2つの「海底悲歌」

現在上野オークラ劇場で上映中のピンク映画「海底悲歌」であるが、これとは別の「海底悲歌」がある。と言うとちょっと大袈裟だが、最初に上映された大阪芸大の卒業制作上映会の作品とは構成が異なるところがあり、鑑賞後の印象が違っていた。あくまでも個人的な感想だが、学内上映版はピンク映画の条件を満足する青春映画のように感じたが、劇場版はピンク映画館で掛かるピンク映画作品としてより洗練されたように思う。

どちらも予告編を見ることができる。

学内上映版 予告
https://www.youtube.com/watch?v=gj8eH41uL04
劇場版 予告
https://www.youtube.com/watch?v=QgJ6VYuaWN0

予告編の尺が学内上映版に比べ劇場版の方が短かい。映画館で掛ける都合上短縮しただけのようにもみえるが、学内上映版予告編の後半に流れる曲が劇場版には無い。一瞬だが劇場版の本編でも登場しないシーンもある。

この映画は元教師の文乃が教え子の木村と逃避行していく中で、自分に課せられた運命と思っていた殻を破り自分の足で歩き出すという、文乃の物語として描かれている。
劇場版では、木村はその共犯者にすぎない。しかし学内上映版では木村目線の描写がさらにあり、わだかまりの晴れぬまま旅を続ける文乃の気持ちとは裏腹に、憧れの先生とともに魅惑の旅を楽しむ木村がそこにいる。

将来ピアニストになることを志していた木村がピアノを弾くシーンがある。学内上映版では劇場版よりも多く要所要所でピアノを弾いていたが、一部が完全にカットされていた。
廃校で出会った二組の訳ありカップルが意気投合し、バスケや花火に興じる。学内上映版ではその間に、校内の草むらでバーベキューをしながらそこに置いてあったピアノを弾き、束の間の憩いのひと時をすごすシーンがあった。
終盤で登場する小屋にもピアノがあり、木村がピアノを弾いて文乃と和やかに語るシーンもある。どちらも木村が弾くピアノの旋律が彼のご機嫌な気持ちを代弁していた。
その両方のシーンで木村が弾いていた曲は、劇場版の予告編でカットされた往年のヒットソングだった。その曲のタイトルと詞を知っているなら、この逃避行は木村にとっての浪漫飛行だったとも解釈もできる。

小屋を出て雨の降るトンネルから立ち去るラストシーン。記憶が正しければ予告編で掛かっているこの曲のオルゴール版が流れていた。甘いラブソングの郷愁を帯びたオルゴールの音色が、今までの旅をただの思い出にしていくようで、青春映画の終焉を見ているようだった。

一方、劇場版ではこれらのシーンはカットされていた。おそらく使われた曲の商業的な理由なのだろう。
音楽とともに木村の気持ちの描写も映像から無くなったので、木村目線の青春映画としての様相は薄れてしまった。ラストの小屋での二人の和やかな時間も無くなり、文乃の意思で始まった二人のむさぼり合うようなまぐわいが強調され、結果濃厚でエロチックなシーンに仕上がった。
エンディングで流れていた曲もサティーに変わった。短調の物悲しい曲は青春の甘い余韻を醸すことは無く、取り残されただ呆然と立ちすくむ木村の虚しさを引き立てている。ほろ苦い大人の別れ。ピンク映画館の客層を思えば、劇場版としてはむしろこちらのほうが良かったかもしれない。

止むに止まれぬ理由があったにせよ、構成変更の際にそこまで考えていたのだとすると、堂ノ本監督には恐れ入る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?