北海道大規模停電を振り返る

 北海道胆振東部地震からそろそろ2年が経とうとしています。

 被災された方々にはお見舞い申し上げます。

 2016年から熊本、大阪、そして北海道と地震が続き、昨年の台風でもライフライン、特に停電による影響が大きく、多くのメディアでも取り上げられていました。中でも、この北海道の地震による広域停電は、大きなインパクトを与える出来事で、「ブラックアウト」という言葉を広く知らしめるに至りました。

 そのため、現在災害に強い電力インフラの整備が、様々な方面から進められています。

●広域停電に至った原因

 さて、このブラックアウトの原因とされるのが、

電気の需要と供給のバランスが崩れる事による、周波数の変動

です。北海道の停電は、苫東厚真火力発電所の停止により、需要に対する供給量が減少したことにより周波数が低下して、停電に至ったとされています(下図)。

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 ただ、実際に起こったことは、それほど単純な事ではありません。

地震による幹線の送電線で事故が起こり、道東エリアが分離

されてしまったのです。

 その結果、

道東エリアでは逆に、供給が過剰

となり、周波数が上昇して水力発電所が停止してしまいました。

詳しくは以下の資料

2019年3月 電気学会全国大会公開シンポジウム
ブラックアウトとはどういう現象か
~北海道ではどのような事象が発生したのか~
(電力広域的運営推進機関)

をご覧ください。

 ちなみに、この時幸い停止中であった泊原子力発電所も、道東エリアになります。

●様々なゴシップ

 この当時、一部の大手新聞社や知識人と言われる人からは、

「泊原発が動いていれば停電はしなかった」

という意見が出されていました。しかし残念ながら、道東エリアでは周波数上昇が起こっており、付帯設備も多く稼働している原子力発電所は、真っ先に切り離されるべき発電所です。

 これはむしろ、そういった

大規模集中型電源に頼った電力システムの、レジリエンスの低さ

というのが正しい評価だと思います。

 また、

「北海道だけの現象ではない」

という意見も散見されましたが、この場合に限って言えば、

「北海道特有の現象」

と言える点が多いです。それは、

「本州より系統規模がずっと小さい」

「本州のように、複数の電圧階級による網目状の連系が無い」

という事です。

 確かに、本州でも可能性は全く無くはありません。実際に、3.11の東日本大震災で、福島第一原子力発電所が事故で停止した時、関東地方は計画停電を余儀なくされました。

 これも、大規模集中型電源に頼りすぎる弊害と言えるでしょう。しかし、この北海道の事例は、非常にレアケースだと考えられます。

 ところで、北海道は積雪や吹雪による事故が多いからか、主要道路沿いでは、高圧配電線が二重化されているようなところをよく見かけました(下の写真)。しかし特高送電線は、275kVまたは187kVの系統が一本道です。

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 ちなみに、配電線はものすごく長く、途中でこんな "SVR"(自動電圧調整器)をよく見かけます(下図)。

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 需要密度が札幌以外は低く、需要家が広範囲にわたるので、仕方がないのです。だからこそ、分散型システムが生きてくるとも言えます。

●周波数を安定させるために

 では、何故負荷かバランスしていないと、周波数が変動するのでしょうか。

 電力系統を身近(?)な例で例えると、たくさんの人が一緒に漕いでいる、タンデムサイクリングみたいなものです。

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 漕ぐ人が発電機です。多ければ多いほど、きつい坂も上れるようになりますし、スピードも安定します。

 しかし、平地ではペダルが軽くなって、スピードが出やすくなります。この場合、自転車を漕ぐスピードが、周波数と思ってください。

 逆に、乗っている人が急に漕げなくなると、スピードは落ちます。そしてペダルが重くなると、別の人も漕げなくなるかもしれません。これが、発電機が脱落した状態です。

 さらにペダルが重くなって、やがて誰も漕げなくなったら自転車は止まってしまいます。これが停電した状態です。

 単純な話、これだけです。何でこんな例え方が出来るかというと、交流の電力系統というのは、発電機の回転力を、磁気エネルギ~電気エネルギを経て、負荷のモータに伝えているイメージだからです(下図)。

