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コンサルの技量とは「上下の幅」の広さである

「データ分析×人×ビジネス」の軸で記事を書いています。

私自身が世間一般でいうコンサルタントかというと疑わしいところがあります。ただ一応Big4のコンサルファームにいたことや、事業会社で外部のコンサルタントと対峙してきた経験から一定以上の確信をもっていえることがあります。それがタイトルにもあるように優秀なコンサルタントは上下の幅が広いということです。

いきなり「上下」って何の?となることでしょう。少しもったいぶるようですが、左右(横)の幅というのは想像しやすいと思います。データ分析も知っていれば、マーケティングも知っているし、法務に関してもちょっとした知識がある、といった感じです。こういうのと対比すると上下とは、ある1つの領域の専門性のことと思うかもしれません。

しかし、そうではありません。

上下というのは物事を考える深さに近いのと、どのような深さの内容についてもアウトプットを出せるということです。横の幅の広さというのは「あって当然のもの」で、どちらかというとコンサルの前提条件みたいなものです(色々知っているということは強みになりません)。例えば、以前にある方からこのようなことを教えてもらったことがあります。

コンサルとは方向性を示すのが仕事

これはこれで確かに的を射た指摘であると思います。いわゆる戦略コンサルというのは、ある事業を進めようとしたときに、進むべき道がA,B,Cと3つあり、どれを選ぶべきかを示します(←分かりやすさを優先した説明で正確なものではありません)。要するにクライアントに対して「Bがいいです」というのが仕事なわけです。

少し補足すると、そもそも進むべき選択肢が可能性としてどのくらいあり、そのうち3つくらいにしぼった方が得策ではないか?というのを指し示します。また、Bがいいというよりは、クライアントが「本心として実は選びたいものがある」際に、それが適当かどうかというレンジを見極めながら、それを支持するように促すのです。

ビジネスとは究極的には「直感」がすべてですから、仮に間違った判断をしてしまった場合に

  • 実はやりたくなかったけど、やってみたら、やはり失敗だった

  • 失敗する可能性はあったが、自分のやりたい意志を通して失敗した

というのとでは明らかに異なる結果なのです。長期で物事を考えると、基本的に失敗は避けられません。だから失敗した際に、学びの量が大きい(次の行動の糧となる)選択を選べるかどうかが重要です。実は成功するための選択というより、学びの量が多い選択をすることの方が重要な時も多く(もちろん失敗ばかりではいけないが)、そういう選択の方が難しいのです。これをしないと、より大きな成功に到達できなくなってしまうからです。

このように、非常に抽象度の高い仕事(世間では上流工程と呼ばれるが、私はあまり好きな呼び方ではない)をするのがコンサルタントの仕事の1つです。しかしながら、これだけできるコンサルは優秀な人ではないと思います。なぜならば、自分が事業をしたときに「決めるのは自分」であって、そこに対しての「根拠」などは必要ないからです。根拠が必要なのは、大きな会社で関係者の合意を得るために必要なだけです。一人社長・一人従業員ならば自分が決めるかどうかだけで、いくら根拠を集めても意味がありません(自分が安心するというメリットや、リスクを回避できる可能性が高まるというメリットはある)。

コンサルの底時からは「根拠なき熱意」を表現できるのか?

熱意だけでは話になりませんが、ロジカルに話を組み立てて何をすべきか提言をするのがコンサルの基本スタイルです。でもよくあるのが「あなただったらどうしますか?」と聞かれることです。ロジカルだけで物事を捉え、提案する人間はこれに応えられないのです。なぜなら、大概の場合どんなにロジカルでも「AかBかは僅差」だからです。そもそも分かりにくい問題を解こうとコンサルに依頼しているわけですから、そんな明瞭になるわけがないのです。

そのようなときに、自分が社長だったら何をしたいか(みんなに反対されてでもやりたいと思えるポイントはどこなのか)を「自分なりに」もっていることが大切です。最終的に僅差の物事を決めるのに根拠などありません。想いだけです。しかも、それが本当に自分事として考えて「ねじり出された」主張であるかどうか、これが不思議とエグゼクティブの方々には見抜かれてしまうものです。逆にいえば、そういう想いは伝わるということでもあります。

