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第1回グリーンシアター・ワークショップのご報告

*グリーンシアター・ワークショップ開催の経緯
「サステナビリティ(持続可能性)」は、将来にわたって環境がその多様性や生産性を持ち続け、その中で私たちの社会がその機能を継続していくことのできるシステムやプロセスのことを指しています。いま社会が取り組むべき大きな課題であり、舞台芸術に関わる者も、社会の一員として、意識を高めていく必要のある事柄です。

KAAT神奈川芸術劇場は、2023年3月に「劇場がサステナビリティを考える 〜 環境に優しい舞台芸術」と題した講座を開催し、(https://www.kaat.jp/d/butai202303)イギリスにおいて既に活用が始まっている環境配慮のためのガイドライン「シアター・グリーン・ブック」について学び、舞台芸術と環境を考える場をつくりました。その後、舞台芸術の世界において、環境に配慮し創作や上演をおこなう事例も増えてきましたが、未だその関心は広く高まっている状況とは言えません。

KAAT神奈川芸術劇場では、環境に配慮しながらこれまで以上に豊かな表現を生み出す舞台芸術「グリーンシアター」の姿を考えるために、継続的にワークショップを開催することにしました。このワークショップでは、具体的な事例紹介や課題に対して取組を考えるグループワークを通じて、参加者の理解を深め、実践につなげることを目指しています。
その嚆矢として、2024年6月10日、以下のように第1回「グリーンシアター・ワークショップ」を開催致しました。

開催概要を熱く語る支配人

『グリーンシアター・ワークショップ〜持続可能な舞台芸術を目指して〜』日時 : 2024年6月10日(月)14:00-17:00
会場 : KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
対象 : 舞台芸術に携わるすべての方・舞台芸術に関心を持つすべての方
参加者数: 50名(取材者含む)

 ファシリテーター : 大島広子氏
(舞台美術家、一般社団法人Image Nation Green代表理事)

大島広子氏の写真

ゲスト : 加藤絢香氏(国立劇場制作部伝統芸能課制作係)

加藤綾香氏の写真

環境に配慮しながら豊かな表現を生み出す舞台芸術の実現を目指し、具体的な事例紹介やグループワークを通じて参加者の理解を深め、実践につなげることを目的とし開催しました。

持続可能なプロダクションについて語る大島広子氏

1)シアター・グリーン・ブックについてのプレゼンテーション
(大島広子氏)
2021年にイギリスで発行され、その後10ヶ国語に翻訳され世界的に普及しつつある舞台芸術における環境のガイドライン「シアター・グリーン・ブック」について、「持続可能なプロダクション」「持続可能な劇場建築」「持続可能な運営」の3つのカテゴリーに記された概要が解説されました。また、2024年6月には現場の声を反映し改良が加えられたVer.2が公開され、三つのカテゴリーが統合して進化していること、またイギリスの舞台芸術における政策において、近年環境の持続可能性が推進されるべき重要な課題として取り組みが進んでいるという報告がありました。

イギリスの舞台芸術の環境持続性への取り組み
https://theatregreenbook.com

2)日本の劇場における環境の持続可能性についての調査結果報告
(大島広子氏)

<劇場における環境の持続可能性への取り組みについてのアンケートについての報告>
京都芸術大学舞台芸術研究センター共同利用・共同研究 2023年度リサーチ支援型プロジェクトⅢ 公募研究事業「環境配慮型の舞台芸術創作ための、国内の舞台芸術と環境についての基礎調査及び英国他ヨーロッパのサスティナブルプロダクションの実例調査」の一環として実施し、公共劇場舞台技術者連絡会の各劇場技術担当の方にメールで協力を依頼し、ご回答いただきました。
回答期間:2024年2月13日から2月29日 依頼件数:27館うち23館より回答

 結果:約8割の劇場で温暖化対策や環境への配慮が行われている(資源ごみリサイクル、施設の省エネ化、エネルギー使用の削減)。一方で劇場の運営会議に議題として折りあげられている劇場は半数以下にとどまり、個別の実践と劇場の方針の不一致が見られました。約8割は劇場でも環境への持続可能性に取り組むべきだと回答しており、課題感は共通しているとも言える。今後は社会課題に対してそれぞれの劇場としてどういう方針や立場で取り組むのかを組織内外で明言化し、それに則った実践が行われるということが日本でも必要になると思います。

アンケート結果1
アンケート結果2
アンケート結果3

 
3)イギリスにおけるグリーンシアター実践例の紹介(加藤絢香氏)

2023年7月~12月にイギリスに留学していた加藤さんから、研修先である National Theatre of Scotland (グラスゴー)と Opera North (リーズ)のグリーンシアターの状況が紹介されました。
 
イギリスの舞台業界では、グリーンブックの活用はもとより、環境への高い意識と取り組みが見られました。2つの研修先では、それぞれ独自のグリーン行動計画を策定し、劇場運営から作品制作までのあらゆる状況で環境に配慮した取り組みが行われていました。

NTSのグリーン行動計画

講座では、公演制作のプロセスで具体的にどのような取り組みがあったのかを紹介しました。 プログラムやチケットを電子に移行しペーパーレス化、 車での来場者を減らすためのバス会社との連携、電気自動車の試験的導入など 、様々あります。

グリーンシーズンの取り組み

また、それらの取組みにコミットするスタッフから聞き取った生の意見とアンケート結果を紹介し、困難がありながらも前向きに取り組む研修先の状況が伝えられたかと思います。

アンケート写真

4)グリーンシアター・ワークショップ(ファシリテーター:大島広子氏)参加者が6つのグループに分かれ、グループワークを行いました。時間を決め、まずはお互いの自己紹介から始まり、導入として「サスティナビリティ(持続可能性)」という言葉のイメージを参加者同士でブレインストーミングし、共有するということから始めました。
次に「バックキャスティング」という手法を用い、「30年後にオープンする持続可能な劇場」のプランニングを行いました。

「バックキャスティング」とは、最初に目標とする未来像を描き、次にその未来像を実現するための道筋を未来から現在へさかのぼって記述するシナリオ作成手法のこと。現在から未来を探索する「フォアキャスティング」と比較して、劇的な変化が求められる課題に対して有効とされています。

「30年後にオープンする持続可能な劇場」のプランニングに向けて、各グループからは、それぞれ多くの意見が集まり、環境に配慮したエネルギー使用、リサイクル可能な素材の活用、地域との連携、自然の中に佇む劇場や旅客する劇場など、具体的かつ実践的なアイデアが多数出されました。

参加者からの感想
-満足度: 90%の参加者が「非常に満足」または「満足」と回答。
-コメント
- 「具体的な事例紹介がとても参考になり、実践的なアプローチを学ぶことができました。」
- 「グループワークで他の参加者と意見交換できたことが非常に有意義でした。」
- 「ファシリテーターとゲストの講義が分かりやすく、今後の活動に活かせる内容でした。」

改善点の提案
- 「もっと話し合う時間があれば、さらに深い議論ができたと思います。」
- 「次回は実際の持続可能な舞台技術を実演するセッションもあると良いです。」

*今後に向けて
今回初めて開催したグリーンシアター・ワークショップは、舞台芸術における持続可能性の重要性をあらためて考え、実践を学ぶ場として非常に有意義なものになりました。今後も、継続的に開催し、グリーンシアターを目指すための知識と実践を共有する場をつくってまいります。