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 この場合、もちろん負荷が増えても周波数は下がりますし、脱落すれば周波数は上がります。

 しかし、周波数が変動すると、モータは回転速度が変わってしまいますし、それがポンプに使っていれば、流量や圧力が変わって所定の性能から外れてしまいます。だから、日本の送配電事業者は、周波数の精度を ±0.2 または 0.3Hz 以内と定めています。

 また、もっと深刻なのは、発電機などのタービンが、危険速度で回転して事故につながる可能性があることです。

 回転機の軸は、真っ直ぐに見えても多少曲がっています。また、負荷となるロータには、角度により質量のアンバランスがあります。そうすると、わずかな振れ回りでも、ある回転数で共振により激しく振動します。逆に、回転数が上がりすぎれば、遠心力でやはり振動して危険になります(下図)。

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 そのため、発電機には回転速度が上がりすぎると、出力を下げるように調整する「ガバナ」というものがついており、回転数を一定に保つようにしています。また、蒸気タービンの共振周波数は、定常運転の周波数よりも低いため、周波数が低下すると自動停止するための、「周波数低下リレー」というものが働くようになっています。

 今回火力発電所が連鎖的に停止したのは、このリレーが働いたものと見られます。さらに、系統の途中にも "AFC" (自動周波数制御)装置や "UFR" (周波数低下リレー)がついており、周波数が低下したら他系統と連系したり、一時的に負荷を切り離して、周波数を所定の値まで回復させる制御を行っています。

●分散型電源増加による問題点

 先ほど、

「大規模集中型電源に頼った電力システムに頼った弊害」

ということを言いましたが、現在それを前提とした電力システムのまま分散型電源が増加していった結果、これまで述べた系統の安定について問題が出てきました。

(ここでは、主に技術的な問題について、理解しやすいものだけ取り上げることにします。)

 1つは、

分散型電源がそれぞれ独立して動作すると、需給バランスが管理できない

ということです。だから、太陽光発電などは現在仕方なく、

発電量が多くなりすぎたら出力制限をさせる

という対応をしたりしています。

 2つ目は、

従来の電圧調整システムでは、需要家への供給電圧が高くなりすぎる

ということが起こりました(下図)。

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 電線には抵抗がありますので、電流が流れる方向に電圧が下がっていきます。家の中の配線程度ならほとんど問題にならないのですが、距離が長い配電線や送電線では、これが問題になります。

 従来の考え方では、電力会社が管理する発電所や変電所から、需要家へ流れるという一方通行の電気の流れでした。なので、系統の途中に入れる電圧調整器は、

「需要が上がったら電圧を上げる」

という制御で既定の電圧に収めることができました。

 しかし、分散型電源が需要家側に設置されることにより、従来とは逆の電気の流れが発生するようになりました。しかもそれは安定的ではなく、分散型電源の発電状況により、常に変わる可能性も出てきました。

 従来の考え方であれば、日本の電力システムは非常に優秀で、安定した運用ができるものでした。しかし、最近になって改めて「スマートグリッド化」ということが言われるようになったのは、

分散型電源のような不確定要素が入り込むと、途端に制御が不安定となるロバスト性に乏しいもの

だったことが分かったからです。

 ただ、その制御はとても複雑となり、現代制御理論の最先端の研究対象となっています。また、少しでも制御しやすくなるよう、系統のイナーシャ(慣性)を稼ぐのに、フライホイール蓄電システムを導入したり、インバータ制御において、疑似的な慣性特性を持たせたりという工夫が行われています。

 また、日本の系統を海底ケーブルでアジア大陸の国々と接続し、「アジアスーパーグリッド」と言われる、巨大な電力網を構築する構想もあったりします。

 電力制御の話題は、まだまだネタが尽きなそうですね。

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