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柳宗悦も称賛した「繊維のダイヤモンド」、可部町の山まゆ織って?
今月、待ちに待った『みんなでつくる中国山地』第2号が発刊となりました。私もその中で3本の記事を書かせてもらいました。先日、Social Book Cafeハチドリ舎で行われた、広島県の書き手のみなさんとのトークイベントでは、それぞれの推し記事について6分程度で語ったのですが、伝えたいことがどんどん溢れてきて、気付いたらめちゃくちゃ語ってしまいました!
今回は、第2号の中で紹介した「可部山まゆ同好会」について、書いてみたいと思います。
「繊維のダイヤモンド」と称された、山まゆ織
2021年5月、広島県安佐北区の可部町の「可部山まゆ同好会」を訪ねました。この同好会は1999年(平成11年)に設立され、可部町で明治から大正時代にかけて、産業として盛んだった「山まゆ織(可部紬)」の技術を保存・継承するために活動しています。
山まゆ織は、ヤママユガという蛾の繭から紡いだ糸でつくる織物。一般的なのはカイコの繭を紡いでつくるシルクですが、違いを比べてみると様々な特徴が見えてきます。
まず特徴的なのは、その色。ヤママユガの繭はきれいな黄緑色をしています。大きさも4〜5cmほどと、カイコと比較するとやや大きめです。それを紡いだ糸も美しい黄緑色なんです。
ヤママユガは日本全国に生息している蛾です。きっと見たことがある方も多いのではないでしょうか。夜になるとよく電灯に集まっていたりしますよね。
一方で、カイコは中国原産で、数千年をかけてより効率的に糸がとれるよう改良されて家畜化された生き物だと言われています(そんなこと考えてみたこともありませんでした…)。①群れて過ごすことを好み、視力もあまりよくないため、動き回ることがなく飼いやすく、②年に3回も繭を生産し、③一つの繭からとれる糸が多い、といった特徴があり、「家蚕(かさん)」と呼ばれます。よく知られているように、桑の葉を餌とします。
それに対してヤママユガは野生の生き物なので、①群れて過ごすことを好まない、②年に1回しか繭を作らない、③一つの繭からとれる糸が少ないため、カイコに比べて糸の生産効率が低く、その糸は希少性が高いのです。家蚕に対して「野蚕(やさん)」「天蚕(てんさん)」と呼ばれ、餌はクヌギやカシの葉です。
自然の風雨からサナギを守る機能を持つため、ヤママユの糸はカイコの糸よりもしなやかで水に強く、空気層を含むため軽くて夏は涼しく冬は温かいとして大変重宝されました。江戸時代には侍が刀から身を守るとして、好まれたという逸話も残っているほど。「繊維のダイヤモンド」とも言われています。
可部町で山まゆ織が盛んになった訳
可部町の山まゆ織は、江戸時代に広島藩の特産品ともされ、太田川を通じて全国へ運ばれました。可部だけでは山まゆが足りず、中国山地の各地や信州などからも山まゆを購入していた記録もあるのだとか。全国で見ても、暮らしの中で山まゆ織をすることはあっても、それを産業にした地域は珍しいそうです。それにしても、なぜ可部の町で山まゆ織がこれほどまでに盛んになったのでしょうか。
可部は農地が少ない地域でした。そのため、山に入ってクヌギなどの広葉樹で炭を作ったり、それらで鉄を溶かして鋳物を作ったりしていたそうです。ですから、元々山まゆのエサとなる木が多かったのです。秋や冬になると山に入り、サナギが羽化した後の穴のあいた繭を集めていたそうです。きれいな繭を使う方が、糸が途中で途切れないのでよいのですが、ここは浄土真宗の安芸門徒の地域だということもあり、不殺生の精神を大切にしており、サナギが羽化した後の繭を使っていたのだそうです。現在、同好会でもその精神を受け継いで、穴あき繭を使っています。
さて、可部の山まゆ織がどれほどすごい産業であったか、お分かりいただけたでしょうか。取材に伺った時は、まだたたら製鉄のことをよく知らなかったのですが、改めて伺ったお話を振り返ってみると、広葉樹の森と鋳物産業といった点で、たたら製鉄とのつながりを感じます。ここでも、たたら製鉄が関係していたことに驚きを隠せません。(詳しくは、みんなでつながる中国山地ラジオで!)
次世代に山まゆ織をつなぐ、山まゆ同好会
可部山まゆ同好会では、ヤママユガの幼虫を育て、繭をとり、糸を紡いで、作品を織るという、山まゆ織に必要な工程全てを行っています。会員は40〜50名ほどで、幼虫を育てるのが好きな人もいれば、織物に興味がある人もいます。こうした関わりしろの広さがこの同好会の魅力だなと感じました。
会員の中には、「虫は苦手だけど、ヤママユガだけは大丈夫」という方もいらっしゃるそう。取材中も、ヤママユガのことを「この子」と呼ぶ場面も幾度となくあり、育てているうちに愛着が湧いてくる様子が伝わってきました。伝統をつなぐという大切な使命を持ちつつも、心から楽しんでいらっしゃるのが、とても素敵です。
また、同好会には「ジュニア会員」なる制度もあるそうで、小学校4年生から中学生までの希望する子どもたちが、毎年10人ほど参加しています。ヤママユガの卵から自宅で育てるのは、子どもたちにとっても楽しいだろうな。総合的な学習の時間を利用した地域学習として、地元の小学校とも活動に取り組んでおり、学校の授業で山まゆ織を知った生徒が、大学生になって会員になってくれる、といったことも起こっているのだそうです。
可部山まゆ同好会では、勉強会を開いたり、糸紡ぎや機織りの体験会をしたり、作品展を開催したりもしています。興味を持った方がいらっしゃいましたら、ぜひ同好会のホームページを覗いてみてくださいね。
取材にご協力いただきました西村会長はじめ、同好会会員のみなさま、ありがとうございました!
▲クヌギの木を植えた「山まゆの森」で幼虫を育てている。
▲瞬時に幼虫を見つけてしまう、同好会会長の西村さん。
▲卵を付着させた和紙を、エサとなるクヌギの木に巻きつけて孵化を待つ。