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【17】論文投稿はまだできないけど、きっと覚えます

「トップジャーナル」?

……って何ですか? と、普通の人は思うだろう。

「医学論文」?

……あ~、自分、お医者さんじゃないし、と、普通の人も、論文を書こうとしている人も思うだろう。

「メディカルレビュー社」?

……へえ~、そういう出版社もあるんだ。お医者さん向けだよね?

 実際、書店でも、専門書コーナーのある大型、総合書店で、普通の人は足を踏み入れない医学書のコーナーの中で、なおかつ、医学専門書よりさらに目立たない、お医者さん向けの学会ノウハウ本の棚にひっそりと置かれていることが多かった本書。

 自分もその存在を知ったのは、研究者として超優秀だった同期が、後輩への指導の時に必ず手渡しているのを目にしてのこと。
 冒頭に挙げたような疑問は最初に手にした時、自分も思った(笑)。

「トップジャーナル」に……

……というのは、例えば「Nature」とか「Science」とか「Cell」とか。
 まあ、ノーベル賞もしくは医学上の大発見みたいなニュースの時に目にするかもしれない有名な学術雑誌のこと。
 「ジャーナル」といえば、「ウォールストリートジャーナル」なんて名前も目にする通りで、本来は一般名詞だが、カタカナで「ジャーナル」「トップジャーナル」と使う場合は、「査読付き論文の載る学術雑誌」を意味することが多い。

「アクセプト」される……

……投稿した「論文」が厳しい「査読」に打ち勝って無事に「ジャーナル」に載せてもらえること。

(このあたりのあれこれは、「【5】論文を書こう」にも書いたので、ご興味ある方はこちらも)

 別に「トップジャーナル」を目指してなくてもいいのだ。
 「トップジャーナル」「アクセプト」されるくらいのつもりで書いた論文なら、トップじゃない「ジャーナル」恐るるに足らず?

 さて、それではどんなすごいノウハウが書かれているのか。
 いや、書かれているのは基本中の基本。

 いちばん重要なのはちゃんと「試験計画を立てて研究を進める」こと。

 普通やってるんじゃないの?

 ……と、突っ込まれてしまうと耳が痛いところだが(笑)、お医者さんも、企業研究者あたりも、ものすごく短期的にはちゃんと試験計画を立ててはいる……ハズだ(笑)。
 ありがちなのは、一回一回の実験にはそれなりの試験計画があったのだろうが、データがたくさん集まったので「論文」でも書いてみようか、と思った時に、たくさんあるデータがばらばらで、どうにもこうにもまとまらない、というケース。

 逆に考えるんだ!

 ばらばらのデータを後からまとめようとするんじゃなくて、最初からまとまったデータになるようにすればいいんだ。
 そうするには、おおざっぱでもいいので、仮に論文になった時のテーマになるような目的は初めから設定して、そのために必要なデータは集めておくようにすること。

 分析とかするなら、何と何を分析するのか。
 当たり前だけど、何年か経って、サンプルがなくなっちゃってからでは、できる分析もできない。

 サンプルの素性も大事だ。
 論文には、使ったサンプルの素性をしっかり記載することになっている。
 いいデータなんだけど、何を使ったのか明示できないと、そこで論文執筆はストップだ。

 次に、「ちゃんと投稿先のジャーナルの執筆ガイドラインを読むこと」

 査読が回ってくるようになるとうんざりすることのひとつはこれだ(笑)。

 みんな、ちゃんとガイドライン読もうよ(笑)!

……と、言いたくなるくらい雑に書かれてる論文のいかに多いことか(笑)。

 そこそこの先生の研究室からそういうのが投稿されてくると、卒業論文か修士論文をそのまま送ってきたんじゃないのか、くらいには邪推したくなる(笑)。(まあ、たぶんそんなところなんだろう(笑))

 あと、「投稿先に普段載ってる論文を読んでおくこと」

 敵を知り己を知らば…、というか、相手の好みを知っておくこと、というか。
 ちゃんと書かれた論文が載せてもらえない場合に、意外と多いらしいぞ、ジャーナルの方針・傾向と、論文内容のミスマッチ。

 まあ、「Nature」とか「Science」くらいならジャンルは問わないだろうけど、「Cell」というジャーナルに細胞のさの字も出てこないような論文を送ったら、そりゃ載らないよね?
 それは極端にしても、普段どういうのが載ってるかわかってれば、載りそうもないテーマの論文をうっかり(?)投稿して、自分の時間と編集者や査読者の時間を無駄にすることも減るだろう。

 一事が万事そんな感じで書かれたこの本。
 論文ノウハウ本といえば、普通は一般的な論文の構成に沿って、論文向きの英語表現などの実例をあげて、初心者に指導しようとする。
 こういう当たり前かもしれないことを単刀直入にズバッと書いてある本は意外と少ないのだ。
 あ、でもこの本は、そういう基本中の基本もちゃんとフォローしてくれているので、その点でも大丈夫。

 だいぶ前の本なので、版元のサイトで確認してみたところ、現在では絶版のようだ。
 論文投稿のガイド本を買っては積んでる(笑)けど、肝心の論文がなかなか書けてない、というような方には、特にオススメしたい良書。冒頭のリンクでは中古価格が高騰してるようだが、それでも入手する価値はあると思う。

 代わりと言ってはなんだが、同じメディカルレビュー社からの本で、最近のオススメはこれ。
 初心者の論文執筆がストップしがちなポイントを実務面から心理面まで、具体例をあげて、初心者の不安を解きほぐしてくれる。
 読んでみたら、かれこれ10年ほど論文を書いてきた身から見ても、なるほど納得な「あるある」の数々。
 今から論文執筆を検討している人には、こちらからオススメしてもいいかもしれない。

 それにしても、かゆいところに手が届きすぎるメディカルレビュー社
……おそろしい子(笑)


<オマケ>

 トップジャーナルの中には、掲載論文のトピックとなるビジュアルを表紙にしてくれるところがある。
 そのビジュアルは著者に任されてるんだけど、論文の内容のイメージイラストでもいい、ということで、それを荒木飛呂彦先生にお願いしてみたら、引き受けてもらえちゃいました、というのがこちらの写真。
 けっこうニュースとかにもなったと思うけど、普通は購読してないと入手できないトップジャーナル「Cell」
 とある学会の年次大会の展示会で、出版社が無償配布していたのでたまたま個人的に持ってるのだ(笑)。
 こういうこともあるので、学会はやめられない(笑)!?

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