R6.3.15版「AIと著作権に関する考え方について」の速報解説①
2024年3月19日、「AIと著作権に関する考え方について」の3月15日版が公開されました(以下「考え方」と表記します)。
AIと著作権との関係については、今後は、まず、こちらの内容を把握したうえで検討することが重要と考えます。
そこで、2月のパブリックコメントの内容を含めて、速報的に「5.各論点について」の内容を抜粋し、ご紹介いたします。
以前のnoteやITmediaさんでの解説と一部重複する部分がございますが、ご容赦ください。
なお、「考え方」には、2023年12月20日版、2024年1月15日版、1月23日版(パブコメ対象版)、2月29日版(パブコメ反映版)、3月19日版が存在します。各種解説等を参照される際は、いずれの版についての解説等であるか、ご確認ください。
※ 速報の性質上、内容を適宜更新する場合があります。
「考え方」の位置づけ
本文の解説の前に、「考え方」の位置づけについて、簡単にご説明いたします。
「考え方」は、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が、AIと著作権に関する論点を整理して、小委員会の考え方を示したものです。
2024年1月23日から2月12日まで行われたパブリックコメント手続きでは、異例の24,938件ものコメントが集まり、これを踏まえて内容も一部修正されています。
「考え方」は小委員会の一定の考え方を示すもので、法的な拘束力はなく、裁判になった場合に、裁判所が「考え方」に沿って判決を出すわけでもありません。
※ 3月15日版では表紙にもこの点が追加されました。
※ この点は、各団体等からパブリックコメントで指摘され(パブコメNo.8,10など)、該当の記載が拡充された経緯があります。
しかしながら、各論点についての判例・裁判例の蓄積には時間がかかりますので、少なくとも当面は、「考え方」の整理を把握して検討することが、実務上重要になると考えます。
「考え方」の構成
生成AIと著作権の検討においては「開発・学習段階」と「生成・利用段階」とを、それぞれ分けて考える必要があります。
「考え方」でも、①開発・学習段階、②生成・利用段階に分けて、それぞれ見解が示されています。また、③生成物の著作物性、④その他の論点についての見解も示されています。
なお、分量の都合により、本項では、①開発・学習段階について紹介いたします。②生成・利用段階については、以下のnoteをご参照ください。
Ⅰ 開発・学習段階
1 検討されている論点
「考え方」では、墨付き括弧で取り上げる論点が示されています。
学習・開発段階での墨付き括弧は以下のとおりです。
・【「非享受目的」に該当する場合について】
・【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
・【侵害に対する措置について】
・【その他の論点について】
このうち、最初の2点につき、前提知識がないと分かりにくいかと思いますので、少しご説明いたします。
生成AIの開発・学習段階においては、著作権法第30条の4の規定が非常に重要になります。
最初の2点は、以下の条文の太字の要件を指しています(太字筆者。以下同じです)。
すなわち、法第30条の4により、著作物は「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」は、必要な限度で、著作者の同意なく利用することができます(この目的を非享受目的といいます)。
ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、利用することができません。
生成AIの開発・学習段階においては、他人の著作物を利用しますが、著作権法第30条の4を根拠として行われることが多いところです。
そこで、上記の要件をより精緻に検討する必要があり、最初の2点でもこの要件が検討されています。
2 【「非享受目的」に該当する場合について】
(1)議論の前提
先程ご説明したとおり、法第30条の4に基づいて著作物を利用するには、「非享受目的」が必要になります。
法第30条の4は非享受目的の例として、「情報解析…の用に供する場合」(第2号)を挙げていますので、AI学習のために行われる場合を含め、情報解析の用に供する場合は、非享受目的ありとして著作物の利用が可能です。
ただ、近時、「非享受目的と享受目的が併存していた場合はどうなのか?」という点が議論になっていました。
例えば、特定のイラストレーターのイラストを複製し、意図的に元のイラストをそのまま出力させることを目的としてAI学習させるような場合です。
この場合も「情報解析の用に供する場合」に当たり、非享受目的はあるといえます。
しかし、この例では元々の表現(イラスト)をそのまま享受する目的があるともいえ、この場合に法第30条の4による利用を認めて良いのか、という点が議論されていました。
(2)「考え方」の見解
「考え方」では、利用行為に複数の目的がある場合、「この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。」との見解が示されています。
つまり、上記の例のような学習を意図的に行う場合は、享受目的が併存するため、法第30条の4による利用行為は行えないとの点が明示されました。
別の例として、「学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合」に関して、「学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存する」との見解が示されています。
こちらは、1月23日版、2月29日版で文言が追加され、やや読みづらくなりましたが、要するに、学習データの特徴の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加学習のための利用を行う場合で、学習データの特徴が現れた生成物を出力する目的と評価されれば、享受目的が併存するため、法第30条の4による利用行為は行えないとの見解です。
※ 3月19日に、赤松議員から文化庁に対する「例えば『ラブひな』のキャラの絵だけを複数枚追加学習させて、意図的に読み込ませた絵と、表現のコアな部分について共通した絵を出力する、という目的を持って学習させる場合には、「享受目的がある」という考え方になるか?」との質問に、文化庁から「追加学習の程度等にもよりますが…『考え方』でお示ししている享受目的が併存する場合にあたり得る」との回答がありましたが、これは、こちらの部分を指した回答と考えられます(2024年3月19日参議院文教科学委員会9:54頃)。
