アラビア語学習のために①:学習の進め方と小道具
この記事を読んで得られる情報
どのアラビア語の教科書を選べばよいか。
アラビア語の学習に必要な小道具は何か。
アラビア語の学習をどう進めればよいか。
要はアラビア語の学習を始めようか迷っている人、もしくはアラビア語の学習途上にある人を対象にしています。後半は、ある程度学習の進んでいる人、つまり母音記号の付いていない文章を辞書を引きながら読み始めた人に有益な情報も含まれます。
この記事を読む必要のない人
アラビア語専攻の学生
アラビア語専攻の学生さんは先生方から詳細なレクチャーがありますから、それに従って学習を進めれば困ることはないと思います。しかし、アラビア語専攻ではなくて、第二外国語・第三外国語としてアラビア語を学ぶ方には有益な記事になっています。
アラビア語留学経験のある方
さすがに、アラビア語留学経験のある方には釈迦に説法となるでしょう。アラビア語で書かれた現地の書籍については別の記事で紹介する予定ですので、どうかお待ちください。
アラビア語学習の進め方概略
アラビア語学習の進め方ですが、基本的には他の外国語と変わりないやり方で問題ありません。学習が進むと中国語やフランス語のような一般書店に書籍が並ぶような言語とは異なる点がでてきます。しかし、初級(中級)文法までは、他の言語といっしょで構いません。
以下のようなプロセスのアラビア語学習を想定しています(きわめてざっくりとしたものです)。「他の外国語と変わりないやり方」というのは、3までを指します。
文字と音の習得
初級文法の習得+入門的語彙の獲得
動詞の活用の習熟+基本的語彙の獲得
語根引き辞書の引き方の習得
母音記号の付いた文章の講読
母音記号のない文章の講読
これからそれぞれの段階について、学習の進め方と書籍や小道具類の紹介をしていきましょう。
1.文字と発音の習得
私がアラビア語を学習していることを知った人の多くは「アラビア語って文字が難しいんだよね」と聞いてきます。いつも「まぁ、いやでも覚えなくては始まらないところなので、書いて覚えるしかないですね」と答えています。
結論、アラビア文字の習得は難しくありません。アラビア語のアルファベットは28文字しかありません。日本語の50音よりずっと簡単です。
ここでいう「アラビア文字の習得」というのは、文字の形を覚えて書けるようになること、そしてそれぞれのアラビア文字がどういう音で発音されているのかを知っている状態のことです。日本語でいうと「ぬ」を見たときに、「nu」と発音できて、「nu」を見て「ぬ」と書けるということです。
教科書の冒頭にある文字と発音の項で学べばよい
文字については教科書の冒頭に書いてあることがほとんどなので、それを用いて学習すれば十分。どうしても、それ用の書籍が欲しい場合は次のようなものがあるので、お好みで。
(付属のCDは男性と女性でجの発音が微妙に違うのが残念ですが……。)
発音は教科書の付属のCDを用いるのでOKですが、発音についてしっかり学びたいという方は、以下の書籍があります。マストではありませんが紹介します。
(DVDのUXが大変悪いのが難点ですが、発音に関する一番詳しい和書です)
最近はYoutubeでもアラビア語の発音に関する動画が上がっています。Arabic pronunciationで検索してみてください。
発音はとても大事ですが、完璧主義にならないのがミソです。アラビア語は日本語にない音がたくさんありますから、そもそもすぐに習得できるものではありません。とりあえず、文字を覚えて、(なんとなく)発音が分かったら進みましょう。上で紹介した『大学のアラビア語 発音教室』も文法学習を進めながら気が向いたときに取り組む方が、モチベーションが保たれると思います。
ちなみにアラビア文字に慣れないうちは英語罫のノートを使うのがおすすめです。
(1冊分くらい練習したらアラビア文字は習得できます)
2.初級文法の習得+入門的語彙の獲得
大型書店に行くとアラビア語の入門書はかなりの数あることが分かります。ここでは、「4.語根引き辞書の引き方の習得」に進むことを前提にした場合のおすすめ入門書を紹介します。各書籍の詳細なレビューは別の記事で予定していますので、まずはざっと見ていきましょう。
①竹田敏之『アラビア語とことんトレーニング』白水社(2013年)
