里山の再生から海の豊かさを取り戻す(山口県周防大島町)~ハチドリ舎とのコラボイベント「山と海をつなぐ」その4
ハチドリ舎とみんなでつくる中国山地のコラボ企画「山と海をつなぐ」。第4回は、山口県の離島・周防大島町で「海と大地の再生」に取り組んでいる、海辺の会・白鳥法子さんと、海藻研究者の新井章吾さんをゲストにお招きしました。
ゲストのプロフィール
里海はどうやってつくられるのか?
まずは新井さんから、海のことをインプット。海のことを考える上で、地表から3メートルの比較的浅い部分の地下水の流れに着目することが必要なのだそう。
新井さんは、1次産業の生産基盤を保全・再生・活用する産業を「0次産業」と名付けました。健全な地下水の循環では、山からの養分と酸素を含む水が地下に浸透して、好気性分解されます。
ところが、様々な要因により山に水がしみなくなったことで、嫌気性分解となり、海底から有毒の硫化水素が出ている箇所があるそう。汚泥が海底に堆積し、海藻や貝の種がつけなくなってしまうことも。海底の湧き水が減ったり、生態系にも影響を及ぼしているようです。山に水がしみなくなった原因は、間伐をしなくなったことが7割、コンクリート構造物ができたことが2割ではないかとのこと。
「1970年代に川の環境が変わり、その20年後くらいから海のいろんな生き物が減ってきています」と新井さん。
鉄サビが水路などに出ていたら要注意。嫌気性の分解によって、酸素が通っていない状態になっている証とのこと。川や湖、海が乳青色になっているのは硫化水素が出ている危険なサインなのだそう。
全国各地の、護岸工事を水がしみる構造にしている事例も教えてもらいました。山の耕作放棄地を活用して藪にしないことも、海を豊かにすることにつながっていくそう。
「林縁部の木を切り、水と風の通り道を作る。森や畑を活用し、そこの水が動けば、農業生産量もあがり、キノコが増えて、食べられる野草が増えて、獣害対策にもなり、海も豊かになる。やればできるんです」と新井さん。
周防大島での取り組み
白鳥さんからは、周防大島の取り組みについてのご紹介。
高齢化率が日本一だったこともある周防大島町には、今後地域を守る担い手がいなくなってしまうかもしれないという危機感があります。現在、山では耕作放棄地が半分を占めており、海では漁師が減っているのに魚がとれない状況です。
「山の再生をちょっとしたくらいで、海まで影響がたどり着くのは何十年もかかるんでしょ?」と思っていたという白鳥さん。ところが、新井さんは「流域が限られていて、目の前に湾があるような場所なら、数年やれば改善されると思う」と。それならダメ元でもやってみたいと思ったそう。仲間を見つけて、海と大地の再生をはじめました。(詳しい経緯は、白鳥さんのブログ記事をご覧ください!)
今後は、フィールドにしている佐連地区のみなさんを中心に、里山への手入れを継続していくとのこと。どんな変化が起こるのか、今からとても楽しみです!
さいごに
「森と海は川でつながっていると思っていたけど、湧水というのがこんなにも深く影響していたんだ」とみんなでつくる中国山地の森田さん。中国山地では、地下水の水位が下がっているそうですが、降雪量が減っていることだけでなく、今回の新井さんのお話とつながっていることがわかりました。年配の方から昔の話を聞いてみると、水位が下がっていることもわかるそう。
「大雨が降った時の水の流れが早くなったのは、護岸工事のせいだと思っていたけれど、地面の中に水を通さない層(グライ層)ができていることも大きいんですね」と白鳥さん。川の中も、湧く水と出ていく水と、両方ある状態が健全だということです。
最後の新井さんの「魚が減っているのは日本だけ」という言葉に驚きました。少しでもできることから始めたい、と改めて思った時間でした。「一石を投じることが思わぬ波紋を呼ぶのは、自然に対してもそう。見て、動いて、感じて、読んで、学んでを繰り返していければ。まずはスコップで穴を掘りましょう!」と白鳥さん。
次回のお知らせ
次回は、5月24日(金)19時~21時。広島市で活動している森林ボランティア団体「もりメイト倶楽部Hiroshima」の代表・山本恵由美さんをゲストにお招きします。こちらもぜひご参加ください!
詳細URL:https://hachidorisha.com/event/240524
(レポート:みんなでつくる中国山地百年会議・中尾圭)
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