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適度にないことが小林の魅力、宮崎県での起業と移住〜カフェ「musumi」&ゲストハウス「LOOP」オーナー・上岡唯子さんに聞く〜

LCCのジェットスターが宮崎空港の就航をスタートした2017年からこの5年間、宮崎県小林市にはUIターン人材が続々と起業・創業し、まちを盛り上げています。複合ビル「TENAMU」やコワーキングスペース 「TENOSSE」」など、駅前通りには交流スペースも誕生。かつての空き家には、次々と新たな店舗がオープンしています。駅前通りからすぐ近く、飲食店が軒を連ねる元歯科医院だった空き施設をカフェ&ゲストハウスとして再生し、市民や旅人たちの憩いの場としてコミュニティを築いているオーナーの上岡唯子さんに、小林市への移住と起業についてお話を聞きました。

カフェ「musumi」のオーナーの上岡唯子さん

結婚を機にIターン 夢だったカフェをオープン

神奈川県川崎市出身の唯子さんが小林市への移住を決めたのは、夫・裕さんとの出会いがきっかけでした。裕さんは小林市出身のITエンジニアで、30歳の節目の時を迎えて地元へのUターンを考えていました。2人が出会ってから3ヶ月目に、唯子さんは裕さんと共に、初めて小林市へ訪れました。

「小林が気に入ってしまい、結婚よりも移住の話が先に決まりました(笑)」と当時を振り返った唯子さん。東京の短大で経営学を学び、卒業して6年後にはカフェの経営をしたいという夢を抱いて5年の月日が経っていました。裕さんとの運命的な出会いで、描いていたカフェ経営の夢を小林市で実現する準備をスタートします。

唯子さんは移住前、都心や郊外にあるカフェやレストランなどの飲食店での勤務経験を通して、運営ノウハウを学び、将来的な経営ビジョンを固めていました。「日々の実務の中で、観光客が押し寄せて忙しない都会で働くより、ゆったりとしながらもお客さんと密なコミュニケーションができる西荻窪や吉祥寺のような町がいい」と思い始めていたこともあり、地方都市の小林市は唯子さんにとって「ちょうどいいまち」でした。

カフェの開店準備中をする唯子さん(手前)

小林がなんでそんなに良かったのか?と問うと、唯子さんは「適度にない」という“不充足感”が魅力だったと答えます。

2017年当時の小林は、スーパーマーケットや飲食店など、暮らしに困ることがない町でしたが、東京のように欲しいものがすべて揃っているわけではありませんでした。あったらいいな、という一つがカフェでした。それも、唯子さんがかつて働いていた西荻窪の松庵文庫のような、ほっとする居心地のいいカフェです。

移住者である唯子さんが小林市に無いものをつくり、少しずつ「適度にある」環境へ変えていくことが、このまちで働くことのやりがいにも繋がったそうです。

ゲストハウスと菓子製造も 少しずつ作り上げる

もう一つ、あったらいいなと思っていたのが宿泊施設でした。ビジネスホテルはあったものの、東京で生活していた頃の上岡さん夫婦の友人たちを招いて交流できるような宿が少なかったからです。小林に来てくれる仲間たちと一緒に過ごせる宿があれば、そこを起点に小林や周辺地域への観光案内もできるし、外から来た人たちにもっと小林を楽しんでもらえるのではないかと期待しました。

小林へ移住して1年後、あったらいいなと思っていたカフェとゲストハウスを併設できる、元歯科医院兼院長の自宅だった空き家物件を紹介され、改修工事の計画を立てました。既に唯子さんは市内にカフェをオープンしていましたが、より好立地な物件への移転リニューアルへ踏み切ったのです。

現在、唯子さんが運営するカフェ「musumi」とゲストハウス「LOOP」の改装の大部分は、唯子さんや友人・知人などの仲間たちの手で施しました。コンクリート構造のカフェ施設は、間取りも含めて一から企画したそうです。構想と違うところは、何度もやり直すなど手を掛け思いを込めて作り上げ、着工から1年を経て完成。しかし、竣工のタイミングで新型コロナウイルス感染の影響を受け、いきなり1年の休眠期間を強いられましたが、「このまま何もしないままではもったいない」と、2021年4月に満を持してオープンしました。

ゲストハウス「LOOP」の外観

移住前、東京で生活した頃に毎年訪れていた長野県下諏訪町にある「マスヤゲストハウス」が理想だと唯子さんは語ります。「最初にマスヤゲストハウスに宿泊した時は、それこそ地域にはマスヤぐらいしかありませんでした。しかし、毎年マスヤに宿泊する度に、移住者や新しい店舗ができ、まちが変わっていく姿を目の当たりにしたのです」。

カフェ「musumi」の2階にはコワーキングスペースと夫・裕さんのオフィスもできました。また、唯子さんにとって3つ目のあったらいいな、でもあった「菓子製造」もスタートし、今では飲食・宿泊・販売通販と多角的にビジネスを広げています。

「適度にない」というまちだからこそ一緒に変化を楽しめる素地があり、それが働きがいや生きがいにも繋がるという事例を最先端で作り上げている唯子さんは、小林の魅力についてこう語ってくれました。

「人口5万人弱の小林市は、窮屈さのない適度な距離感と緩いコミュニティで支えられたちょうどいい規模のまちだと思います。地域にないことを作り上げていき、地域の人たちと変化を楽しめるのが良いですね」

上岡さんご夫妻

▼カフェ「musumi」の公式サイト

▼ゲストハウス「LOOP」の予約サイト