イギリスのリシ・スナク氏の就任演説
トラス首相の退任意向が表明され、イギリスではまだ不安定な政局が続いています。そんな中、リシ・スナク氏が新首相に就任することが決まりました。個人的な感想としては、「楽観主義」から「現実主義」への移行が見て取れるスピーチに思いました。
Prime Minister Rishi Sunak’s speech on the steps of Downing Street - YouTube
エリザベス二世の崩御もあり、Her Majesty the Queenではなく、His Majesty the King's invitation「国王陛下の招聘」となっています。チャールズ三世が即位したので、ここは今回大きな変化です。
ここでスナク氏は冒頭からface a profound economic crisisというコロケーションを使っています。face an economic crisis「経済危機に直面する」は有名な連語ですね。ここにprofound「大きな」という形容詞がつくことで、事態の深刻さをより強調しています。スナク氏の表情も険しいです。
ここで前回解説したpay tribute to「敬意を払う」が登場しました。やはり、前首相に対するねぎらいの言葉で繰り返し使われる熟語です。
※イギリス首相のスピーチの特徴や前回との比較はこちらをご覧ください。
イギリスのトラス新首相の就任演説|土岐田 健太(ときた けんた)|note
a noble aim「崇高な目的」という表現も印象的で、簡単に言い換えれば「志は間違っていなかった」ということです。
しかし、 "But some mistakes were made."「しかし間違いが起こってしまった」と述べています。この場合、受動態にすることで、責任の所在の明示を避けています。 かなり気を使った言い回しです。
実際のスピーチでは「間」があるので、これは独立した文になっています。意味的にはこのnot borne of ill or bad intentionsとはBut some mistakes were made, not borne of ill will or bad intentions. と考えることができます。しかし、ここではあえて間を空けて、「悪気があったわけではなく」と強調しています。そこでフォローしつつも、「いえ、それとは全く対極にある間違いでした」と述べています。ここに「現実路線」が見て取れるのですが、「良かれと思って志高く行うこと」にも、地に足に着いたことをしていかないといけないという決意表明に繋がっていきます。(これは現代社会の抱える問題の一つです)
このスピーチの聞かせどころは以下の箇所です。
not A with B「AではなくB」は何かを明確に伝えたい(つまり主張)でよく使われます。「言葉ではなく、行動で」というのはこのスピーチのメイン・メッセージです。耳に心地のいい言葉を言うのではなくて、実際の成果を出していく決意表明とも言えます。
day in and day outとは「日が明ける時も、暮れる時も」→「休みなしに」の意味です。このdeliver forは「~のために約束を果たす」から「尽くす」くらいの意味だと思われます。用例としては"deliver for your family"「家族に尽くす」や”deliver for your company"「会社に尽くす」などでも使われます。
その直後のintegrity「誠実さ」professionalism「プロフェッショナリズム」accountability「説明責任」などは全て企業経営でも重要と言われるものです。
全体として、トラス氏が取り組んだ問題への解決策を「現実的に行っていく」という姿勢が感じられるスピーチです。前任のトラス氏も新首相のスナク氏も有能な方なのですが、解決すべき問題が山積みなので、なかなか乗り越えるべき壁が高いことを感じさせるスピーチでした。
全スクリプトはこちらからご覧ください。
Rishi Sunak's first speech as Prime Minister: 25 October 2022 - GOV.UK (www.gov.uk)
【解説】 スーナク氏はどんな人なのか イギリスの次期首相 - BBCニュース
スナク氏の略歴や人物像などはこちらがわかりやすいです。
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