※ なお、生成・利用段階で、学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、この事実だけでは、享受目的を推認はできないとされています。ただし、生成が著しく頻発する事情は、学習段階の享受目的を推認する要素になり得るとの見解も示されています。この点は、削除を求めるパブコメが出されておりましたが、記載はそのまま残りました(パブコメNo.104等)。
※ 2023年版から、LoRAを意識した記載が拡充され、一定の場合に、享受目的が併存する(法第30条の4による利用行為は行えない)との見解が示されています。この点は、3(2)①で後述します。
(3)補足(RAG等について)
少し毛色が違う話として、検索拡張生成(RAG)など、生成AIが著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成する手法についても見解が示されました。
具体的には、RAG等については、非享受目的がなく、法第30条の4での利用はできない場合がある一方、一定の条件下で、法第47条の5第1項第1号又は第2号により「軽微利用」に限って認められるとの見解が示されています。
こちらも重要な点で、パブコメにおいても、少数ながらかなり強く修正を求める意見出ていましたが、今回は割愛いたします。
3 【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
(1)議論の前提
先程ご説明しました通り、法第30条の4により、非享受目的であれば著作物は自由に利用できますが、例外として著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、利用することができません(法第30条の4但書)。
しかし、この要件はやや抽象的ですので、どういった場合に、著作権者の利益を不当に害するといえるのか(≒AI学習のための複製等が行えないのか)が議論されていました。
(2)「考え方」の見解
「考え方」では、以下の4つの例について、見解が示されています。
① アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
② 情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について
③ ②の具体例(学習のための複製等を防止する技術的な措置が施されている場合等の考え方)
④ 海賊版等の権利侵害複製物をAI 学習のため複製することについて
それぞれご紹介いたします(「考え方」22頁以下)。
①アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
【「考え方」の見解】
・「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI 生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しない」
・「他方で、この点に関しては、本ただし書に規定する「著作権者の利益」と、著作権侵害が生じることによる損害とは必ずしも同一ではなく別個に検討し得るといった見解から、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI 生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。」
・「特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行う場合」について「当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している」だけでなく「創作的表現が共通する作品群となっている場合」には、「追加的な学習のために当該作品群の複製等を行うことにおいて享受目的が併存し得ることや、生成・利用段階において、生成物に当該作品群の創作的表現が直接感得でき、著作権侵害に当たり得ることに配意すべきである」
【コメント】
いわゆるLoRAを意識した見解が示されています。
まず、著作権法は、表現を保護する法律であり、アイデアを保護する法律ではありません。
そのため、アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されても、生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しない(=著作物は非享受目的で利用できる)との見解が示されています。
他方で、反対意見として、「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI 生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見」が紹介されています。
つまり、アイデアが類似するものが大量に生成される場合(例えば、アイデアのみが共通する、●●さん風のイラストが大量生成される場合)でも、特定のクリエイターの需要が代替される事態があり得る、そして、その場合には、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得る(=著作物は利用できない可能性がある)との見解です。
こちらは、委員の間でも、激しく意見が対立したことが伺われます。
何故なら、パブコメにおいて「読み手にとって可能な限り明確な記載となるよう、できる限り両論併記を避け、本小委員会の審議において委員間で多数を占めたと考えられる意見を本文に記載し、これ以外の意見を脚注に記載することとしています」との考えが示されており(パブコメNo.45等)、この原則に反して、本文に両論が併記されているためです。
実際、パブコメでもこの点の意見は、激しく対立しており(パブコメNo.169-185)、今後、裁判等で争われる可能性も高い論点と考えます。
なお、なお書きにおいては、作品群が共通してクリエイターの作風を有しているならば、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあるとの見解が示されています。
この場合、「特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習」を行うために複製を行うと、享受目的が併存し得る(法第30条の4による利用行為が行えない可能性がある)ことや、生成・利用段階で著作権侵害にあたり得ることが示されています。
②情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について
【「考え方」の見解】
