第5話:僕の風俗人生はこうして始まった。
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楽しいままで終わった2日目。
その日も家に帰り、すぐに寝た。ストレスを感じることはなかったが、一日中立ち続けるのは体力的にはキツかった。
このまま毎日フロントでずっとくっちゃべっているだけならどれだけ楽で楽しいことか。明日もフロントがいいな。と思いながら眠りについた。
でもそんなはずはなかった。
僕が働きだしたピンサロはアルバイト、社員、副主任、主任、副店長、店長という役職がある。当然僕はアルバイトで、日当10,000円がお給料。
このアルバイトから社員になることがまず第一段階。3日目からはこの第一段階がスタートした。
社員になるのに明確な規則はなかったが、必要なスキルはこんな感じだった。
①女性の名前を全員覚えられる
②おしぼりが綺麗に巻ける
③お弁当を正確に頼める
④待機場所を常に綺麗な状態にできる
⑤備品管理ができる
⑥1人でフロントに入れる
⑦受付ができる
⑧ホールに入れる
⑨リストに入れる
⑩締めができる
ざっくりこんな感じだった。そう誰かに言われたわけではないが、僕が社員になるまでの間にある程度できるようになったのはこんな感じだったと思う。
見て分かる通り、挨拶やお弁当を聞いたり、雑用を頼まれることはあるが、この段階で女性と関わり何かをすることは一切ない。ホールに「入る」と「回せる」は全く別で、アルバイトが1人でホールを任されることはない。
ちなみにホールとは2階のボックスシートがたくさん並んでいるところで、ボックスシートの中では男女がそれなりのことをしているのを目の前で見るお仕事のことだ。
社員になるために基本中の基本を学び、社員になったら女性について学んでいく。
そして、社員になるまでに「女性の引き抜き」や「他店からのスパイ」じゃないかを見極められる。
この見極めをするのが店長「I」の上にいる部長の「U」だった。「U」は吉祥寺と高円寺の計4店舗を任されている偉い人で、常にお店にいるわけではないが、いるときは4階の事務所を独占して使っていた。
ポケットには常に札束が入っていて、高そうなスーツを着て、時計をして、靴を履いているところはみんなに憧れられていたが、ぶっ飛んだ性格と人間不信、ヒステリックなところがあり、ほとんどのスタッフは「U」が来ると逃げるか、余計なことを話さないようにして、黙々と働いていた。
僕は完全に「U」から疑いの目を向けられ、「あいつはスパイだ」と言われていたことを社員になってから聞いた。
そんな感じだったので、のちに僕が副主任になるまで、「U」とはほとんど距離が縮まらなかった。
3日目から僕は一気に社員になるために必要なスキル①~⑤を叩き込まれた。
フロントに入ることはなく、3階の待機室に一つだけあるスタッフ用の机が僕の仕事場でそこからほとんど動くことはなかった。
やることはまず、女性の名前の暗記から始まった。女性にはそれぞれ番号と名前がついていた。1番○○さん、2番○○さんという感じで大体100人くらいいる女性それぞれの番号と名前を覚える。
ややこしいのは1~100番というわけではなく、124番とかもいることや在籍順やあいうえお順でもなく、その時空いている番号から選んでつけているのでバラバラなところだった。
最初はまず紙にひたすら番号と名前を書いた。ひたすら書いて、10人覚えたら次の10人という感じで覚えていった。
でも途中で限界を感じ、今度は語呂合わせで覚えていく作戦に変更。いい国作ろう鎌倉幕府のような感じで97番○○さんなら「来んな○○」という感じで覚えた。これが意外といけてスムーズに覚えられるようになった。
同時進行でおしぼりの巻き方を教わった。業者から納品されるおしぼりは薬品の匂いがして、湿っている。フロントが2階から駐車場まで下ろした使用済みおしぼりは夜中のうちに業者に回収され、薬品につけて洗濯してまた納品される。
つまり、新品のおしぼりではなく、何度も使用された使い古しのおしぼりなのである。何度も使用とは、もちろん男女の行為の最中に使用されていて、男性のアソコを綺麗に拭き取ったり、行為後に綺麗にしたり、または女性のアソコを拭いたりと基本的にアソコを拭くのに使っている。
おしぼりを巻いているとたまに陰毛が出てくることもある。最初は不快に思ったが、慣れたらなんとも思わなくなった。
おしぼりの巻き方はテーブルに叩きつけて、片手で押さえつけながらグルグル巻く。ベテランスタッフは両手で同時に巻いたりもしていた。
コツは片方の断面だけを綺麗に見せること。おしぼりは巻いたものをカゴに敷き詰めて2階のホールに運び、ホールにいるスタッフがホットボックスの中に補充していく。この時にホットボックスを開けたら見える方の断面だけをとにかく綺麗に見せると女性も気持ちが良いと教わった。
スタッフたちは自分がいかに早く綺麗におしぼりが巻けるかを競い合っていた。のちに僕は机は使わず、立ったまま手だけで綺麗に巻けるようになった。
意外に大変だったのはお弁当の注文だった。スタッフ全員に弁当がいるのかいらないのかを聞いて周り、いる場合は何を頼むのかを聞く。ホットモット意外にもいろんな出前があった。
そして、8時間以上勤務する女性もご飯休憩があるので、その日出勤する女性のうち、誰が8時間以上働くのかを把握し、漏れなく全員に聞きに行かないといけない。サイドメニューからドレッシングの味まで完璧に把握しないと後々大変なことになる。
この時立ち塞がる大きな壁がもう一つある、必死に覚えた番号と名前が実際どの女性のことを指しているのかが全くわからないのである。
頭の中に女性の名前は入っているけれど、実際その女性がどの人なのかは分からない。迂闊に声をかけて間違っていると露骨に嫌な顔をされる。
人見知りな性格だった僕はここが最初の難関だった気がする。名前も知らない人に話しかけること自体抵抗があるし、間違ってしまって嫌な顔をされる時もただ謝るしかなかった。
弁当を注文して、取りに行く時間も決められていて、少しでもずれると方々から文句が聞こえてくる。
それもそのはず、スタッフは待てるが女性は休憩時間は30分。仮にお弁当が到着しなかったとしても、お仕事が入ったら接客に行かなければならない。
のちに知ることになるが、女性の休憩は4名連続で接客に行き、5分休憩の繰り返しで、人気の女性はずっとこのペースで接客に行く。8時間以上働かないと30分の休憩はない。人気になればなるほど過酷になるが、ただ待機していても大してお金を稼ぐことはできないからみんな必死に働いていた。
僕が名前を覚え、おしぼりを巻いている後ろを女性たちはひっきりなしに接客に出ていった。中にはずっと待機している女性もいるが、そういう女性は基本的にスタッフとも女性とも話をしていなかった。
この時の僕はこれがどういうことかはわからなかったし、今僕が女性にできることは、待機室の靴を綺麗に並べ、床にコロコロを掛け、灰皿を交換し、テーブルを拭き、トイレを掃除し、ひっきりなしに出入りする女性に挨拶をすることだけだった。
つづく。
※この話がフィクションかノンフィクションかはご想像にお任せします