朝日新聞 回顧2024 現代演劇 に選出した「私の3点」の少し詳しい解説

朝日新聞の年末回顧で、大笹吉雄さん、萩尾瞳さんとともに「私の3点」を選びました。マイベスト3は、東京芸術劇場「インヘリタンス」、スヌーヌー「海まで100年」、バストリオ「新しい野良犬──ニュー・ストリートドッグ」なのだけれど、指定された文字数が、3本の作品のタイトル、主催と作家という概要、そして選出の説明文を併せて200文字なのだが、普通に考えておわかりいただけるように、選んだ理由が充分には書けない。そして私が選んだ3本のうち、「海まで100年」と「新しい野良犬──ニュー・ストリートドッグ」は、観た人の母数があまり多くない。「新しい野良犬──ニュー・ストリートドッグ」に関しては、会場もかなり小さく観た人が限られているので、伝えたいと強く思いながら悶々と削った選択の理由を、超簡単になってしまうが、ここに残しておく。

「インヘリタンス」は、エイズを正面から扱った傑作「エンジェルス・イン・アメリカ」を大いに意識しつつ(作品の構成が、フォスターの「ハワーズ・エンド」に倣って、ひとりの教師が若者たちを対象に小説教室を開いている枠組みがあるのだが、この戯曲にとって書く過程を導いたのは「エンジェルス・イン」だという意味が含まれているのではないか)、エイズを知らない世代のゲイが多数派になりつつある現代でも変わっていない“どう愛し、愛されればいいかわからない”という、マイノリティ特有の苦悩、そこから生まれる過ちと傷だらけの回復を、6時間半かけて上演した大作。俳優たちの集中力が素晴らしかった。

スヌーヌー「海まで100年」は、近年、20代から30代にかけてのつくり手が創作する演劇作品に多く見られる“キツい労働環境のもとでいかに生きるか”というテーマを、作・演出の笠木泉は40代ではあるが、極限まで研ぎ澄まして作品の奥に仕込み、そうした境遇にありながら他者に思いを寄せる人たちを描いた点で、強く胸を打たれた。

バストリオ「新しい野良犬」は、やはり近年少しずつ増えてきた演劇作品に、俳優と演出家の関係性がイコールにしたクリエイションがあって、具体的なつくり方として、俳優たち(ダンサーの場合も)がそれぞれテキストを書いて持ち寄り、それを演出家(振付家の場合も)がまとめる方法があるが、当然、玉石混交の中、きわめて高いレベルでそれが形になっていたから。さらに、商店街の中の一軒で元クリーニング店という会場で、内と外の境界を曖昧にしていく試みが具体的に成功していた点が素晴らしかった。


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