・「本ただし書に該当すると考えられる例としては、…「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が既に示されている。」
・「例えば、インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供するため記事等が提供されているのに加え、データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPI が有償で提供されている場合において、当該API を有償で利用することなく、当該ウェブサ
イトに閲覧用に掲載された記事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、本ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならない場合があり得る」
・(脚注28)「この点に関して、インターネット上のウェブサイトに掲載されたデータについては、AI 学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスが、後述するウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述により制限されていない場合、「(大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が)販売されている場合」に該当しないことを推認させる要素となるものと考えられる。もっとも、この点に関しては、AI 学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスが、”robots.txt”への記述により制限されていないという事情は、クローラによるAI 学習のための複製が著作権侵害となる場合に、当該複製を行う者の過失を否定する要素となるにとどまるとの意見もあった。」
【コメント】
「データベースの著作物が販売されている場合」の複製の例は、既に令和元年の文化庁資料で示されていました。
「考え方」では、より具体的な例として、以下の例が「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当する(=著作物は利用できない)との見解が示されました。
①インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供するため記事等が提供されている
②データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPI が有償で提供されている
③当該API を有償で利用することなく、当該ウェブサイトに閲覧用に掲載された記事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する
ただ、この点については、AI開発者がクローリングをする際に、上記のような例を除外してクローリングするのは不可能であり妥当ではない、等のパブコメが出されていました(パブコメNo.191等)。
そこで、パブコメを経て脚注が追加され、「クローラによるウェブサイト内へのアクセスが、…ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述により制限されていない場合、「(大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が)販売されている場合」に該当しないことを推認させる要素となるものと考えられる。」との記載が2月29日版に追加されました。
しかし、個人的には、”robots.txt”への記述によってアクセスが制限されていないことをもって「販売されている場合」に当たらないことを推認するというのは、解釈としてやや違和感がありました。
3月15日版では、記載が追加され、「”robots.txt”への記述により制限されていないという事情は、…複製を行う者の過失を否定する要素となるにとどまるとの意見もあった。」との反対意見も紹介されています。理論的にはこちらが自然とも思われますが、この点も、裁判例の蓄積が待たれる部分です。
③ ②の具体例(学習のための複製等を防止する技術的な措置が施されている場合等の考え方)
【「考え方」の見解】
・「立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難」
・AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置として既に広く行われているものがある
(例)ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、AI 学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
・「AI 学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ、このような措置が講じられていることや、過去の実績(情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の作成実績や、そのライセンス取引に関する実績等)といった事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合には、この措置を回避して、クローラにより当該ウェブサイト内に掲載されている多数のデータを収集することにより、AI 学習のために当該データベースの著作物の複製等をする行為は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、本ただし書に該当」することが考えられる。
【コメント】
今回の「考え方」のポイントの1つです。
AI学習を防ぐ方法と、それに関する法的な効果はこれまでも論点として議論されていました。
「考え方」では、
①AI 学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられていること、
②当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認されること、
③①の措置を回避して行うAI学習のための複製等であること、
を満たした場合、法第30条の4但書にあたる(≒AI学習のための複製等が行えない)との見解が示されました。
学習を希望しない著作者の措置が明確になり、法的な効果も明示されることは、著作者・AI開発者双方にとって望ましい方向性と考えます。
なお、脚注には、本文の記載と異なる意見が紹介されています(この脚注は、2023年版には存在せず、2024年1月15日版・1月23日版で追加されています)。
