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ゲームの案件配信に"PR"表記は必要か(消費者庁のステマ規制)
これまで直接的な規制のなかったステルスマーケティング、いわゆる「ステマ」の規制について、消費者庁が検討を進めています。
2022年12月2日には、検討会の報告書案が公開され、同月27日、パブリックコメントへの回答案が公開されました。
現時点で、報告書案の段階ではありますが、重要な規制ですので、ゲームの案件配信との関係で、簡単にご説明いたします。
1.規制対象
(1)規制の方向性
今回の報告書案では「ステマ」を、景品表示法上の不当表示に加えるという方向性が示されています。
具体的には、景表法上の不当表示には、①優良誤認、②有利誤認、③指定告示で定めるものがありますが、このうち、③に「ステマ」を加えるという方向性です。
※ ゲームに関する優良誤認・有利誤認については、過去のnoteをご参照ください。
また、「ステマ」の定義案も示されており「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」との案になっています。
ごく簡単にいえば、「消費者が広告であることが分からない広告」を「ステマ」として規制する、という方向性です。
(2)ポイント
「ステマ」の定義は、以下のとおり分解できます。
①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、
②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
つまり、①の表示に該当した場合、基本的には、明瞭に「PR」・「広告」・「プロモーション」等の表記をすることが必要になります(表記しないと②にも該当し、「ステマ」=不当表示になります)。
そして、①の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合をいうとされています(報告書案38頁)。
ここでのポイントは「決定に関与した」という部分です。
「決定に関与」というと、事業者がインフルエンサー等に、広告の内容を指示するような場面を想像されるかもしれませんが、そうではなく、単に「他の事業者にその決定を委ねた」場合も含むなど、かなり広い場面を指します(23頁、東京高判平成20年5月23日)。
報告書案では、例えば、事業者がインフルエンサーにSNSの投稿をさせる場合のみならず、インフルエンサーに投稿してもらう目的で、商品を無償で渡すなどの結果として、インフルエンサーが事業者の目的に沿った投稿した場合も(事業者が投稿内容を指示していなくとも)「ステマ」にあたるという例が示されています(39頁)。
2.ゲームの案件配信への影響
(1)案件配信は「ステマ」になるか
案件配信とは、厳密な定義はありませんが、事業者が対価を支払って、YouTuber等に自社ゲームの配信を依頼して宣伝してもらうことを指します。
そして、個別の事情によるものの、現状の案件配信は、今回規制される「ステマ」に当たるものも多いと考えます。
案件配信では、事業者は、あまり細かく配信内容を指定しないことが多いと思われますが、前述のとおり、事業者が内容を指定したか否かは関係なく、投稿を依頼すれば「決定に関与した」(他の事業者にその決定を委ねた)と判断される可能性があります。
そうしますと、案件配信には、明瞭に「PR」・「広告」・「プロモーション」等の表記をした方が穏当ということになります。
ただ、現状は、このような表記はほぼ見られません。
従いまして、この報告書案の方向性で規制が進む場合、配信タイトルや説明欄・SNSの告知などに、明瞭に「PR」等の表記を入れる必要が出てくるでしょう。
(2)「PR」等の表記を入れる場合の留意点
表記を入れる場合は、以下の点に留意する必要があります。
一般消費者が認識できないほど短い時間でしか表示をしていない場合(長時間の動画において冒頭にのみ表示する場合を含む)は不十分(43頁)
視認しにくい位置に表示する場合や、周囲の文字と比較して小さく表示する場合は不十分(43頁)
大量のハッシュタグの中に埋もれている場合は不十分(43頁)
※ YouTubeの有料プロモーション設定(「プロモーションを含みます」の自動表示)で足りるかについては、明言されていません(パブコメ回答案39頁)
※ 実態として、配信者が配信内で案件であると繰り返し伝えており、リスナーも理解できる配信内容である場合は、表記がなくとも問題ない可能性はあります。ただ、個別判断となるため、この場合も表記した方が無難と考えます。
3.若干の補足
「ステマ」については、「第三者が事業者から表示内容について一切の情報のやり取りが行われていない場合」は当たらないとの記載もあり、この文言の解釈によっては、自由にプレイさせる案件配信は「ステマ」に該当しない可能性もあり得ます(40頁)。
ただ、「やり取りが行われていない場合」は、限定的に捉えた方が穏当と考えます。
まず、以前のnoteでも記載しましたが、この文言は、アフィリエイト広告の指針にも同種の文言が存在するものの、どのような場合を指すか判然としません。
また、運用基準等でこの点が明確にされる可能性もありましたが、パブコメ回答案では、詳細を尋ねる意見に対して、消費者庁からは「個別具体的な事案ごとに判断されるものであることから、これ以上の記載すること[ママ]は困難」との回答がされており(45頁、62頁等)、明確にされる可能性も低いと考えます。
従いまして、「やり取りが行われていない場合」として、「PR」表記を不要とすることは、ややリスクがあると考えます。
なお、消費者庁は、現時点での具体的な線引きをできるだけ避けている印象があります(今回公開されたパブコメ回答案を見ても、「個別具体的な事案ごとに判断されるものであることから、これ以上の回答をすることは困難」との回答が多い印象です)。
そのため、当面の間は、「ステマ」については、セーフティに「PR」や「広告」の表記を行う方向で対応せざるを得ないように思われます。配信サイトの設定(プロモーション設定等)で足りるのか、どのような表記が必要か(タグの数や表示位置等)といった点もポイントになるでしょう。
消費者庁の運用基準も制定予定であり、今後の動きにも注目する必要がありそうです。