見出し画像

【長編小説】私がホス狂と呼ばれるまで #14

【↓↓↓ 1話からどうぞ ↓↓↓】


主な登場人物

  • 福井ふくい玲奈れな:26歳のOL。柔らかい雰囲気と愛嬌で好かれやすく穏やかな人生を送っていたが、過去の結婚詐欺をきっかけにホストクラブ通いに依存する生活を送る。友人の友香やカウンセラーの支援を受けながら、依存から抜け出そうとしているが…。

  • レン:本名、島崎しまざき廉也れんや。ホストクラブの人気ホスト。客の心を巧みに掴み、お金を引き出すプロフェッショナル。表向きは明るく魅力的だが、本心は計算高く、冷静に利益を優先する人物。

  • 田辺たなべ友香ゆか:玲奈の中学時代からの親友で、数少ない信頼できる存在。明るく気さくで、困っている人を放っておけない性格。社会人になっても玲奈との関係を続けており、彼女を心配している。

  • 青木あおきとおる:玲奈の職場の先輩で、穏やかで真面目な性格。玲奈に恋心を抱き、彼女を支えるために金銭面でも尽くしてきたが、彼女の本心に気付き始め、距離を置こうとしている。


14-1 覚悟

週末の夜。
玲奈はベッドに寝転び、天井を見つめていた。手に持ったスマホには友香とのLINEのやり取りが表示されている。玲奈は友香が自分を気遣い、食事に誘ってくれることが増えたが、それだけではレンに会えないという根本的な問題の解決策にはならないこと実感していた。

(友香が奢ってくれるのはありがたいけど…結局それだけじゃ、レンくんに会えないんだよね…。)

玲奈は軽く息を吐き、玲奈とのチャットルームを閉じた。代わって、青木との過去のトーク履歴をスクロールする。

(青木さんから誘ってくれたら、一番手っ取り早いんだけどな…。)

先週、自分から誘った時に断られて以来、青木からは一切連絡が来ていない。これまでなら、1週間も放っておかれることなどなかった。

(どうしてだろう…。青木さんそんなに忙しそうにしてたかなぁ?もしかして別の女…?)

玲奈は青木のどことなく冷たく感じたあの時の反応を思い出すと、次第に不安と焦りが胸の中に広がっていく。もし青木がもう自分のことを…そんな考えが頭をよぎってしまう…。

(でも、このままじゃ…。レンくんに会えない。)

レンと会えない時間は、どんどん玲奈の内側の闇を引き出していく。玲奈は何かを覚悟したように目を見開き、スマホを握りしめ、何かを打ち込んでいた―――


14-2 取り戻したもの

青木はソファに深く腰を沈め、手に持った缶ビールをぐっと傾けた。少し高めの地ビールで、お酒好きの青木は、少し前までは奮発して嗜んでいたが、ここ数か月は”ある女”のせいでなかなか手が出せないでいた。
久しぶりに感じるビールの芳醇な香りと、舌に広がるコクが、疲れた体に染み渡る。

テーブルの上には、小皿に盛られたチーズや生ハム、クラッカーが並んでいる。青木はその中からスモークチーズをひとつ摘み、ビールで流し込む。「最高だな」と独り言ち、薄く笑みを浮かべた。

ここ数か月、あの女との食事に散財していた日々を思い返すと、自分の時間とお金を取り戻した解放感がじわじわと湧いてくる。あの女が一度微笑みかければ、財布を緩めてしまう自分の愚かさにも呆れたが、今ではそれもいい教訓にすら思えた。

(結局、あの笑顔にどれだけ騙されてたんだろうな…。)

懐かしむようにそんなことを考えながら、スマホを手に取る。アルバムを開くと、あの女と食事の席で撮った写真が数枚目に付いた。

(見た目は好きだったんだけどなぁ…やっぱこういう女はダメだよな…。)

その時、スマホが小さく振動し、画面上部にLINEのバナー通知が来た。送信者は、やはりというべきか”あの女”だった。

「はぁ…」

青木はため息をつき眉をしかめた。
メッセージが2件届いている。

「また金が欲しいって言うんだろ…?」

苦笑いを浮かべながら、通知をタップする。
画面が表示されるまでのわずかな時間、青木はどう断ろうか考えていた。

(もう突き放すか…いやあえて丁寧に行くか…?)

しかし、画面に映し出されたメッセージ内容に、思わず心臓がリズムを変えてしまった。

「今からここに来てください。待っています。」

青木は首をかしげ、眉間にしわを寄せながら2件目のメッセージを確認する。2件目には地図アプリのリンクが添付されていた。

「何だこれ…?」

リンクをタップすると、地図アプリが開き、表示された場所にピンが刺さる。青木は画面を見つめ、しばらく思考が停止した。




その場所は、街はずれにあるラブホテルだった。

続く


(この物語はフィクションです。実在する名前及び団体とは一切関係ありません。)

【前話】

【次話(最新話では表示されません)】

いいなと思ったら応援しよう!