一言添えておくと「根拠なき熱意」というのは、根拠がないわけではないのです。それはお客様自身やビジネスに触れることで、自分がどう感じてきたかという積み重ねに基づくものです。これは文章や数式やらで表現できないというだけで、経験という根拠なのです。ただ、そういうものは基本的に見えにくい(仮に見えたとしても主観要素が多い)ですよね。だからうかつには信じにくいものであるというのも事実です。

次なるは計画

進むべき道が決まったならば、その道をどう進むべきかも考える必要があります。行ってみれば行動計画みたいなものです。当然、どこかの山を登るのとはわけが違いますから、どう登るかなんて誰にも分りません(かつて初めてエベレストの頂上へ行った人のように)。こういう誰も分からないことに対して、過去の経験からアナロジーで大まかなロードマップと具体的なスケジュールを描くことができなければコンサルとしての価値はゼロに等しいでしょう。

これができない人の言うことを「世界平和問題」と呼んでいます。

たぶん例外なく、多くの人が「世界中の人々が戦争や飢餓に苦しむことなく安心して暮らせるのがいい」と思っているでしょう。そう、世界は平和な方がいいですし、みんなが幸せになった方がいいのです。これは間違いないでしょう。

問題なのは「で?」ということです。残念ながら「~すべきです」といえる人はいても、それは事業会社で長年やってきた人間なら誰しもがそう思っているし、それをしようと挑戦してきています。それでもうまく進められない理由があるわけで、世界平和を唱えられたところで納得するしかないのです。ひどいコンサルは「私は方向性を示すのが仕事です」と割り切ってしまう、これではいけないと思います。

「じゃあ、お前がやってみろ」と言われたときにどうするか?

これまで上下運動のことについて(1)方向性を指し示す、(2)根拠なき熱意、(3)計画を立てるということをお伝えしてきました。イメージ的には上から下にのびている感じです。ここで紹介するのが(4)その計画は自分がやれるイメージで書いたものか、ということです。

よく計画倒れになるのは、計画の立て方がわるいこともありますが、これも多くの場合は「計画の途中で予期せぬことが起こるので諦めない工夫」がされないためです。

そもそも日常生活の中でも計画通りにいくことなど稀だったりします。コンビニでアイスを買おうとしたら、やっぱりしょっぱい系がよくなってチップスを買ってしまうなど。これはあまりに乱暴な例示かもしれませんが、言いたいことは「常に予期せぬ事態は起こる」ということです。だから計画を書いただけでは何も起こらんということです。

自分がやったことある人ならば、「たぶんこのタイミングでこういうトラブルが起きるだろうな」という予見や、それに対しての対処法なども大方は分かっています。それに基づいて作られた計画であるならば、いざ「お前がやってみろ」といわれても「はい!」と自信をもっていえるはずなのです(実際にやるかどうかは別として)。

いざというときは実際にやる

これが最後の(5)自分でやれるかどうかという点です。優秀なコンサルは(1)~(5)まで全てできます。もちろん、毎回の仕事においてそうだということでもありませんし、当然に得意不得意の領域はあります。こちらもビジネスですから要領のわるい仕事は受けない方がいいという側面もあります。

例えば、マーケティングのコンサルティングをやっていて、いわゆる上流設計をするのがメインであっても「いざというときには自分でLP(ランディングページ)をつくる」とか、「広告配信のクリエイティブをつくりセットする」などです。セールスのコンサルタントなら、実際に提案書を書いてお客様のお客様のところへ出向いて仕事を獲ってくるとかですね。

つまるところ、コンサルタントとは「企業人=一人社長」として独立できる要素を持っているかどうかが重要だということです。その要素を持ちつつ、コンサルタントとしての基軸(これは人によって異なる)をもち、第三者ではあるが当事者になるようでならない。こういうスタンスをうまくとれる。換言すれば、武術でいう「いいところに立つ」というのに近いことができるかどうかということです。

そのうえで今回紹介したような上下運動ができるだけ多くできる人が優秀なのだと思います。最後に付け加えておくと、私がそうであるというのではなく、そうありたいと願うことを書かせていただきました。


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