総合的に見て、これが一番おすすめです。理由は決定的な欠点がないからです。欠点の少ない入門書って本当にありがたい存在です。もし特別な好みがないのであれば、この『アラビア語とことんトレーニング』を買いましょう。
(長所)
・無理のない分量と構成。
・わかりやすくすっきりした解説。
・語彙の選定が適切で単語帳が不要。
・よく流通しており入手が容易(これが意外と大事!)。
(短所)
・文法項目の網羅性が低い。
・後半はやや駆け足感がある(特に派生形が終わった48課以降)。
➁黒柳恒男・飯森嘉助『現代アラビア語入門』大学書林(1999年)
かつては泰流社という出版社から出版されていた、アラビア語入門書の古典。カバーを外すと真っ赤なことから「赤本」と呼ばれ親しまれてきました。いくつかの欠点はありますが、それを補ってあまりある安定感と信頼性のある書籍です。現在も授業で使用している大学もあるそうです。昔気質の語学学習が好きな方は独学でも進めていけると思います。
(長所)
・基礎文法が網羅されている。
・誤解のない文法解説。
・よく流通しており入手が容易。
・エジプト方言に関する章が面白い。
(短所)
・字が小さい。
・文法解説があっさりしており独学のハードルが少し高い。
・使用語彙が古典的で別途単語帳が欲しくなる。
➂榮谷温子『はじめましてアラビア語』第三書館(2014年)
内容という点では一番おすすめの入門書です。可愛らしい表紙からは想像のつかない文法項目の網羅性と現代アラビア語用法への配慮、そしてアラビア語文法への深い洞察に基づいた記述が魅力です。が、強烈な欠点があり、1冊目の独学書としては難しい面があります。
(長所)
・行き届いた文法解説。
・入門レベルから中級レベルまで引き上げることのできる網羅性。
・お手製感のあるイラストや写真。
(短所)
・版元倒産で絶版状態(!)。・練習問題に解答が付いていない(!)お願いですから練習問題の解答例を公開してください・・・先生。2023/11/07 追記
増補版には解答があるとのご指摘がありました。確認の上訂正いたしました。
➃依田純和『アラビア語(世界の言語シリーズ17)』・『アラビア語別冊』大阪大学出版会(2021年)
大阪大学外国語学部世界の言語シリーズでひと際目立つ400頁超の本、それが依田純和『アラビア語』です。入門レベルからスタートして最終的な到達点は他の追随を許しません。絶対アラビア語を習得するのだ!という強い意志があればやりきることができるかもしれません。一般の方にはおすすめしません。
(長所)
・到達点は類書の中で最高レベル。
・練習問題が極めて豊富。
・アラビア語文法の用語も併記されている。
(短所)
・モチベーションを保つのが至難。
・誤字脱字が多すぎる(これが一番問題)。
・忙しい勤め人やアラビア語専攻でない学生には消化できない分量。
誤字脱字は訂正表が公式HPでDLできますが、その訂正表にも誤りがある上、訂正表で誤字脱字が全く網羅できていません。出版社としての良心を疑います(これについては別記事を作成予定)。
他にも良い入門書があるようですが、未所持、あるいは持っていても丹念に見ていないものなので言及は控えます。また、おすすめできない本もあるのですが、ここでは取り扱いません。
どれにしようか迷った方は、アラビア文字と発音を勉強した後に竹田『アラビア語とことんトレーニング』でOKだと思います。
語彙の学習について
語学学習に語彙の学習は欠くべからざるものであることは間違いありません。ですが入門書に取り組む段階では、市販の単語帳を使用する必要はないと思います。単語帳の学習に割く時間があれば、まずは基礎文法を一周することを優先させる方が良いでしょう。
また単語の習得にあたっても、文法の知識(特に名詞の複数形、動詞の派生形や動名詞、能動分詞や受動分詞など)があった方が効率が良くなります。
①竹田、➂榮谷の書籍を用いる場合は、各課で出現した語彙を覚えていくのがよいと思います。そうすれば入門的な語彙は抑えていると言えそうです。
3.動詞の活用の習熟+基本的語彙の獲得
アラビア語の動詞の活用は規則的ですが、バリエーションに富みます。特に弱動詞(الفعل المعتل)と呼ばれる動詞群の活用には「理屈の理解」と「活用の習熟(慣れ)」が必要です。
