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【2】まさか、ぼくが研究者に!?

 著者が眼科の臨床医から研究を始めた経験を元に書かれた、研究者に必要な実務スキルを体系的にわかりやすく解説したハウツー本。

「データをまとめて学会発表すれば……に行けるよ」という逍遥派(©️泰平ヨン)っぽい上司に乗せられ、フィールドワークのデータをまとめてみたら、意外な事実が発見できたことに面白みを感じて研究に目覚める。

→ さらに「せっかくデータそろったんだから、論文(英語)書こうよ」とそそのかす上司に、どうせ上司が書いてくれるんだろうと箇条書きレベルで提出したら却下され、やっぱりファースト・オーサーが自分で書くのだと学習する。

→ などなど、これを繰り返しながら、気がつけば研究者の道へ。

 振り返りみるに、自分の場合も、思えば、修士1年の4月に赴任してきた教授の第一声は「一緒に金沢に行こうよ!」だったっけ(笑)。
(その心は「10月に金沢で開催される日本生化学会の年次大会で、これから始める修士研究の成果をを発表せよ」というスパルタ指導の始まり…)

 というわけでその後半年、博士課程の先輩のご指導よろしく、データ取りのために48時間完徹で実験したり、出たデータをステンシルで作図してモノクロフィルムで撮影、即、現像してアゾフィルムに転写してブルーバックスライドの準備、などなど、出発前日までドタバタする羽目になった。
(昭和らしいエピソード、ということでひとつ(笑)。カメラと現像道具一式は研究室の基本装備(笑)。現像作業は光画部っぽくてそれなりに楽しかった(笑))

 とはいえ、生まれて初めて行った金沢は楽しかった(笑)。
 なるほど、これが学会か(違)!?

 自分の場合は、学生時代には英語論文まではたどり着かず、修士論文は教授が英語論文にしてくれたりしたものだった(この本とは逆だ(笑))。
(ググってみれば、その論文にもアクセスできる。便利な時代ではある)

 その後、就職して企業の研究所に配属されても13年は学会発表ひとつできず、くすぶる日々を送っていたが、学会逍遥(笑)への憧れが消えることはなかった……かもしれない(笑)。

 なんとか研究生活が軌道に乗り、気がつけば国内では札幌、旭川から、富山、小倉まで、海外では、アメリカではアリゾナの砂漠、オレゴン、フロリダ、シアトル、欧州ではヴェネツィア、ポルトなどなど、学会逍遥(笑)を満喫してきた。
 その過程で、なんとか博士号も取れた。 いやはや、まったくもって、研究は楽しい(違)!?

 学生啓蒙のための研究入門書といえば、カタイ印象の本が多いこのジャンルの中でも、上記のような研究者の実態?から始まり、「英語論文は10本書けば楽になる」とか、いろいろと生臭くもリアルな実例が紹介される下世話さが、このジャンルの中でも他にない味わいがあり、よい意味で実用性を上げている、と思う。

 自分の場合は、博士号を取る直前に読んだので、その実用性の恩恵にいまひとつあずかれなかったが、いちいち納得することしきり。
 研究や学会に興味のある人は(特に若い人は)本書を読んでみるといいと思う。

 なお、本書には続編があるのだが、こちらは「子供はたくさんつくろう」「教授になろう」「学会を作ろう」など、およそ実用性とは程遠い内容になっているので、研究に興味のある方は『〜研究生活ガイド』だけで十分かと思う。


<余談1>
 学会の会場として逍遥に適した土地が選ばれがちなのは万国共通のようで、スラニスワフ・レムの小説『泰平ヨンの未来学会議』でもそのことが風刺されている。「逍遥派」というのはこの小説からの引用表現である(笑)。

<余談2>
 院生時代は不肖の弟子だった自分の修士論文を英文論文として書いてくださった恩師は、もともと研究の世界ではたいそう偉い方だったのだが、その後「麹菌を日本の国菌に」と随想で提唱したら、それが実現して、現在は「国菌を提唱した人」ということになっている。


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