栗原白帆

公立高校教員。特別支援校から万年定員割れ普通高校にて特別支援コーディネーターとして11…

栗原白帆

公立高校教員。特別支援校から万年定員割れ普通高校にて特別支援コーディネーターとして11年勤務ののち、現在定時制高校にて勤務。夫、子ども3人、犬2匹。女性が働くための家庭環境についても考察中。

最近の記事

読書感想『15歳からの社会保障』

こんにちは、栗原白帆です。横山北斗さんの『15歳からの社会保障』を読了しました。 これまで「たくさんの人に読まれるといいな」と思った本は数知れずありますが、「これ全員読むべき!!」と思った本は初めてかもしれません。 教科書にしてもいい。それくらいこれから生きていくのに必読の書です。 私は日本の福祉はとても充実していると思っています。欧米諸国と比較しても、そん色ないくらい。にもかかわらずそういう印象が薄いのは、せっかく様々な制度が整えられていても、必要な人がそこにつながりづ

    • 映画鑑賞『プラン75』

      こんにちは。栗原白帆です。アマゾンプライムで「プラン75」を観了しました。ネタバレあります。お気を付けください。 すごい映画でした。観終わった後もずっとこの映画について考えています。 「プラン75」とは75歳になったら誰でも死を選ぶことができるという制度で、超高齢化社会を打開すべく政府が考案したもの、ということなんですが(もちろんフィクションです)、映画の中ではその制度に対する是非を問うことはありません。 映画の中では「「プラン75」がある世界」が淡々と描かれていきます

      • 高校の通級指導1年の振り返り③

        こんにちは。栗原白帆です。 前回に引き続き、通級で行った「働く学習」について振り返っていきます。 今年度の通級で私が「これ通級関係なく、全員知るべき!」と思ったのは、就労スタイルともう一つ、「働く力」についてです。 就職を考えるとき、高校、大学問わずキャリア教育なんかで何をするかというと「適性検査」です。要は自己分析して、自分に何が向いているのか、どんな仕事を目指すべきか、みたいなことをやるんですが、今年度行った「働く学習」では、適性なんて漠然としたものは最後の最後。そん

        • 読書感想『妻はサバイバー』

          こんにちは。栗原白帆です。永田豊隆さんの『妻はサバイバー』を読了しました。 これは摂食障害の妻を支えた夫の記録です。 これまで障害当事者による著書というのはコミックも含めていくつか読んできましたが、当事者の家族の気持ちというのは多く語られてこなかったように思います。健康だったはずの家族が心を壊し、病を抱えていく様子を見続ける気持ちをこれほど克明に描いた文章を、私は初めて読みました。 書き出しの一行目が印象的です。 これが妻の摂食障害を目の当たりにした夫の正直な気持ちな

        読書感想『15歳からの社会保障』

          高校の通級指導1年の振り返り②

          こんにちは。栗原白帆です。 前回に引き続き、勤務校(昼間定時制)で行った通級指導について書き留めていきます。 就労について 通級指導を受けている、いないに関わらず、なんらかの障害がある生徒にとって就労は大きな課題の一つです。 自分で働いて税金を払って生きていけるなら、それに越したことはない。 自分の力で収入を得ることは社会的自立だけでなく、本人の精神的自立にも大切なことだと思っています。 たとえ進学をめざしていたとしても、いずれは就職する日がきます。 その日のために、本

          高校の通級指導1年の振り返り②

          高校における通級指導1年の振り返り①

          こんにちは。栗原白帆です。通級について書き留めていくつもりが、あっという間に年度末が見えてきてしまいました。 1年間を振り返りたいと思います。 今年度T2(といってもほとんどただ見学していただけですが^_^;)として通級指導をした中で最も強く感じたことは、目的地の設定の重要性、でした。まずはそのことから書き留めていきます。 通級の”目的地”とは 目的地とは今苦手なことの中で、何ができるようになりたいか、ということ、つまり授業目標です。 たとえば私が担当した生徒Aは場面

          高校における通級指導1年の振り返り①

          通級指導半年を振り返って。

          こんにちは。栗原白帆です。通級指導が始まって半年経過しました。 現在の状況を書き留めておきます。 今年度通級を受講する生徒は4名。以下はその簡単な生徒情報です。 A 感情のコントロールが難しく、気持ちが高ぶると大声をあげたり物にあ     たってしまう。昨年度から支援員が個別について対応中。手帳未取得。 B 療育手帳取得済み。学習障害で漢字の読み書きが苦手。手先の不器用さ  もある。コミュニケーションに問題はないが、少し思い込みが強い面があ  る。 C 場面緘黙(家庭

          通級指導半年を振り返って。

          勤務高校で通級指導が始まりました。

          こんにちは。栗原白帆です。 私は現在公立の定時制高校で勤務していますが、今年度から通級指導が始まることになり、私も担当者の1人として指導に参加することになりました。 通級指導とは主にソーシャルスキルの獲得を目的とした、取り出し授業のことです。 小・中学校ではすでに多くの学校が始めているので、聞いたことある!という方もいらっしゃると思いますが、高校で通級指導を行うのは、私のいる地区ではまだまだ珍しく、全てが手探り状態です。 以下、簡単にご説明します。 対象生徒対象となるの

