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【書評】大河の一滴(五木寛之)
こんにちは。ライターの吉岡です。
月曜日、週1書評です。
今回、ご紹介する本は
『大河の一滴』五木寛之(幻冬舎文庫)
です。
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この本どんな本?
作者の五木寛之さんは1932年生まれ、生後間もなく朝鮮にわたり戦争と言うものを肌で感じながら生き、13歳で第二次世界大戦の終戦を迎えました。その後1947年に日本へ引き上げ、1952年に早稲田大学へ入学。1957年に中退したのち、ルポライターなどを経て1966年『さらばモスクワ愚連隊』で第6回小説現代新人賞を受賞しました。
著書に『蒼ざめた馬を見よ』、『青春の門』など多数のベストセラーを残されている作家さんです。また、小説『親鸞』では親鸞の生涯を描くなど、仏教にも非常に精通されています。
『大河の一滴』は1998年に発刊されました。2020年に重版13回、34万部増刷され、単行本と文庫本を合わせて34万部増刷という大ロングセラー本となります。
五木さんの死生観、人生や人間についての考え方がつまったエッセイです。
お気に入りPoint
本書のテーマは大きくわけて3つかな、と私は考えます。
インナー・ウォー<心の内戦>
生死・病気のとらえ方
悲しさ・寂しさの受け取り方
・インナー・ウォー<心の内戦>
五木さんは現代(発刊当時の1998年)をインナー・ウォー<心の内戦>の時代だとおっしゃっています。
1986年、自殺者数は戦後最多となり、2万5千524人もの人が自殺で亡くなりました(※)。1986年とは、バブル経済が始まった年です。そんなきらびやかな時代の裏で、2万人以上の方が自殺をしている。
1988年、交通事故で亡くなった方が1万344人となり、政府関係者が「これは、交通戦争と呼び、特別な処置をとらなくてはならない」と言ったそうです。1万人以上の方が亡くなることを戦争と呼ぶのであれば、自殺もまさに戦争と呼ぶべきです。
いわば自身の心の内戦、インナー・ウォーの時代だ、と五木さんはおっしゃっています。
※『大河の一滴』から引用。年次統計によると2万5千667人。
令和の現代、警察庁発表の令和6年の月別自殺者数について(11月末の暫定値)によると、自殺者数は1万8千647人。インナー・ウォーはいまだに個人の中で繰り広げられています。
こんな世の中が本当に平和なのか、ひょっとすると戦時中よりももっとひどい環境に生きているのではないか、五木さんはそう現代を憂いていらっしゃいます。
・生死・病気のとらえ方
この本では、五木さんの生死・病気のとらえ方にも触れられます。
人間はこの世に生まれたその時から、<死>が決まっています。生まれた瞬間から、<死>という病を内在して生まれてきたという言い方もできます。絶対にやってくる<死>に抗うのではなく、共生という考え方をとっているはずだと。癌などの病気も戦うのではなく、共生していく方がよいのではないか、とおっしゃいます。令和の今でこそ、病気との共生を謳われるようになりましたが、1998年時点でこの考え方はだいぶ先を言った考え方だったと思います。
また、五木さんは医者にかかるのが嫌いです。というのも、あれこれどこが悪いとか、健康のためにはああしろこうしろと言われること自体が、心によくないのではないか、と思われているからです。
心がだめになると、体もだめになる。今や心身二元論が大前提となっていますが、五木さんは心と体は一致していた、科学によって心と体は別物分けられてしまったとおっしゃいます。
病気を忘れるとき病気は治る。一理ある考え方だと思います。
・悲しさ・寂しさの受け取り方
五木さんは、学校教育を含め「常に明るく元気に」といったような考え方に疑問を唱えています。悲しさ、寂しさをそのままに受け取るのもまた必要なことであると。悲しさ、寂しさをありのままに受け止めて、打ちのめされてもいいじゃないかと。そこで考えたこと、気づいたこと、得たことがその人にとって素晴らしいものになることもある。それをごまかして無理に明るくふるまう必要はないのだと。
この考え方は親鸞など仏教的な思想が強く出ていると感じます。
こんな人に読んでほしい!
辛いことがたくさんあって、どうしても前向きになれない人へ。
心がくさくさして、ひとりになりたいと人へ。
仏教的な考えに触れてみたい、でも説法は聞きたくないという人へ。
まとめ
読んだ感想ですが、とても1998年に発刊されたとは思えないほど、現代社会にも響く言葉がたくさんあると思いました。我々は、どう生きるのか、どう生きることが幸せなのか。そんなことを考えるきっかけとなる本です。
人はみな、大河の一滴。
さわりだけでもぜひ読んでみてください。言葉の意味がわかります。