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【長編小説】私がホス狂と呼ばれるまで #10
【↓↓↓ 1話からどうぞ ↓↓↓】
主な登場人物
福井玲奈:26歳のOL。柔らかい雰囲気と愛嬌で人に好かれる性格だが、どこか流されやすい一面もある。中学時代からの親友・友香を大切にしており、周囲からの評価も良いが、プライベートでは孤独を抱えている。
レン:本名、島崎廉也。ホストクラブの人気ホスト。客の心を巧みに掴み、お金を引き出すプロフェッショナル。表向きは明るく魅力的だが、本心は計算高く、冷静に利益を優先する人物。
田辺友香:玲奈の中学時代からの親友で、数少ない信頼できる存在。明るく気さくで、困っている人を放っておけない性格。社会人になっても玲奈との関係を続けており、彼女を心配している。
佐藤真理子:冷静で共感力の高いカウンセラー。心理学に基づき、クライアントを導くプロフェッショナル。
10-1 再会
玲奈は、待ち合わせ場所である駅前のロータリーに立っていた。約束の時間までまだ30分ほどあるが、どうしてもじっとしていられず、早めに家を出てしまったのだ。
(やっと会える…!レンくんに最高の私を見せるんだから!)
家で入念にセットしたヘアアレンジを指先でそっと整える。風で前髪が揺れるたびに、スマホの黒い画面に反射する自分の顔を確認し、微調整を繰り返した。
(…ちゃんと可愛く見えるかな?レンくんの好みに合ってるかな?)
高鳴る胸を落ち着けようとするが、それは不可能だった。
ふと、佐藤や友香の顔が脳裏をよぎる。彼女たちが心配そうに自分を見つめる表情や、玲奈を助けようと必死に声をかけてくれた言葉が思い出される。
(これって裏切りだよね…。)
胸の奥にわずかな痛みが走る。しかし玲奈にはこの痛みをどう解釈してよいのか分からなかった。
来た!レンくんだ!!
レンが玲奈の視界に入り込む。ゆったりとしながらも堂々とした雰囲気で近づいてくるその姿は、周囲の景色をすべて霞ませるほど魅力的だった。
玲奈の心臓は鼓動を速め、頬が自然と熱くなる。先ほどまで感じていた友香や佐藤への後ろめたさは、レンの眩しすぎる光の影となって消えていった。
(どうしよう…やっぱり、私はレンくんが好き…。こんなに素敵な人、他にいないもん…。)
レンが笑顔を浮かべ、玲奈を見つける。その瞬間、玲奈は自分が特別に選ばれたような感覚を覚えた。
「玲奈ちゃん、早いね。待たせちゃった?」
「い、いえ!私が早く着いただけ…!」
レンが軽く笑うと、それだけで玲奈の心は一気に満たされていく。彼女は自分の選択が間違っていなかったと信じ込み、すべての思考をレンとの時間に集中させたのだった。
10-2 道中
夕焼けが街並みを橙色に染める中、レンと玲奈は予約したイタリアンレストランに向かって歩いていた。
ふと、レンが何気ない口調で話しかける。
「最近連絡なかったから、少し心配してたんだよね。」
その言葉に玲奈は一瞬足を止めそうになった。驚きとともに、胸の奥が強く締め付けられるような罪悪感が押し寄せる。
「そ、そんな…!ご、ごめんなさい。あの…忙しくて…でも本当は、ずっと会いたかったの!!」
玲奈は慌てて答える。
その様子を見ながら、レンは優しい笑顔を浮かべる。
「忙しいなら仕方ないよね…でも正直、寂しかったよ。玲奈ちゃんに嫌われちゃったんじゃないかなって。」
玲奈はその言葉に目を見開く。
(そんなわけない…!私がレンくんを嫌いになれるはずないもん!)
彼の言葉が、玲奈の罪悪感をさらに増幅させると同時に、レンがそれだけ自分を必要としてくれているとも感じ、安心感をもたらした。
「…本当にごめんなさい。でも、私にとってもレンくんは特別だから…。これからはもっともっと会いたい…!」
玲奈の言葉は、緊張と嬉しさで少し詰まりながらも真剣だった。レンはその答えに満足したように微笑むと、軽く玲奈の肩を叩いた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。でも無理しないで。これからもずっと玲奈の笑顔見たいからさ。」
その言葉に玲奈は心の中で歓喜した。
(レンくんは私をこんなにも必要としてくれる!それなのに、レンくんから離れようとした自分が許せない…!)
その瞬間、玲奈はレンへの思いを再確認し、彼との時間を何よりも大切にしようと決意する。
二人の距離は歩幅とともに縮まっていき、玲奈の世界は再びレン一色に染められていくのだった。
10-3 現実
店のドアを開けると、玲奈の目に飛び込んできたのは大きなガラス窓から差し込む柔らかな夕暮れの光。店内はウッド調のインテリアで統一され、センスを感じさせる光景が広がっていた。
駆け付けたスタッフに予約名を伝えると、案内されたのは窓際の席だった。そこからは通りを歩く人々の姿がよく見える。玲奈は、ガラス越しに視線を感じるような気がして、背筋を伸ばした。
(この光景、通行人にはどう映ってるんだろう?こんな素敵な男性と一緒にいる私が、きっと羨ましいはず…。)
レンが隣でコートを脱ぎながら微笑む。その笑顔だけで、玲奈は全身が熱くなるような感覚を覚える。
「このお店、前から気になってたんだよね。さすが玲奈ちゃん。」
「よかった…!レンくんが喜んでくれて、私も嬉しい!」
玲奈は自然に笑顔で返したが、その声には少し緊張が混じっていた。
メニューが手渡され、レンが真剣な表情でページをめくる。どの料理も写真が美しく、名前だけでも洗練されている雰囲気が伝わってくる。その中でも特別に目を引くデザインが施された「期間限定」のページにレンの目が留まった。
「あ、これ美味しそう。期間限定だし、こういうのは逃せないんだよね。」
彼が指差したのは、どのメニューよりもひときわ高価な一品だった。玲奈の心がざわつく。
(レンくんらしくて素敵……でも、値段が……。)
「玲奈ちゃんはもう決まった?」
玲奈は、その言葉に反射的に「うん。」と答えてしまう。
レンがウェイターを呼び、迷いなくそのメニューを注文する姿を見て、玲奈の胸は複雑な思いで満たされる。
玲奈はネットで予約する段階から食べたいメニューを決めていたが、レンの選択によって、迷いが生じていた。
玲奈は笑顔を保ちながらメニューを見つめるが、心の中は計算と葛藤でいっぱいだった。
(ど、どうしよう…。本当はこれを食べるつもりだったけど…レンくんの料理と合わせるとお会計が……」
玲奈は、メニューの中で比較的価格が控えめで、かつ、レンにその真意がバレない程度の絶妙な価格の料理を選ぶ。
「えっとぉ……私は…これで…。」
メニューを指す指が震えないように必死だった。
メニューが下げられると、玲奈は一瞬ホッとする。
(レンくんと一緒にいられるのに私は何を躊躇しているの…。)
レンが何気なく話を始める。その声を聞きながら、玲奈はまた少しずつ現実の不安を押しやっていた。
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続く
(この物語はフィクションです。実在する名前及び団体とは一切関係ありません。)
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