タヌキの弁明(3)
お話が後先になってしまいました。順を追って話します。
それから、何もかもがいやになって、ずっと巣穴に閉じこもっていましたら、ひょっこりと親友のウサギが訪ねてきました。一部始終を話しましたところ、
「きっと君はおじいさんに誤解されているから、僕が行って、その誤解を解いてきてあげるよ」
と、勇んで出かけていきました。ところが、何日まってもウサギが戻ってきません。どうしたのだろうと心配していると、10日ほど経ったころにやっとウサギが再び訪ねて来ました。そのときのウサギの様子は、一言では表しにくいのですが、何というか、使命感に燃えているようで、作ったような笑顔を浮かべながら、安全な場所にいながら善意で他人に手を差し伸べ、相手の理解が足りないことも広い心で赦す用意があることを示すというような、うまく表現できないのですが、とにかく人が変わってしまったような印象を受けました。
「おじいさんと随分長い間話して来たよ。まあ、一種の合宿だよ。そこで僕は色々な人と一緒におじいさんのすばらしさに触れることができたんだ。あの方はすごい方だ・・・」
と、ウサギは、おじいさんが心の指導者として格別にすばらしいという話や、この世界の真の仕組みやその背後にある大いなる存在の話などを、私の気持ちにお構いなく、とうとうと話し続けました。簡単に言えば、目がイッてる状態でした。しまいには、
「君も一度、おじいさんのお話を聞きに一緒に来るといいよ。畑を荒らしたり、おばあさんを殺して、その肉を食べたり、それを事故だと言って僕を騙したりしてきたこれまでの罪を洗い流せば、きっと救われるよ」
などといい始めました。私が事実関係を否定し、おじいさんに会いに行くなどとんでもないと渋っていると、
「きっと君の心は、何か邪悪な磁場のせいで曇っているから、まずは肉体的な修行を経て、その磁場を振り払ったあとに、おじいさんの前に出たほうがよさそうだね。よし。明日から修行だ」
と一方的に決めると、修行の準備が大変だなどと独り言をいいながら、隣の山に帰って行きました。
私は、すっかり人が変わってしまったようなウサギに、驚きと失望を禁じ得ませんでした。あれほど互いの心を理解しあっていた親友であるウサギの言葉が、私には殆ど理解できませんでした。そして、私の言葉もまた、ウサギの心にはまったく届かなくなっていたのです。きっとあの頃のウサギは、ある種のマインド・コントロール下にあったのだと思います。私は、私を救おうとしてそんなことになってしまったウサギが憐れでなりませんでした。そこで、ウサギの心を元に戻すことができるかもしれないと淡い期待を持ちながら、ウサギがいう修行とやらに付き合うことにしたのです。
(つづく)