#1-12 マラッカのチェンドルとの出会い
前回のあらすじ
心も体も前向きになったところで我々の番がやってきた。入口の1番近くの席に着席。お店のおばちゃんがカタコトの英語と身振り手振りで、注文は店の奥で、ということを教えてくれた。さて、何を食べようか。ラクサは2種類、チェンドルは5種類。私たちが同じメニューを頼まないことは前述のとおりなので、ニョニャ・アサムラクサと、ニョニャ・ババラクサを注文することは何も言わずとも決定していた。
チェンドルは1番オーソドックスっぽい、(ラーメンでいうと醤油ラーメン)ババチェンドルにすることにした。「ババ」が何なのかも、氷の上に何が乗っかってくるのかもよく分からないが、とりあえず頼んでみよう。得体が知れないのでとりあえず1つを2人シェアする。
言われた通りお店の奥まで進み、また並ぶ。並びながら作っているところを覗いていたのだが、素晴らしいチームワークに思わず見入ってしまった。注文を聞いて会計をするおばちゃん、器にひたすら氷を入れ続けるおばちゃん、その上にドリアンやら「ババ」やらをかけていくおばちゃん、どんぶりにラクサの麺を入れるお兄さん、そこにスープを入れるおばちゃん。これは今流行りのジョブ型雇用!なんて思いながら待っていると、自分の注文の番がやってきた。
必殺の指差し注文でラクサ2つを注文したところで私の指が宙を彷徨ってしまった。あれ、チェンドルを指したいのに看板がない。仕方がないので勇気を振り絞って「ばばちぇんどる」と単語注文をしてみる。
今度は注文会計おばちゃんのターン。英語なのか中国語なのか、何語かわからない言葉を喋りながら、手は右の方を指している。なるほど、注文会計おばちゃんは2人いたのか。チェンドルは隣の注文会計おばちゃんの担当らしい。改めて、「言葉が通じなくても通じ合える」というのは不思議で素晴らしい。チェンドルも無事注文することができた。
さあ、食べるぞ。ラクサとチェンドルを1つのお盆にのせて、妻の待つテーブル席に戻ってきた。熱々のラクサと、冷え冷えのチェンドルのどちらから食べるべきか。迷いながらもさすがに溶けてしまうので、まずは異国のスイーツから実食。
甘さ控えめで私好みな味!実はチョコとかキャラメルとか甘々なスイーツはそんなに得意ではない。でもチェンドルはそこまで甘くなく、やっぱり和菓子に近いようなお味。最初に「みたらし」と思っていた茶色のタレは黒蜜だった。ココナッツミルクもかかっていて、まろやかに仕上がっている。
食べ進めると氷の中から緑色の細い物体が出てきた。一瞬ギョッとした。それくらい違和感がある。昨日食べたソフトクリームもそうだが、緑の食べ物はあまり見慣れないからか、一瞬口に運ぶのを躊躇してしまう。
後から調べてみたのだが、この緑色の食べ物こそが「チェンドル」らしい。ちなみに、緑色の正体はソフトクリームと同じ「Pandan」。形を変えて2日連続パンダンを食べていたというわけである。おそるべしパンダン。
ラクサも美味しかった。が、かなり辛かった。ラクサというと海老の出汁が効いたものをイメージする人が多いと思うが、ここのは一味違った。辛い。ヒリヒリするほど辛い。なのでラクサを食べて、チェンドルで冷やして、という食べ方が思いの外はまった。チェンドルがいなかったら正直食べ切るのは厳しかったかもしれない。
ちなみに今更だが「ニョニャ」とは女性、「ババ」とは男性を意味するらしい。ニョニャババラクサは男女ラクサ?ということ?単語の意味は分かってもちょっとニュアンスが分からない。日本でも父島母島とか、女体山男体山とか、2つのものを男女で区別して命名していることがよくある。それと同じ感じかな〜とは思うが、そもそも日本にいた時からよく分からない。なので、やっぱり分からなかった。当然である。
まだ外は雨模様だった。お腹いっぱい良い気分で店の外に出たおかげでそこまで心のダメージはなかったが、雨足は強くなっており「土砂降り」と表現しても良いくらいになっていた。
マラッカリバーを渡り、オランダ広場の方に行ってみた。しかし雨が止む気配はなく、むしろ強くなってきた。雨雲レーダーをチェック。このまま外にいれば少なくともあと1時間は濡れることになりそうだ。
こんな時、以前の私なら修行僧さながらに、無理矢理、そして濡れながら、観光地を回っていたかもしれない。しかし、今の私はカフェ休憩を楽しむことができるようになっている。雨雲レーダーからGoogleマップにスマホの画面を切り替えた。