれば「正しくなくても成立する」のです。敢えて「そんな間違い方する?」と思うような分かり易い誤用がちりばめられていますし、仮に少し粗があったとしても目立ちません。
これは亜未田さんに粗があると言いたい訳では決して無く、今回の参加者様に「生粋の文学畑」の方が多い中で、この設定が最高に〝効いて〟いるという話です。
亜未田さんの狙い通りか否か、文学畑の人がちょけた文章、として読み取る方もいた模様です。特にAiinegruthさん票が多めでした。
地衣類様
美しく幻想的な短編を書かれる地衣類さん。
今回寄稿していただいた作品は「アイ・ストランド」でした。
どこまでも美しい作風に脱帽です。
私が思う地衣類さんポイントは下記のとおりです。
・多彩な比喩を惜しげもなく使った美しい情景描写
・海洋生物
・読点多め
やはり情景描写の美しさに目を惹かれました。噛み締めるように何度も読みたくなる、絵画のように立ち止まって眺め続けていたくなる、そんな作品でした。
今回の企画では「画像一枚」以上の指定が無く、タイトルや傍題の記載は自由でした。こちらのタイトル「アイ・ストランド」は画像内に含まれていませんでしたが、どんな意図で命名したかも非常に気になります。ストランドは「糸状の物、毛房や毛束」のことで、鯨ひげを指しているのではないかと推察できますが……考える余白を残したタイトルも、やはり地衣類さんらしいように感じます。
こちらは抒情詩的な作風の方、特に坂本さんらしいと捉えた方が多かった様子です。
沖田ねてる様
Mr.ライトノベル、研究熱心で多作な沖田さん。
今回寄稿していただいた作品は「僕と君の熱い可惜夜」でした。
いやあ、もう、沖田さん!!!!
……これ以上の言葉が出ないくらい沖田さんでした(笑)
あげつらうまでもなく、この自由さ・奔放さは今回の参加者さんだと沖田さん一択! という第一印象を持ちました。逆にポイントを絞り込むのが難しい節まであります。
サクッと気軽に書いて寄稿してくれるところが、フットワークの軽さや多作の秘訣なのかもしれないと邪推します。題材の選び方や、今回唯一の横書き体裁である点など、ライトノベルに振り切って書いている沖田さんらしさが隅々まで感じ取れます。
今回の企画の中では、「この人は短くライトにふざけるかもしれない」という迷い方をされている気がします。Aiinegruthさんらしいと答えた方が多めでした。
古口宗様
ロマンの宝箱、設定に凝る長編作家の古口宗さん。
今回寄稿していただいた作品は「星への憧憬」でした。
長編作家さんの短編が読みたい、という思いもあって始めた企画なので、生粋の長編作家さんに参加していただけて嬉しいです。
この作品から私が感じた古口さんポイントは下記のとおりです。
・背景に宇宙、文字に黄色という体裁
・句点の代わりに読点を置く
・詩的かつ感傷的に他者を想う主人公
文章の癖が強めの印象でしたが、最近少しずつ変わってこられている気もするので、どちらかというと内容と体裁で判断できそうです。
これまでの古口さんが作成した画像を見るに、宇宙モチーフ・宝石モチーフに原色を取り合わせたものが多い気がします。
「亡き人を想う」という建付けも、関係性を大切にする古口さんっぽく感じます。そういうの大好きさ!
