新世紀のビールの教科書
日本ではアルコールが1%を超える酒類を製造するには免許が必要だが、欧米では自家消費程度なら認められている。ということで、いわゆるホームブルーイングはけっこう盛んのようだ。
英国でホームブルーイングをしていてコンテストで入賞歴もあるという著者の書かれたこちらの本などは、使う設備から工程ごとの注意点などをきめ細かく図解してくれていて、ちょっとやってみたくなる(やっちゃいけません)。
ただし、それなりのスペースや設備は必要なので、酒税法で禁止されていなくても日本の一般的な家屋ではちょっと無理っぽいかもしれない。
上のリンクでは新刊で出た時の2倍くらいの値が付いているので、こちらの本は現在は入手困難のようだが、出版当時は日本も含め、各国語に訳されてだいぶ評判にはなっていたようだ。
洋書を見ると、ホームブルーイング向けの入門書的なレシピ集はもともとたくさん出ている。インターネットを眺めると、ホームブルーイングをしている人たちの掲示板(フォーラム)なども盛んだ。
とはいえ、そこで語られていることは主に経験談や伝聞情報で、ざっと眺めても、何が何だかわからない……
……と、そう思っていたホームブルワーのひとりが、ある時ネットでドライホッピングについての研究論文を見つけた。
ホームブルワーではできないちゃんとした実験計画で試験醸造して、いろいろ分析して、どんなことがわかったのか考察までしてある。
普通なら、それを読んで「なるほど」と思っておしまい、というところだと思うが、彼は違った。
「もっとこういう論文が読みたい」と、研究者でもないのにいくつもの学会に入会した。目的は論文を読みあさるため(笑)。
因みに、論文は一報単位でpdf販売もされている。でも、これが高い(笑)。
ほんの数ページの論文でも、数百ページの専門書がまるまる一冊買えるくらい高い(笑)。
ということで、確かにたくさん読みたければ学会に入会した方がいい。学会というのは、入会して年会費を払っていれば、その学会の会誌に載っている論文は読み放題。今の言葉で言えば論文サブスクリプション(笑)。
……だからと言って、普通はそんなことをする人はいない。
だが、ここにいた(笑)。しかも、そのサブスクリプション(?)を活用しまくって、読んだ論文、最終的には数千報!?
そうして、読んでわかったことを順次blogにアップしたところ、一躍、ホームブルーイング界の人気ブロガーに。今では、ホームブルーイングだけじゃなくて、ご自分のクラフトブルワリーも立ち上げているとか。
その人気blogの記事を書籍化したのが『THE NEW IPA: A SCIENTFIC GUIDE TO HOP AROMA AND FLAVOR』。
2019年に発売以降、amazonの beer分野のトップ20以内に必ず表示されるクラフトビール界のベストセラーと言える。
『THE NEW IPA』というタイトルからすると、IPAーーそれも最近登場したニューイングランドIPA/ヘイジーIPAーーに特化した本、たぶんホップの話ばかり、なんじゃないかと思われそうなところ、読んでみると、確かにホップのウェイトは高いものの、麦芽、酵母、発酵、さらにはビールの保存安定性に関する話まである。
巻末の参考文献にあがっている論文はなんと300報以上(それでも、著者の読んだ数のほんの一部!)
ビール醸造全般にわたる体系的な教科書ではないものの、19世紀の論文から2010年代の論文まで網羅して著者の視点でまとめ上げた内容は(ホップへの偏りはあるものの)「新世紀のビールの教科書」といってもいいだろう。
その本を、著者の許可を得て日本語化してみた。
原著と同じKDPのセルフパブリッシングのインフラでのプリントオンデマンドで、表紙、本文レイアウト、ページ数など、ほぼ原著と同じ風合いになるように編集作業を進めた。
あと、せっかくなので、原著の刊行後に発表されたblog記事のひとつ「サヴァイヴァブルズ」もオマケとして追加してある。
クラフトビールやヘイジーIPAに興味のある方だけでなく、ホップがビールにもたらしている香味に(科学の観点で)興味のある方にはオススメしたい一冊である。
※なお、電子書籍と併売にしているものの、登録したファイルにちょっと不具合があって差し替え中なので、ご興味持たれた方にはペーパーバック(プリントオンデマンド)の方を推奨します。