よく使う動詞には弱動詞であるものがたくさんあります。たとえばكان،ليس،جاء،وجد،وصل،دعا،حكىなどなど。キリがありません。
初級から中級への飛躍は、この弱動詞の仕組みの理解と活用変化の熟達にあると言っても過言ではありません。弱動詞にはどういう種類の活用があって、それぞれどういった活用変化の特徴があるのかをきっちりと抑えていきましょう。
弱動詞を詳しく取り扱っている書籍は以下のものがあります。
①新妻仁一『アラビア語ハンドブック[増補新版]』白水社(2022年)
アラビア語学習を進めるにあたって、ぜひ手元に置いておきたい一冊。増補新版になって索引が付き、隙のない作りになりました。
弱動詞については、26,27,29,30課の計4課を割いて説明が加えられています。熟読して、実際に紙に活用を書いてみてを繰り返すと必ず上達します。
➂依田純和『アラビア語(世界の言語シリーズ17)』・『アラビア語別冊』大阪大学出版会(2021年)
先ほども紹介した書籍です。弱動詞について相当な紙幅を割いています。他の書籍を使っている場合も、弱動詞の部分だけこの書籍を使っても良いかもしれません。19~23課で取り扱われています。
➃John A. Haywood, H.M. Nahmad, A New Arabic Grammar of the Written Language, (1962).
こちらは、海外で定番となっている文法書です。筆者は『とことんトレーニング』のあと、この書籍で勉強しました。
アラビア語の文法が英語でどのような語彙を用いて説明されているのかを知ることができました。
この本は動詞の説明が充実しており、弱動詞についても細大漏らさず、かつ要領の良い説明が加えられています。弱動詞については、25~30課で取り扱われています。ちなみにアラビア語辞書の引き方を説明した33課は必読です。
アラジンを活用しよう
アラビア語のオンライン辞書があります。その名もアラジン。あまり紹介されることのないサイトですが、日本のアラビア語学習者を陰で支えていると言っても過言ではありません。
知らない語彙を検索する際はもちろんのこと、動詞の活用表も引き出せるので、活用の確認にも使えます。語根引きの辞書の使用を妨げるので、使用を避ける向きもあるようですが、語根引きの辞書とアラジンの両方を使えるのが一番良いと思います。
筆者は、読む文章によって「語根引きの辞書を使うぞ!」・「アラジンを使ってがしがし読み進めるぞ!」と姿勢を決めていました。令和のアラビア語学習者は、紙辞書とオンライン辞書の両方とうまく付き合っていきましょう。
アラビア語の単語帳
市販されているアラビア語の単語帳はいくつかありますが、以下の2種類をおススメします。
①本田孝一『パスポート初級アラビア語辞典』白水社(1997年)
アルファベット順配列の初級学習者向きの辞典です。辞書ではありますが、著者は冒頭で以下のように述べています。
ここに収録されている語彙は、どれも現代アラビア語に必須の語彙ばかりです。あれこれと単語帳に手を付けるよりは、これ1冊の語彙習得を目指して取り組まれることをお勧めします。
➁鷲見朗子・依田純和・福田義昭・竹田敏之・冨永正人『例文で学ぶアラビア語単語集』白水社(2019)
画期的な単語集です。英語や韓国語などの関連書籍の多い言語の単語帳ではスタンダードとなった、出版社HP上での「音声ダウンロード」・「フラッシュカード機能」へのアクセスができる書籍です。
今までは『パスポート』の暗記が主流だったアラビア語語彙学習の新しい定番書になりそうです。選定語彙については、現代の新語への目配りも効いており、まさに今のアラビア語を学ぶのに適しているといえると思います。また、例文については実際の表現活動を視野に入れたものが取り揃えられており、アラビア語を用いたコミュニケーションを目指す方にも有用な本になっています。
ここから先、
・語根引き辞書の引き方の習得
・母音記号の付いた文章の講読
・母音記号のない文章の講読
については、また稿を改めたいと思います。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
気になる点、質問などあれば、
X(旧Twitter)@Neue16
までお気軽に!