①の措置を回避するAI学習の複製等であっても、潜在的販路を阻害する行為に当たるとは限らず、また、当たるとしても、法第30条の4但書にあたらない(≒AI学習のための複製等は可能)、という意見
こちらの意見のうち後半部分は、潜在的販路の阻害が、第30条の4但書(著作権者の利益を不当に害することとなる場合)には当たらない、という意見です。
潜在的販路を阻害する行為に当たると評価される場合であっても、これに含まれる個々の著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為に当たるとはいえず、当該個々の著作物との関係で本ただし書に該当するわけではない、とする指摘
こちらは、データベースの潜在的販路を阻害しても、個々のデータ(著作物)の潜在的販路を阻害しているとはいえないため、個々のデータについては第30条の4但書(著作権者の利益を不当に害することとなる場合)には当たらない、という意見です。
この点は、AI学習の可否に直結する論点で、考え方が分かれやすい部分でもあります。最終的に裁判で争われる可能性もある論点と考えます。
このあたりは、「考え方」脚注30に対するパブコメや、パブコメを踏まえて、データベースの著作物が現在販売されていること及び将来販売される予定があること等の情報が、権利者から事業者等の関係者に対して適切に提供されることを促す追記がされた箇所も興味深いですが、割愛いたします。
④海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて
【「考え方」の見解】
・「AI 開発事業者やAI サービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、…当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。」
・「特に、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものである。」
・「ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行ったという事実は、…当該事業者が規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性を高めるものと考えられる」
・「海賊版等の権利侵害複製物を掲載するウェブサイトからの学習データの収集を行う場合等に、事業者において、…少量の学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行う目的を有していたと評価され、当該生成AI による著作権侵害の結果発生の蓋然性を認識しながら、かつ、当該結果を回避する措置を講じることが可能であるにもかかわらずこれを講じなかったといえる場合は、当該事業者は著作権侵害の結果発生を回避すべき注意義務を怠ったものとして、当該生成AIにより生じる著作権侵害について規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる」
【コメント】
海賊版を生成AIで学習した際の責任に関する見解で、それほど特異な見解ではないと考えます。
なお、規範的な行為主体との点は、生成・利用段階の項でご説明いたします。
2023年版からの変更として、4点目の部分が追記されています。
これは海賊版に限った話ではありませんが、簡単にいえば、事業者が、特定のクリエイターの著作物の影響を強く受けた生成物が出力されるように学習させた場合に、生成AIによって生じる著作権侵害について、一定の条件下で、侵害主体になる可能性があることが示されています。
4 【侵害に対する措置について】
(1)議論の前提
AI学習において著作権侵害が生じた場合、民法・著作権法上、損害賠償請求(民法第709条)に加えて、差止請求(著作権法第112条第1項・第2項)が可能です。
また、差止請求のうち予防措置の請求の一環として「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄請求も可能です。
ただ、具体的な措置として、何がどこまで認められるのかは明確ではなく、例えば、学習済みモデルの廃棄が認められるのかなどについて、議論がなされていました。
(2)「考え方」の見解
「考え方」では、以下の2点について、見解が示されています。
①将来のAI学習に用いられる学習用データセットからの除去
②学習済みモデルの廃棄請求
①データセットからの除去については、
「著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合」に認められ得るとの見解が示されています。
単にデータセットに含まれているだけでは足りず、学習に用いられることで、侵害行為が生じる蓋然性が高い場合にのみ除去が認められるとの考え方ですので、似たイラストが高確率で生成されるAIに利用される場合など、やや限定的な場面で除去が認められることになるかと思われます。
②学習済みモデルの廃棄請求については、
「考え方」は、「AI学習により作成された学習済モデルについての廃棄請求は、通常、認められない」としつつ、以下のような見解を示しています。
「当該学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態にある等の場合は、…当該学習済モデルが学習データである著作物の複製物であると評価される場合も考えられ、このような場合は、…当該学習済モデルの廃棄請求が認められる場合もあり得る」
こちらは、既に紹介した、特定のイラストレーターのイラストを複製し、意図的に元のイラストをそのまま出力させることを目的としてAI学習させるような場合などを、念頭に置いたものと考えられます。
この場合、作成された学習済モデルは、高確率で学習済みの著作物と類似した生成物を生成しますので、学習済モデルが学習データである著作物の複製物などと評価され、廃棄請求の対象になる場合がある、という見解です。
5 【その他の論点について】
法第30条の4による利用は、「その必要と認められる限度において」との限定が付されていますが、「AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではない」との見解が示されています。
このほか、法第30条の4以外の権利制限規定について、若干触れられています。
Ⅱ 生成・利用段階
少し長くなりましたので、「Ⅱ 生成・利用段階」につきましては、以下のnoteをご参照ください。
こちらの記事が、何かの参考になりましたら幸いです。
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