失敗を財産とするために
「あ、これまずいかな」
ほとんどの「失敗」は、おそらく自分で認識しているものだと思います。
(ここで言う「失敗」は、
「期待した結果が得られなかった」
「事故が発生した」
という一般的な意味での失敗です。)
●失敗を報告しやすい仕組みを作ることが重要
そして悲しいかな、人は保身に走り、そのミスを隠したり、気付かないふりをしがちです。自分もそうでしたし、今もそうでないとは言えません。
特に仕事になると、大きな組織であればあるほど、その傾向が強くなります。しかし、長い目で見れば、失敗はできるだけ早く報告したほうが、自分のためにも、また組織のためにもなります。
何故それが出来ないかと言うと、失敗をすることで
恥ずかしい思いをしたくないという社会的本能
が働くことと、
収入や出世に直接マイナス要因となる組織文化
があることによる考えます。「その場を凌ごう」という感情で判断してしまうから、本来合理的でない行動をとってしまうのです。
では、失敗を報告する意識を持つ、または文化をつくるには、どうしたらいいでしょうか。
一つは、情報共有をしやすい空気を、仕組みとして作ることです。
現在は、コミュニケーションツールとして、LINE や Slack など充実しています。こういったツールを活用して、手間のかからない形で、状況を逐次報告できる習慣を作れば、問題が大きくならないうちに、改善に結びつけることが出来ます。
もう一つは、報告の量や質を評価項目とすることです。
チームで仕事を進める上では、失敗に限らず、進捗状況を細かく報告するのが大事です。特に、その進捗により状況変化を伴う、または意思決定が必要となる場合は、チームの方針と違える事が無いかを確認し、合意を取ることが重要です。
私は設計の仕事する中で、今までいろいろ失敗をしてきました。そしてその失敗が、お客様の設備を止めてしまうようなものだと、顛末書や再発防止策などの報告書を提出することがあります。
しかし、その際提出した報告書が評価され、以前より仕事を依頼して頂ける様になった事がありました。
勿論、この場合はクレームなので、それに対する金額的な報酬はありません。しかし、報告に対する評価があると、そのモチベーションが上がります。
通常失敗をすると、報告書の手間がかかる上、キャリアに傷がつく結果になるケースが大半です。しかしそれだけでは、隠したくなるのも理解できます。
失敗の原因や種類にもよりますが、その分析や対応内容次第でインセンティブが与えられれば、情報共有や報告を積極的に行うようになります。
ということで、以前の記事
から間が空いてしまいましたが、「失敗学会」のほうでまとめられている「失敗知識データベース」より、失敗からの学び方と対応の仕方について考えてみたいと思います。
●失敗まんだら
何か失敗をしたとき、その事実の把握や初動の対応のためには、具体的な事象を追いかける必要があります。しかし、そこから学びを得るためには、事実の積み上げだけでは意味がありません。
そこから重要な要素を取り出し、他の事象にも応用できる形の情報として、言語化または図示しておくこと。つまり、
「抽象化」すること
が大事です。
失敗知識データベースでは、「失敗まんだら」という形で、その抽象化のプロセスが示されています。
これによると、そもそも失敗は、
「失敗に結び付く行動と、その行動の原因があって、初めて起こるもの」
としています。よって、失敗を引き起こす要素を
「原因」「行動」「結果」
という3階層に分けます。そして、その要素を
「シナリオ」のアウトライン
として、要素毎に階層を分けて並べていきます。
例えば、
「高速増殖炉」施設の「もんじゅ」で起きた、「ナトリウム漏れ事故」
の例を見てみましょう。
●高速増殖原型炉もんじゅの2次系ナトリウム漏洩
高速増殖炉とは、
そのままでは燃料にならない「ウラン238」を核分裂させ、燃料となる「プルトニウム239」を生成する炉
です。そして、核分裂で発生した熱を回収するのに、
熱伝導率が高く、沸点が高いため加圧の必要が無い「液体金属ナトリウム」
を使用しています。
