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読書感想文~「小栗の椿 会津の雪」(加部鈴子様)

数日前、一気に読み返しました。
元々、別の場所で知り合った北関東在住のご当地作家のお一人です。私が「鬼と天狗」の執筆前(確か)に「天狗」のキーワードを盛んに呟いていたのがご縁で知り合った方なのですが、夏ぐらいでしょうか。会津にいらっしゃって資料収集されていたのを拝見して以来、どのような作品になるのか、楽しみにしていました。
連載中は週1ほどのペースでnoteで公開されており、私もずっと追い続けていました。
今回、改めて冒頭から一気に読み返し、話の全体像がつかめたと同時に、胸や目頭が熱くなった作品です。



全ては小栗忠順の権田村への隠遁から始まった

当作の主人公は、さい。村の庄屋(多分)の娘です。もっとも、庄屋と言っても実際には郷士クラスの家柄の娘さんでしょうか。
幼馴染かつ兄のような存在、佐藤銀十郎にほのかな恋心を抱いていたものの、それを告げられないままに、二十歳以上も年上の濤市の妻になります。一方、銀十郎は江戸に出て歩兵としての訓練に励み、旗本の一人である小栗上野介忠順に仕える身となったのでした。

それから時は流れ慶応4年。さいは、夫のことはそれなりに愛おしさを感じつつも、銀十郎のことはどこかで心に掛けていました。
そんな折、幕閣との権力争いに敗れた小栗は上野国群馬郡権田村(現群馬県高崎市倉渕町)に土着します。隠遁の歴史的事情としては、既に大政奉還を行い政治の一線から退いていた徳川慶喜に対し、小栗の意見は「反新政府側」と見なされていた……という事情がありました。
小栗は静かな生活を送っていましたが、やがて、小栗が総督府側の本営(石上寺)に出頭して勤皇の意を表明しなかったために、反逆の意思ありと見なされてしまいます。
閏4月4日、小栗は東善寺にいるところを捕縛され、その2日後、取り調べもされないまま一方的に斬首されてしまいました。

その小栗には、妻と従妹いとこのよき(小栗の養女に迎えられていました)、そして小栗の母がいました。死の直前、小栗は地元の者らに家族を託し、会津方面へ脱出させます。
小栗は会津藩の若手家老、横山主税ちからと面識があり、彼を頼るよう指示していたのです。
この時、奥方のお腹の中には、小栗の子が宿っていました。身重の奥方や母堂様、よき様を皆で守りつつ、一行は悪路難路を越える逃避行の旅に出ます。主人公のさいも、夫の濤市に後事を託し、父たちと共に自らの意思でこの一行に加わるのですが……。

――というのが、物語の始まりです。

上州のたくましい女性たちと男性陣

主人公のさいを始め、この話では上州の女性たちのたくましさ、そして男性らがそんな女性たちに惚れ抜き、各々が自分なりのやり方で彼女らを守ろうとする姿が印象的でした。
たくましい女性陣も魅力的なのですが、男性陣も個性豊か。特にさいの幼馴染である佐藤銀十郎は、名前に聞き覚えがある気がして、連載中もずっと気になっていた次第です。
さいの恋心に気づきつつも、敢えて知らんぷりしていたのは、きっと彼なりの優しさ、愛の形だったのでしょう。そして、そんなさいの思いに気づきつつも、暖かい目で見守り、少しずつ時間を掛けてさいに寄り添おうとしてくれる濤市が、後で大きな役割を託されていたことがわかります。

濤市が託されていた使命とは何なのか。最後にそれが明かされる時、涙せずにはいられませんでした。
決して派手な役回りではないのですが、年齢を重ねた私が夫に選ぶのだったら、濤市かなあ……という気がします。

上州の人々と会津の人たち

小栗上野介の家族が会津に逃れてきたのは、私も資料で読んだ記憶がありました。多分、河井継之助伝か会津戊辰戦記だったと思います。(両方かも)
特に会津戊辰戦記は、拙作「直違の紋に誓って」において、会津城下戦及び白虎寄合隊についてリサーチしていた関係で、結構本作(「直違の紋~」)にあまり関係ないところまで、読み込んでいました。
ですが、小栗の奥方が身重の身だったのは、私も加部様の作品で初めて知った次第です。戊辰戦争の悲惨さは、どこの場面を切り取っても胸が痛む場面が多いのですが、その中において、小栗の奥方の出産シーンは希望を与えてくれる一コマでした。

そして、先の「銀十郎」の名前に見覚えがあった理由が判明した時、再び涙せずにはいられませんでした。
佐藤銀十郎が熊倉で共に戦った、白虎寄合隊。その中には、遠藤嘉龍二という少年がいました。彼が戦死する場面も胸が痛むのですが、この少年の兄の名は、遠藤敬止。そう、あの会津鶴ヶ城の敷地を私財を投じて守ったという人物です。それだけでなく、「直違の紋~」において、敬止は主人公の武谷剛介の義兄(敬司)のモデルとして登場させていました。つまり、嘉龍二は「直違の紋~」の世界において、遠藤家が失った次男、「竜二」に該当する人物です。
「直違の紋~」でも竜二は既に戦死しているのですが、彼が熊倉の戦いで戦死したという設定はそのまま嘉龍二の話でもあるのです。

その嘉龍二を救おうとした銀十郎はどうなったのか。
それはネタバレになるので内緒ですが、上州兵が白虎寄合隊と共に戦ったというのは、会津の人にとっても色々と考えさせられるエピソードではないでしょうか。

上州における戊辰戦争

戊辰戦争というと、どうしても会津戦争か箱館戦争が取り上げられることが多いように感じます。
ですが、実際には東日本の各地で戦闘が繰り広げられ、各種の悲話が伝えられました。私が取り上げた二本松藩の戦いもそうですし、他には長岡藩や庄内藩など。後は、やはり浅田次郎氏の壬生義士伝での南部藩と秋田の戦いも、外せませんね。

そのような中での、上州における戊辰戦争。それは、小栗上野介忠順が処刑がきっかけでありながらも、会津の人との縁をつなぐ話ともなりました。
上州ではどのような戦いがあったのか。加部様の作品を通じて、多くの人々に知っていただけたならば、幸いです。

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