          勤務高校で通級指導が始まりました。

          読書感想『辺境・近境』

          こんにちは。栗原白帆です。村上春樹さんの『辺境・近境』を再読了しました。 この少し前に映画化され、アカデミー賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」が収録された『女のいない男たち』を読み返したら、思考がすっかり村上調になってしまい、そのままの勢いで手に取ってしまったのでした。 村上春樹さんの文章って、読んでいるうちに脳を改造されるような感覚になりませんか?頭の中で考えることが全部村上春樹調になるというか…「やれやれ」なんて、めったに口にしないのに急につぶやいてしまったり。 不

          読書感想『辺境・近境』

          読書感想『心を病んだらいけないの?』

          こんにちは。栗原白帆です。斎藤環さんと與那覇潤さんの対話集『心を病んだらいけないの?』を読了しました。 今回の読書で印象的だったのは第5章「話でスベるのはイタいことなの?」にあった「発達障害は、発達します」(P.144)という神田橋氏篠治さんの言葉を引用した箇所でした。 私は高校教育の現場からインクルーシブ教育について考えていますが、学校ってどうしても危険回避型指導をしがちなんです。 「うまくいかないとパニックになるから、やめさせておこう」 「きっと傷つく結果になるから、

          読書感想『心を病んだらいけないの?』

          読書感想『発達障害サバイバルガイド』

          こんにちは。栗原白帆です。借金玉さんの『発達障害サバイバルガイド』を読了しましした。 発達障害の方へ日常生活を送るためのアドバイスをする本はたくさんあります。でも多くの著者は医療関係の方で、医者が患者にアドバイスする、という雰囲気が強い。 それに対してこの本ではADHDと診断された借金玉さんが、自分の経験を通じて得た知見を伝える、という形をとっています。 当事者が、当事者の言葉で語っている。だから説得力がすごい。 いろんな失敗をして、痛い目を見て、なんとかそれを回避する

          読書感想『発達障害サバイバルガイド』

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑦

          こんにちは。栗原白帆です。引き続き診断・情報の共有のメリットについてお伝えしたいと思います。 前回の続きになりますので、よろしければ前回の内容もご一読ください。 ② 自分の障害理解が高まる 前回までのところで、診断名はそれほど重要ではないということをお伝えしました。 学校にとって必要なのは「うちの子はADHDです」という報告ではなく、 「うちの子はADHDです。授業中長時間座ることが難しいので、〇分おきにトイレに行かせてください。予定外のことが起きるとパニックになりやすい

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑦

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑥

          こんにちは。栗原白帆です。日本のインクルーシブ教育に対する考察です。⑤の続きになりますので、お時間ありましたらご一読ください。 前回診断を共有することのメリットについて少し触れましたが、今回はさらに多くのメリットについてお知らせしたいと思います。 ①公正な環境が作れる 現在行われている”インクルーシブ教育”は、一部の限られた大人だけが情報を持ち、支援の必要な子を教室に入れて、何も知らない子どもたちに問答無用で「みんななかよく!みんな一緒に!」と言うだけのかなり強引なやり

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑥

          読書感想『差別はたいてい悪意のない人がする』

          こんにちは。栗原白帆です。キム・ジヘさんの『差別はたいてい悪意のない人がする』を読了しました。 私たちは差別が間違っていることを知っています。家庭でも学校でもそれは徹底的に教えられる。 「差別は間違っていると思う人」と聞けば、ほとんどの人が手を挙げるはずです。 そうであるにもかかわらず、なぜ被差別の人たちはいなくならないのか、この本では徹底的に差別のカラクリについて考察されています。 いわゆる「差別は悲劇だ」「差別はいけない」といった道徳的内容の本とは一線を画した、学術書

          読書感想『差別はたいてい悪意のない人がする』

          読書感想『ある特別な患者』

          こんにちは。栗原白帆です。朝日新聞の書評で気になった『ある特別な患者』を読了しました。 作者はオランダでジャーナリストをしている女性です。彼女が新聞に連載した医療従事者へのインタビューをコラムとして連載したものをまとめたもので、オランダではベストセラーになったとのことですが、納得。 医師も一人の人間なんだということを、痛切にかんじることのできる1冊です。 ただ、私はこれを医療従事者に限った話と読むのではなく、人と接するすべての職につく人たちに共通する感覚を描いたものだと感

          読書感想『ある特別な患者』

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑤

          こんにちは。栗原白帆です。 久しぶりに日本のインクルーシブ教育に対する考察です。④の続きになりますので、お時間ありましたらご一読ください。 ④で、現在の公教育における全体指導(全体主義)の現状と、インクルーシブ教育が相いれないという話をしました。 私が思うインクルーシブ教育は上記のように「受け入れられ、対等に扱われる」というものです。ではどうすればそれが実現されるのでしょうか。 初めの一歩は情報共有 最近では少なからぬお子さんが就学前、入学前に診断をうけています。 少

          今の日本で”インクルーシブ教育”なんて無理なんじゃないか説⑤