全体的に、らしさを感じる作品でした。皆さんの正解率もかなり高めです。
河内三比呂様
速筆多作属の河内三比呂さん。
今回寄稿していただいた作品は「可惜夜」でした。
タイトルも作品も、シンプル&ストレート。
今回テーマ自体がかなり惹きの強い言葉でしたが、それが引き立つシンプルさになっています。
私の思う河内さんらしいポイントは下記のとおりです。
・シンプル&ストレート
・詠嘆の多さ
・言葉にマッチした綺麗な背景画像
河内さんの作品は全体的にシンプルな作りで、言葉を反芻させて強調することが多い印象です。
また、河内さんは雰囲気に敏感な作家さんなので、背景画像のセレクトセンスにらしさを感じました。
推理パートでは、雰囲気づくりが得意な作家さんと迷われている様子でした。古口さん票が多めです。
エコエコ河江様
呼吸を感じるようなリアリティと機能美で魅せるエコエコさん。
今回寄稿していただいた作品は「深夜のシューター阿多良陽」でした。
もうこれも、すごくエコエコさんって感じの作品でした。
個人的エコエコさんポイントは下記のとおりです。
・渋くモダンな体裁
・eスポーツという題材と、淡々とした戦略の描写
・特徴的な言い回し・ワードセンス・文体
まず一目見て、ページがカッコいい! こだわりを感じます。
エコエコさんの文体は、言葉にするのが難しいんですが、その場の情報を単語にしたワードクラウドにペンを置いて線でつなげたような独特さ・唯一性を感じます。エコエコさんの視点からしか生まれなさそうな文体です。
言葉選びや言い回しもちょっとお茶目で、機能性を求めた文章の中に混じった微量な茶目っ気がエコエコさんらしく感じました。
こちらの作品、驚異の八割正解となっております。本企画でダントツでした。個人的には納得の結果です。
坂本忠恆様
豊富な語彙と哲学で心を描く坂本忠恆さん。
今回寄稿していただいた作品は「堕ちる羽根は掴むな」でした。
きゃーっ! 坂本さーん!(ただのファン)
坂本さんのここまで短い、かつファンタジーテイストの作品は初めて拝読したんですが、最高でした。
私の感じた坂本さんポイントは下記のとおりです。
・文章量と読みやすさ
・丁寧な語りの文体
・哲学を感じる寓話的なオチ
実をいうと、第一印象から「これは擬態力が高い」と感じていました。坂本さんの普段の作品は「言葉が難しいのに読みやすい」のですが、今回は全体としてかなり平易な言葉遣いで書かれています。
ただ、読みやすさと丁寧さは流石坂本さんと言わざるを得ません。特に、装飾が少ないのに感情を揺さぶられる丁寧な語りの文は、坂本さん作品の好きなところです。
こちらの作品は、雰囲気のあるファンタジー世界をモチーフにしそうな作家さんと迷われている様子でした。地衣類さんや、光栄なことに私と迷ってくださった方もいたようです。
Aiinegruth様
ギャグもシリアスも重厚に仕立て上げる、ウィットに富んだAiinegruthさん。
今回寄稿していただいた作品は「雨はやまない。」でした。
きゃーっ! 大好きー!(ただのファンその2)
この作品については、らしいポイントではなく擬態ポイントを挙げさせてください。カッコ内は普段のAiinegruthさんの作風(私見)です。
・BL(⇔百合)
・現代日本のひとコマ(⇔スケール感の大きなSF)
・救いがない(⇔解釈によるけれど救われる作品多め)
こちら、かなり擬態率高めの作品でした。普段の作品を読んでいる人ほど騙される仕上がりです。
(この擬態によって何が起こったかというと、揺井の大好物である「欠損・執着・BL」が三拍子揃ってしまったんですね。拝読した際は手を合わせました。ありがとうございます。)
そんな擬態パワー高め作品ですが、その中にも確実にAiinegruthさんらしさを感じました。
・この短さで必要なこと全部網羅しつつ綺麗にまとめる技巧派なところ
・場面転換が切れ味あって鮮やかなところ
・効果的に点々と配置される単語や体言止め
普段あまりしない過剰な比喩や反復も、作品全体の雰囲気に馴染んでいます。すごいや。
こちらの作品、先述のとおり擬態力がかなり高いのと、揺井の好みドンピシャなだけあって、揺井票が多かったです。光栄の極みです。
おまけ:自作品について・今回の感想
ということで、私の寄稿作品は「輝き失せるこの夜に」でした。
(※以下、おまけと言いつつかなり長いです。ご了承ください)
今回SF風味の話になった事に、特別な意図はありませんでした。
可惜夜について考えた時、
「やっぱ死ぬ前日の夜が1番惜しいよな」
「でも死ぬと言っても色々な死がある」
「美しく惜しいもの=己の自我、ってのはどうだろう。肉体の死じゃなくて精神の死。美しいという概念も無形だから丁度いい気がする」
というような流れで『明日には自我を失うと知っている主人公』を描く事が決まりました。
それを実現する際に、自分にとって1番組み上げやすかったのがSFっぽい骨子だったので、自然とこんな仕上がりになりました。
そうしたら、今回SF作家さんがSFを避けた為に、自分の作品が唯一のSF、という構図になりました。本当に光栄な事に、SFの得意な作家さんと間違えていただいています。
