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【美術展 感想】塩田千春「つながる私(アイ)」
開催前から行こうと決めていた美術展。
塩田千春「つながる私(アイ)」
大阪 中之島美術館で9/14〜12/1まで開催されています。
比較的に早い時期に行けたのと、平日だったこともあり、人もそんなに多くなく快適に見られました。
インスタレーションを中心に活動されている作家で、空間全体を楽しめる作品は現代美術ならではですね。
塩田千春の作品には「糸」がたくさん出てきます。
展示内でも語られていますが、彼女にとってこの糸とは”繋がり”です。
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まず展示室に入って最初に出会う作品
《巡る記憶》
部屋全体にびっしりと張り巡らされた白い糸に気圧されます。
下には水が張っていて、まるで液晶のよう。記憶の繋がりが世界には溢れている中、自身を投影する画面だと僕は捉えています。
そして、時々水が垂れて水面が出来るんです。他者からの影響というのはこういうものかなと考えながら、僕らの心にもこれくらい穏やかな水面だったらいいんですけどね。
垂れてくる水の量が多すぎると水溢れちゃうよなあとか考えながらこの白い世界に浸ってました。
彼女の作品の中でも面白いなと考えさせられたのはこの絵たち。
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彼女はこの絵に限らず、人と人の間に赤い糸をよく通します。
それは「人と人の繋がり」ですが、それ以外の場所にも上の絵では赤い糸がびっしりとあります。
僕たちは自分たちが感じている繋がりとして、やはり自分に関係のあるものを意識します。
ただ、自分が知覚していない他者同士の中にも「繋がり」というものは存在してるのです。
そうした意味で、人と人の周りも赤い糸で表現しているのだと思います。
現代において、人というのは社会の中で生きていることを意識しちゃいますね。
ただ、外に社会があるように、人はそれぞれ自分の中に「確立した世界」を持っています。
彼女はそれを「宇宙」としていました。
彼女は作品紹介の中で「私の中にも宇宙があり、そして外にも宇宙がある。内的宇宙と外的宇宙をつなぐことで初めて私の存在意義が見えてくるような気がする」と語っています。
下の4枚の絵はその「宇宙」を表していると僕は思っています。
人によって宇宙の形は違い、そしてすべての生物がその宇宙を自身の中に内包している。
これまでの生き方や思想、物の考え方など宇宙を形作る要素は様々です。きっと糸の伸び方だって様々なんだと思います。それが可視化出来たら、もっとみんな生きやすいし、他人の糸も掴みやすいんだろうなあ。
それを出来る限り見えるようにしようというのが言葉なんだと思うんですけどね。なかなか難しい。このnoteを書きながらもそう思います。
「赤い糸」を見ると、繋がり以外にも「血管」が連想されます。
血や臓器に関連した作品も多数見受けられました。
その中でも僕が特に感じたのはこの作品。
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白いキャンパスにまるで毛細血管のように赤い糸が貼り付けられています。
実際僕らの身体は、こんな風に毛細血管が至る所にあるのでしょうね。
僕、毛細血管が太いんです。
だから健康診断でX線検査をした時に白いモヤになっていつも再検査。
そんなしょうもない理由で毛細血管ってやつがちょっと憎い。
「血液」というのは僕たちを構成するものです。ある意味、僕たちの存在というのはこの血液によって成り立っていると言っても良い。
構成する物質である以上、僕たちの思想や考え、言葉にも血が通っているって捉え方も面白いですね。
彼女が大事にしている「赤い糸」って何なのか、自分なりに考えながら見るとこの美術展は更に面白くなると思います。
そして、一般の人に「つながりって何だろう?」をテーマにテキストメッセージを募集し、それを作品に組み込んだこの作品。
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こちらの作品は《The Eye of the Storm》
本展のテーマである「つながる私(アイ)」を表す作品であると思っています。
この舞っているA4用紙1枚ずつにそれぞれ募集したメッセージが書かれています。
これまでも彼女の「つながる」を見てきたわけですが、この作品からは他者との繋がりは言語や思考、それらの共有によって広がるものだと考えられます。
このA4用紙それぞれに宇宙があり、その宇宙によって交わっていない赤い糸が繋がる。本来、1対1で繋がっている赤い糸もこうした同じ問題に関して考えていくことで複雑に絡まり、それが大きな輪として広がっていくのではないでしょうか。
本展のテーマ「つながる私(アイ)」は、3つのアイー「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」を通じてアプローチしていく試みだと概要で語られています。
彼女の作る「糸」は繋がりを可視化してくれます。彼女の作る世界には、社会や他者との繋がりがあり、もちろんその中には愛も存在しています。
愛というものは、とても曖昧だと思うのです。
人それぞれに愛の関係性ってありますよね。
他人から見れば依存だったり、放任だったり、厳しさだったり、優しさだったり。
他者との繋がりを考える時に、愛とは1番と言っても良いほど強い結びつきだと思います。
展示内でも使われている「不在の中の存在」という言葉。
繋がりや記憶から、その場に存在していなくても確かに存在していることを証明される意味合いだと思いますが、それが夫婦だったりカップルだったりの関係性だと、第三者からの目線でも意図せずもうひとりの存在を結びつけてしまいます。
それだけ他の関係とは「繋がり」という度合いが違うものだと思っています。
そして、「私」。
この「私」とは塩田自身であり、僕らでもあるのでしょう。
彼女の自己表現の場である展覧会という場。
こうやってこの美術展について考えている時間も塩田千春という人物と僕らは繋がっています。
そして、これらの作品を見て他者との関係性や社会との付き合い方を再認識し、僕ら人間としての生物の在り方を見つめ直すのが本展「つながる私」だと思うのです。
空間ひとつ切り取っても色々なことが考えられるとても面白い展示でした。
気になったら、ぜひ行ってみてください。