【5】恐怖の新聞配達
楳図かずおのマンガを家に置けないほどの怖がりだった子どものころ。
大人になると多少の慣れはあるものの、今でも怖いものは苦手だ。
『ファンタズム』という映画がある。
「背の高い無表情な男がのっそり歩き、謎の銀色の球体が画面を飛び交う」
あらすじといえばそれだけの映画なのだが、これがとにかく怖い!
怖いものはずっと苦手だったのだが、なぜかこれは映画館で観てしまった!
なぜかといえば、アニメ版『がんばれ!! タブチくん』の併映だったからだ。
中学の頃、たまに同級生と映画を観に行くようになった中の一つだった。
『がんばれ!! タブチくん』は期待通り楽しかったのだが、こちらは正直どうしようかと思った。
テレビでやっていた予告編はすごく怖そうだったし、怖いものは苦手だったが、安くはない入場料を払って、2本立ての映画の1本を観ないで帰る、という選択肢は中学生にはなかった。
とはいったものの、こればかりは観て後悔した。
予告編の10倍増しくらいで、めちゃめちゃ怖かったのだ!!
因みに、一緒に行った同級生も自分に輪をかけた怖がりで、たまに隣の席を見ると、眼を覆っていた。
それでも、効果音と声だけでもだいぶ怖かっただろう。
映画館を出ると外は真っ暗。
それも怖かったが、さらに怖いことに、当時、二人とも新聞配達をしていたのだ。
季節はもう冬の始まりくらいで、朝5時くらいは真っ暗。
案の定、怖くてたまらなかったが、眼をつぶるような想いで(本当に眼をつぶる訳にはいかないが(笑))、なんとか翌朝の新聞配達をこなした。
映画の記憶が薄れるまでは、だいぶ怖い思いをした。
さて、「新聞」で「恐怖」といえば、やはり『恐怖新聞』だろう。
同じつのだじろう作品でも、霊の恐怖から守護霊が守ってくれる『うしろの百太郎』と比べると、理不尽に届けられる恐怖新聞に主人公が追い詰められていく『恐怖新聞』のおそろしさは別格だった。
そんな作品の記憶までがよみがえり、あの時の夜の新聞配達は、今に至るも人生最大の恐怖体験である。
因みに、新聞配達にまつわる恐怖体験はもうひとつあって、団地の自分の担当区画の中で、秋口に入るとなぜか蛾が大量発生する家があった。
家の玄関の周辺の地面から玄関まで、差し渡し15センチくらいはある巨大な蛾が、少なくとも50匹以上、びっしりと集まっていたのだ。
玄関のドアの脇にポストがあり、そのポストも蛾でびっしり。
蛾を踏まないようにそろりそろりと近づき、蛾に触れないようにそーっと新聞を差し込むのだが、ここで1匹でも蛾が飛び立ったら、たぶん自分の心臓はショックで止まるだろう、と思っていた。
そのお宅の住民の方が普段の暮らしをどうされていたのかは知らないが、朝になると同じ状態だったし、毎年同じなので、蛾が飛ぶことはまずないと経験でわかってはいたが、それでも怖いものは怖かった。
ということで恐怖映画と恐怖マンガとモンスター映画と比すべき恐怖を内包する新聞配達、中2から高3までの3年半くらい続けた。
高2の時は地区からの推薦で夏の甲子園観戦の選抜にエントリーされたこともあったのだが、面接がしどろもどろだったためか、運動部でなかったためか、残念ながら選には漏れた。
選抜されていれば野球マンガ体験までできたのに、残念なことをしたものだ(笑)。
※2024/10/17 『タブチくん』の声優を担当した西田敏行さんの訃報が伝えられました。ご冥福をお祈りします。