ナトリウム冷却系は、炉心を直接冷却する「1次系」と、1次系のナトリウムと熱交換して、ボイラの蒸発器や加熱器に送られる「2次系」があります。
(データベースの「図2 設備の概要」参照)
この事故は、2次系のナトリウムが配管から漏れ出したもので、放射能漏れはほとんど無いようでした。しかし、日本の核燃料サイクル事業の肝であった施設の事故であり、1995年当時、原子力関連の事故としては珍しく、かなり大々的に報道されていました。私は丁度高校生でしたが、学校の課題でエネルギー関係の事を調べていた時でしたので、よく覚えています。
事象としては、配管途中に挿入された温度計の「さや管」が、ナトリウムの流れによる振動で疲労し、破損してそこからナトリウムが漏れ出したというものです。
実はこの事故当時、私の記憶が正しければ、「応力腐食割れ」という言葉が新聞の見出しに大きく出ていました。応力腐食割れとは、金属が腐食環境下で応力を受けると、腐食進行箇所に応力が集中し、許容応力以下で割れが発生するというものです。
この言葉自体、もんじゅのナトリウム漏れ事故を切掛けに、世間に認知されるようになったのだと思います。しかし、実際は
さや管形状の設計不良による疲労破壊
でした。
●シナリオのアウトラインを作る
この事例のシナリオを見てみると、
原因・・・御判断~狭い視野~規格不良
行動・・・計画設計~計画不良~設計不良~温度計さや(設計不良)
結果・・・不良現象~熱流体現象~流体現象~流体振動~(以下略)
となっています。
このように、各要素を分類します。そして、
「原因」
↓
「行動」
↓
「結果」
または、
「結果」
↓
「行動」
↓
「原因」
というように、各要素の階層構造を作って、アウトラインとなる項目を並べます。
尚、アウトラインの項目となる要素を分類して絞り込む手法は、また別の機会に述べようと思います。
こうすることで、どの行動とどの原因が結果を生むのかという因果関係が整理され、結果に大きく寄与している要因が何であったのかが明らかとなり、知識化が容易になります。
この事故についても、当初
「応力腐食割れが原因」
とされた背景には、
「配管溶接部の腐食の進行」
という、
「従来の経験則からの思い込み」
がありました。おそらく、このようにシナリオ化されていなければ、未だにこの思い込みをしていた人も多いと思います。
その後、この分析をもとに動燃において、「温度計の流力振動防止のための設計方針」が示され、日本機械学会でも、「配管内円柱状構造物の流力振動評価指針」が作成されました。
●抽象化して教訓を得る
この、
「要素の分類と階層構造化したアウトライン」
を、立体的な「まんだら」により表現します。そうすることで、まんだらの上を螺旋状に思考探索して、より上位の概念、すなわち
「抽象化された要因」
を見出せることになります。それが、
失敗学で言う「知識化」
です。
例えば、先程のもんじゅの事例で言えば、
専門知識のミスマッチ
が、「要因を抽象化して知識化した表現」になっています。
これは、構造設計に関わっている「材料力学」、「熱流体」、「機械力学」のそれぞれの専門家の間で、自分の専門分野を発揮した、設計思想についての情報共有が不十分であったこととされています。
そしてこの事は、複数分野にまたがる問題を、それぞれの分野の専門家が分担して対応しようとした場合、同様に問題になりますよね。つまり、
「失敗の経験を、より汎用的な知識とする」
には、このような抽象化が重要になります。
●「後日談」を盛り込む
しかし、抽象化して知識化したただけでは、
それが有用な知識となるかどうか
が判断できません。
そのため。その後起きた、「同じ施設での関連する事故」や、「類似の要因による事故」など、
「抽象化した失敗知識が応用できる情報」
を盛り込みます。それにより、
「その知識がどれほどの普遍性があるのか」
を、後から参照した人も評価ができるようになります。
このように、失敗事例をただ時系列に整理しただけの情報としておくのではなく、
「シナリオを整理する事」
で付加価値が生まれ、立派な「知的財産」になる可能性もあるのです。
次回は、これに関連して
「失敗要因の分析手法」
について考えたいと思います。