トヨタの苦悩、そして終焉
気を引くためのタイトルだが、現実に起こる話かもしれない。恐竜は変化に対応できず滅びた。トヨタはどうだろうか。
1.はじめに
近年、電気自動車(EV)の普及が急速に進んでおり、その成長は自動車業界における大きな変革をもたらしている。EVはガソリン自動車に比べて使用する部品点数が3分の1であり、水平分業型のビジネスモデルを採用できる。一方、ガソリン自動車はすり合わせが必要な垂直統合型であり、多くの系列企業を抱えている。本記事では、ビジネスモデルの違いによるガソリン自動車業界の課題について考察する。
2.電気自動車の成長と水平分業型ビジネス
電気自動車は環境への配慮やエネルギー効率の向上などの要因から、急速に需要が増えている。欧州では新車販売のうち、EVのシェアは既に10%を超え、未だ上昇気運の衰えがない。一般的にマーケティングの世界では、16%を超えると普及期に入り、その割合は飛躍的に伸びると言われている。EVはまさにこれから普及期に入るのである。
前述したようにEVは部品点数が少ないことから、水平分業型のビジネスモデルを採用することができる。異なる企業がそれぞれの専門分野で部品やサービスを提供し、それらが組み合わさって完成車を構成する。この分業体制により、効率的な開発、設計、生産が可能となるのだ。この点が、ガソリン自動車と大きく異なる。
3.ガソリン自動車のジレンマ
ガソリン自動車製造業界はこの変革を横目に見ながら苦境に立たされている。なぜならガソリン自動車製造は典型的な垂直統合型だからである。
例えば、トヨタグループはトヨタ自動車を頂点にし、デンソー、アイシン精機など下請け、さらにそれらの孫請けなどを擁し、多段階で設計、生産を行っている。(下請け:Tier1 〜 Tier3や4まで)
車1台を設計、生産するために、文字通り孫請けまでの「運命共同体」が車体に合わせた各部品の設計、生産を行う。特徴的なのは部品単位での出来栄えだけでなく、それら組み合わせた状態で要求仕様を満足するようにチューニングすることである。これを「すり合わせ」と呼ぶ。車体メーカーと部品メーカーがお互い支え合っているのである。
このことから、ガソリン自動車メーカーからEVメーカーへのシフトに慎重な理由がわかる。それはこれまで尽くしてくれた下請け、孫請け企業を切り捨て、廃業に追い込むことや、また未だ80%以上ガソリン自動車の生産が占めている中で、下請け、孫請けらの離反を恐れているからである。
つまりガソリン自動車メーカーの苦悩はEVを如何に作るかではない。これまで協力してくれた下請けや孫請けらとどう関わり合いを保っていくことでもある。
4.トヨタの終焉
ジャストインタイムを発明したトヨタは、ガソリン自動車業界で最も広い裾野を擁しているメーカーである。故に、舵を切ることには相当の苦悩があるだろう。また水平分業モデルでの競争ではこれまでの優位性をすべて失うこととなる。
かつて日本の家電産業は、垂直統合型ビジネスモデルによる製品開発と製造の一貫性を重視し、世界的な成功を収めた。しかし、デジタル化の進展とともに、水平分業モデルへシフトが進み、競争力を失しなった。
20年後、「日本の自動車メーカーは活躍していたのに」と呼ばれる時代が訪れるのではないだろうか。