今回の企画は、いち参加者として、「人が思う揺井らしさ」について普段より深く考える良い機会になりました。
揺井票が入った作品の傾向を端的に言うと、「性癖強めで魅せる作品」「表現が美しい作品」なのかなと思います。
私自身、そうあれたら理想だな~! と強く思います。しかし皆さんの素敵な作品を見て、自分の技量ではまだまだ及ばない、成長の余地がある部分だと改めて身の引き締まるような心地になりました。
今回の自分の作品に対する反省ポイントは下記のとおりです。
・設定を詰め込みすぎて説明だけでぎちぎち
・固有名詞が多い
・情感が足りない
掌編という縛りの中で私の選んだ題材を表すには、SFは非常に難易度が高いジャンルだということを学びました。
しかしより大きな問題は、設定開示と情景描写に力を入れすぎて、一人称なのに情感が不足していた部分だと思います。せっかく一人称なのだから、例えば「私は、明日死ぬ。」といった強い書き出しから本人の内面を優先して書くことで、景色から読み取ってもらうのではなくダイレクトに本人の辛さや感傷を伝えたほうが良かったかもしれません。
力を入れた割に景色の描写も少し味気ないです。ほかの方の作品と見比べてみると、もっと言葉選びに彩りが欲しい気がします。説明ではなく物語になるような言葉が欲しいです。
こんな具合で、他の方の作品と並べさせていただくことで見えてくる課題がたくさんありました。重ね重ね、いち参加者として非常に実のある企画だったなと思います。
企画の運営について
今回、「利き小説」という企画の楽しさや魅力を全力で感じました。
それと同時に、「もっとうまく運営できたよな~!」という反省点もたくさんあります。不慣れな運営のせいで楽しみ切れなかった人・参加を見送った人もいるんじゃないかと思います。
絶対にリベンジしたいので、今回の運営に関する反省を自分用にまとめさせていただきます。
・行き当たりばったりだった為、規約がかなり分かりづらかった
主に作品応募の段階で、
企画の趣旨は? 投稿できる作品の数はいくつまで? アンケートって何に使うの?
といった基盤の部分が説明不足でした。これが一番の課題です。次回は分かりやすくしっかり固めたいと思います。
・要綱は一か所にまとめる
今回、参加要項や日程説明などの詳細はX(以下Twitter)とGoogleフォームに場合に応じたものを掲示していました(参加者様用の日程説明がGoogleフォームにある状態)
見づらい・参加しづらい状態だったと思うので、両方ともみられる場所を一か所作っておけばよかったと反省しています。
それこそ、noteなどを活用するのも良いかもしれません。画像より文章媒体のほうがアクセシビリティも高いです。
・作品を並べて見られるプラットフォームがあると良かった
参加作品を一度に全部眺められる場所があるとより解答しやすい、と感じたので、こちらもnote等を活用して一気読みできるようにしたいです。
・企画アカウントを作る
お知らせを自分のTwitterから発信すると自分のツイートと情報が混ざってしまい見づらかったので、企画用にTwitterアカウントを作るといいかもしれません。
・タグの使い方が今一歩
……だったので、他の方の企画を見て研究します。
企画アカウントを作るなら運営はあまりタグを使わず、「参加者様や興味のある方が企画の関連ツイート全般に付けることを推奨する」のが良さそうです。
・参加者をブロック分けしてもよかった
ひとつのフォームの中にある数が多すぎると、一回の回答にかかる時間やカロリーが非常に大きいです。
参加人数に応じて、4,5人程度にブロック分けすると推理パートに参加しやすかったかもしれません。
・解答用紙の返却をやっても面白いかも
今回はGoogleフォームのメールアドレスを収集しない設定で行ったため、推理パート参加者様の手元に回答が残らない仕様でした。
次回は希望者のみ、企画後にTwitterのDMで手作りの解答用紙(採点済み)をお送りするのも面白そうだなと思っています。Wordの差し込み文書を使えば作るのもそんなに大変じゃないはず。
他にも良い案があれば加筆していきたいと思います。
こちらをお読みの方でアドバイス・ご意見等お持ちの方がいらっしゃれば、ぜひお伝えいただけると嬉しいです。
最後に
主催者につたない部分はございましたが、本当に楽しい企画でした。
ひとえに、とびきり素敵な作品を寄稿してくださった参加者様と、関わってくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
しかしこのままじゃ終われない!!
絶対またやるからな!!!!
次回はもっと楽しみやすくしたいと思いますので、その時は是非またお付き合いいただけると嬉しいです。
末筆ながら、日増しに暑くなる折、皆様のご健康とご活躍を祈念いたします。
2024/06/16 揺井かごめ
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